第3話
「いま配った冊子の後ろの方に、ちょっとボリュームがあるけど、238問の設問があるからしっかりと考えて答えてね。その答えを以ってスパコンに搭載のAIがマッチングしてくれるからね。テキトーなこと書いちゃだめだからねぇ~」
ユミちゃんの指示があり、生徒がみんなペラペラと冊子を捲っていく。回答の仕方は、ハイとイイエの他、どちらでもないとやや○○とかあり五者択一の問題になっている。正直面倒しかないので、さっきまで元気だった生徒もため息を漏らしている。
この回答を解析することによって疑似夫婦の最良の相手をAIがマッチングしていくらしいのだが、このご時世柄LGBTQやらなんやらも考慮してカップリングをするという難解なシステム。何人のエンジニアが明けない夜に涙したか想像に難くない。
同一校内に相手がいなければ近隣学校も含め、それでも見つからないなら近接する自治体の学校も合わせてマッチングするのでほぼあぶれることはないという。ただし例外もなきしもあらずで、1割弱程度の不適格や不一致が出てしまうこともあるという。
「じゃあ、冊子の最初の方から説明していくよ。質問は最後にまとめて聞くから、途中はそのまま聞いていて頂戴。じゃ、2ページ目から―――」
ユミちゃんからの説明が始まる。ホームルーム中に説明されるのはあくまでも冊子を読めば分かる概要部分とのこと。
詳細や具体的な内容については後日マッチングが完了したあとに、行政から説明要員が学校にやってきて説明会を実施する事になっているので問題はないようだ。
「―――っと言うことです。じゃぁ質問ある人~」
「ユミちゃんとはマッチングしないんですかぁ?」
教室がどっと湧く。ユミちゃんも一応未婚女性なのだ。だいぶ年上になるが生徒の中には彼女を魅力的に見る輩も少なくないと聞く。
「あら、犬塚くんはわたしみたいなオバさんがマッチングしちゃ困るでしょ?」
「え~、ユミちゃんだったらありよりのありだけどなぁ」
「まぁ、犬塚くんは誰もマッチングしなかったらうちに来なさいね。歓迎するわよ~」
ユミちゃんも分かる範囲で生徒の質問に答えている。特区の頃から事業を継続しているというので想定問答集はそれなりに充実しているみたいだな。
「先生、ふつうの夫婦でも離婚ってありますよね。この場合、シミュレーション実習の最中に離婚ってあるのですか?」
「井上さん、結婚する前から別れる話なんて悲観的な質問ね! あなたらしいわ。ええっと、うん。無いことはないけれど少ないわね、全体の2パーセント以下とあるわね」
井上は周囲からは堅物と思われているクラス委員長。ニックネームは委員長。そのままだ。
彼女は心配性が過ぎて思考がネガティブ傾向になることが暫し。故に離婚に対しての質問となるのだろう。委員長は石橋を叩いて渡る前に叩き過ぎて壊すタイプだと思う。
「案外と低いんだな。AIの判断がうまく機能しているのか、半年程度なので我慢している間に実習期間が終わるのか? これなら拓海でもなんとかなるんじゃん?」
「結月。それ、どーゆー意味だよ?」
2パーセントという数字は一般の離婚率が35から40パーセント近いことを考慮するとかなりの低率だと言える。なおも委員長は質問を続けている。
「では、そもそも先生が犬塚くんにさっき言ったみたいにだれともマッチングしないというのはあるのですか?」
「そうね、あるみたいね。でも大半が、本人の責めに帰さない事由が理由だから仕方ないとしか言いようがないみたいね。その理由はいろいろよ。もし周りでマッチングしない人がいても揶揄ったり、嘲ったりとかは絶対にしてはダメよ」
「そうですね。わかりました」
「みんなももうそこら辺は大人なんだからコドモみたいなことはしないでね」
その後もくだらない質問が飛び交い笑い声が絶えない空間となった。
クラスの皆がテンション爆上がりで楽しそうにやいのやいの言っているなか、俺だけは憂鬱な顔を隠すことができない。
俺からすると半年もの間他人と同居して夫婦を演じるなんて苦痛以外の何物でもない気がする。拓海のことを揶揄いながらも実は自分がマッチング不一致や早々の離婚に見舞われるのではないかと考えている。
「そうなったらなったで俺としては何ら問題ないんだけどな」
「はい、質問がないようなのでマッチング用の設問に答えてね。間違っても適当に答えたりふざけたりはしないように。国の施策なので問題が起こると先生がとばっちり受けるからお願いしますね。では、解答欄に書き込んでください」
気乗りしないが俺も設問には真剣に回答していく。いくら自分的に憂鬱だったり面倒事だったりしても相手のあることに対し不誠実なことはしたくないんでね。
※―※
最初だけ頑張って投稿してます。
その後は……ゆっくりでお願いします。
評価、お待ちしております。
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