第2話

 「よう、久しぶり。」

 僕たちはもう、社会人になっていた。

 利久は、相変わらずのイケメンぶりだった。そして、奴は高校卒業後も就職せず、ぶらぶらとフリーターをしながら、今は自営でバーをやっている。

 そういう所が、本当に関心できる奴だな、と思っている。

 「お前グダグダだな。」

 「…まあな。」 

 利久の言葉は、悪い意味で使われているわけじゃない、それよりずっと、僕は目に見えて疲れていた。

 最近は、ちょっとどうしたのかという程、気力がない。

 彼女もいないし、仕事もないし、マジいい加減にしてくれ、と思っていた。

 「仕事きつすぎるんじゃねえの、お前、そういうのどうなの?」

 多分、自営で仕事をするのと、会社に所属しながらお金を稼ぐことは、全く違うのだと思う。多分、っていうか、僕は大学を卒業してから、近くの化学メーカーに就職して、営業として働いている。

 話すのは苦手な方ではなかったから、別に苦になるとは思っていなかったのに、とにかく知識が必要で、人間のいやな面ばかりをこの頃はずっと見ているような気がして、滅入っていた。

 「利久は?店繁盛してるね。」

 「おう、昼もやってるからな。昼は、家族連れとか来るんだ。いいだろ?」

 「…そうだな。」

 営業をやっている身として、夜の仕事だけでなく昼間にランチを提供して知名度と稼ぎを得る、そして夫がちょっと夜に出歩いても咎めなくていいような安心感さえ作る、ここは、そんな店だった。

 「はあ。」

 僕は、ため息をついた。

 うまくいかないことをすべて、飲み込んで眠った。


 「早苗。」

 「何?タケ君。」

 「まさか、あの早苗と、僕が付き合うことになるなんて、な。」

 「付き合う、じゃないでしょ?もう私たちは夫婦じゃない。」

 高校時代、絶対にお前らは付き合えないとさえ思われていた早苗は、僕の妻になった。

 「ねえタケ君、あのさ。」

 「うん、何?」

 このまどろんでいる心地のまま眠りたかったけれど、彼女がそれを遮った。

 「好きだよ。」

 「うん。」

 何だ、いつものセリフか、疲れてんのにご苦労なこった。

 一日中家にいて、暇をしているからか、早苗はそんなことばかりを繰り返す。

 そして僕は、いつもいつも、その時になぜか、このままではいけないという焦燥感に、強く駆られている。


 おい、マジかよ。

 リンゴーン。鐘がなっている。

 やべえ、マジだ。

 「愛を誓いますか?」

 「誓います。」

 お決まりのセリフが、こだましている。多分、僕の耳の中だけで。

 「………。」

 突っ立っている。隣には、早苗が不安そうに背を曲げていて、それで。

 僕はいつも、苦笑いを作っていた。

 だって、良いことなんか無い、それを知っていたから。

 だから、利久が結婚してしまったことは、僕を驚かせた。

 「利久君、結婚したんだ。」

 早苗は、不安そうに僕の裾を掴む。

 僕にも、何が何だか分からないって言うのに。

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