穢れないってさ
@rabbit090
第1話
ちょっと前までは、とても平和に見えていたのに、今、僕の目に映るのは汚い現実だけだった。
勘違いしていたつもりはない、けれど、僕は伝えてしまったのだ。
「ああ、世界終わんねえかな。」
「終わらねえよ、お前、そんなこと言いながらメシ食って、何なんだよ?」
「はあ?分かるだろ?」
「分かんねえよ。」
ち、うるせえな。
はあ、でも僕は伝えてしまったのだ。
早苗は、僕、ではなく僕の隣にいつもいる、このチャラ男のことが好きだったのだ。やたら話しかけてくるし、最初は何だろう、と思ったけれど、話せばとても楽しい女の子だった。
しかし、それは表の面だけだった。
本当はずっと、こいつと話す機会をうかがっていたのだ。だから、何言ってもよさそうな僕を選んで、傷つけやがって、ち、んだよ!
まあでも、大丈夫。これは想定内だった、と自分に言い聞かせて心を鎮めた。
憎らしい、イケメンに生まれてきた僕の友達、今のところは、って、でも
こいつは、女が好きではない。
というか、男が好きでもない。
恋愛感情というものは持っていない。
今、僕らは高校二年生だけど、こいつがそれに気づいたのはつい最近、高校に入ってすぐ、何だか感じていた違和感の正体を、恋愛映画を見ることによって知ったらしい。
自分に言い寄ってくる女の子に関心を抱けない。かといって、その子たちが見せる感情は、友人としての接し方ではない、だから、あいつは悩んだのだ。
それを、高校受験を終え、ちょっと滅入っている時期に見た映画を見て、ハッとしたのだという。
あ、俺、こんなの分かんねえやって。
「…なあ、利久。」
「何だよ?」
利久は上機嫌だ、自分が恋愛感情を持てない、と気づいてから、人付き合いも得意になったのだという。しかし、それもそうかと思う。だって、自分とは明らかに抱いている感情が違う女の子から、顔がイケメンだからって言い寄られて、理解しろっていう方が難しい。
けど、
「僕は、早苗が好きだったんだよ!」
「早苗、ちゃんだろ?」
「ち…。」
そうだ、確かに、僕はまだ早苗、なんて呼べる関係じゃない。てか、そんな時は一生こなそうだとすら思っていた。
「でもさ、タケ…。」
「何だよ?何、神妙ぶってんだよ。」
「………。」
詰めると黙る、こいつはどこかナイーブな面を持っている。
「お前さ、タケあのさ。」
ちょっとおどおどした様子で、利久が話し始めるから、僕は下を向いて黙った。僕らの中ではちょっと悪いって時は、そうやって態度を示していた。
「あのさ、あのさ。お前さ、本当に早苗って子、好きなの?」
「はあ?」
心外だ、僕の早苗ちゃんに対する気持ちは、熱すぎる、と思ってる。
「だって俺、そういうの無いって気づいたの最近だし、お前も、ちゃんと分かってねえんじゃねえかなって。」
「いや、…は?」
そんなこと無ぇし、ってすごみたかったけれど、僕の中に明確な答えがないことが分かってしまって、黙っているしかなかった。
けど、そんなもん、理屈じゃないだろ?
僕は、そういうのが大嫌いだった。
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