幕間 清川さんと女子会――IN早川家①

―― AM 8:45 ――


 朝食の片づけを済ませ、ママを仕事に送り出してから始めたのは、女子会会場にするリビングのそうじ。ママが仕事に行くと同時に家に来てくれたユウくんと、一緒にテーブルやソファ・イスを端によせて、床にそうじ機をかけたり、ソファ・イスのほこりをコロコロで取ったり。ひととおり終えたら、テーブルやソファ・イスをもどして調度品にもそうじ機をかけたり、窓ガラスを雑きんでみがき上げたり。


 今日も一緒にお留守番の真美には、ダイニングキッチンのテーブルのイスに座らせて、スマホでアニメを見せていた。時おりユウくんと私に顔を向けてジッと様子をみてくるけど、声をかけてくるわけでもない。真美は真美なりに気をつかっている。


 気がつけば、そうじを始めて一時間ほどが過ぎた。ここから先をユウくんと手分けすることにした――



―― AM 9:50 ――


 ユウくんがコードレス型そうじ機を片手にもって、玄関からリビングまでの廊下をすみの方までキレイにしていく。そうじ機が終われば、おトイレの床と便器を専用クリーナーペーパーでキレイにしてくれて。最後に廊下に面する洗面所までピカピカにしてくれた。


 その間に私はキッチンに立ってオードブルの用意をしていた。作る品目は、野菜スティックとチキンナゲット。加熱には電子レンジを使用する。ママの居ない時間のコンロ使用は、許可が下りなかった。


 きゅうり、大根、黄色のパプリカの生系と、にんじん、じゃがいも、アスパラのゆで系の野菜スティックをまず調理。大根は皮をむき、生系の野菜はそれぞれを一定の長さの棒状に切って、お皿の上へ。続いてゆで系の野菜に取りかかる。にんじんの皮をむいて、生系野菜と同じ長さに切り、深めの皿に敷きつめて電子レンジでチン。電子レンジを待つ間にじゃがいもの皮をむいてくし状に切ってこちらも深めの皿に敷きつめておき、電子レンジが空いたら投入してチンする。アスパラは根本の切り口を切りおとし、根本側のある程度の皮をそいでラップに包み、電子レンジが空いたらやっぱりチンする。ゆで系野菜はゆで系だけでひとつのお皿にする。ソースは作りおいてた、みそ味とめんたいこマヨ味の二つを用意。


 チキンナゲットは冷食品の大ぶくろものを2回に分けて電子レンジでチン。お皿は大きいものを使って山盛りに。ソースにはこちらも作りおいてた、バーベキュー風とマスタード味を用意して。


「もーらい!」

「あ、ちょっとマミ、つまみ食いしないの!」


 ちょっと目をはなした間にしてやられた。チキンナゲット一つをくわえた真美は廊下に逃げ、ニンマリした表情でキッチンをのぞき込んでいる。とっちめたいけど、今は後々、にらみ付けてだけおいた。用意したオードブルから少し、チキンナゲット多めで、タッパーにより分ける。これは男子会用。


 調理が終わったらおつまみのお皿に続いて、取り皿に、割りばし、コップ、ウエットティッシュ、ジュース類のボトルなども、リビングのテーブルに置いていく。そうそう、先日のデートのとき買ったお土産のシュガークッキーを開けて、中身を個包装のまま深めのお皿に入れて、リビングに運んだ。


 そろそろ、なっちやケーコが来ると話していた時間が近づいて来ていた。私も他人ひとに見られても良い服装に変えないと――そう思って一度私の部屋にもどった。



―― AM 10:36 ――


――ピンポーン!


「いらっしゃ~~~い!」


 まだかな、まだかな――玄関でそわそわしていた真美が、チャイムが鳴ると同時に土間に飛びだして玄関ドアを開けた。


「きゃー、きたよー、マミちー」

「マミさん、おはようございます」


 お客さんのなっちやケーコの方が真美を迎えるように、ひざを折り真美の跳びこみを二人で受けとめて。真美は恒例の元気注入とばかりに、二人のほっぺに自分のほっぺをこすりつける。


 なっちは見た目スポーツ少女といった出でたちで、これから軽めの運動でもしようかというフインキのままにコンビニぶくろを手にして。ケーコは季節にあわせた緑のワンピース姿で、肩かけでクーラーボックスらしきものを持っていた。


「いらっしゃい、なっち、ケーコ!」

「いらっしゃい、二人とも」


 やや遅れて玄関に出てきたユウくんと私も、二人に出むかえのあいさつを投げた。そんな私たちを見た二人は、しばし視線を交わして、こう言ってきた――


「はよー、リオち、ユウマ。もはや、新婚しんこーん!」

「おはようございます、リオさん、ユウマさん。お二人の存在感が、もう夫婦のソレに感じますね」


 言われたセリフに、今度はユウくんと私が視線を交わし、反論した――


「いやいや、まだ早いから。18にもなってない――」

「あはは、玄関から一緒に出むかえに出てきたら、見えるかもね」

「ちょっ、ユウくんまで、そっち側?!」


――はずだったのに、ユウくんに裏切られた。スウィートホームコントに笑いがこぼれた。


「おねいちゃん、まだまだ、たよりないよ?」

「ちょっとぉ、マミー!」

「きゃーー!」


 真美のダメ押しに、さらに笑いが増える。玄関の中に逃げる真美を、私は追いかけた――少しの気はずかしさを隠すように。なっちとケーコの二人は、結局ユウくんが招きいれたから、リビングに着くなり、二人にもっと茶化されてしまった――



―― AM 11:03 ――


 なっちの持ってきた一口チョコ詰めあわせをオードブルに加え、ケーコの作ってきた水出し紅茶をカップに注いで、真美を入れた五人でリビングのソファに座りくつろいでいた。さとさとが今日は集まれなかった話を皮切りに、みんなの部活の話が続いて。知らない話ばかりだから真美は少し退屈そうだったけど、なっちが時どきほっぺを合わせてくれるから、むずがることもない。そうして楽しい時間が過ぎていく中で――


――ピンポーン!


 時計を見れば、本日ゲストの清川さんが、来れそう、と言っていた時間になっていた。なっちとケーコに、出迎えてくるね、と立ちあがりリビングを出た。ユウくんも一度キッチンに寄って、オードブルを分けたタッパーを手に後に続く。そして、その後ろには、初めて訪れる人物を気にする真美が玄関をのぞき込むように――


「たのもー」


 大きくなくても良く通る声は清川さんみたい。鈴城くんはついて来てない?――もしかしてと思ったのだけど――


「いらっしゃい」


 玄関にたどり着き、土間に降りて、ドアを開ければ――そこに居たのは清川さん。

切れ長の目つきでキレイな顔は学校と変わらないけど、髪型は少し高い位置に結び目をしたポニーテールで、その結び目がを長めだからか、うなじが見えて大人っぽい。でも、服装は上下そろいのツーピースなのだけど、なぜかフリル多めで幼さを感じさせるもので。『えっ、これ、だれの趣味?』と突っこみあり?――そう思わせるコーディネートだった。


 そして珍しく清川さんの後ろに立つ鈴城くん。鈴城くんは柄物のシャツにふつうのチノパンなのだけど、元が良すぎるから、とても格好よく見える。けれど、その鈴城くんの表情はとてもパッとしない。何というか、今生の別れをおしんでる?――そんな風にみえた。清川さんはいつも通りのようなのだけど。


「や、いらっしゃい」


 私の後ろから、一枚多めに羽織ったユウくんが現れて、清川さんたちにあいさつをする。そして、そのまま鈴城くんに近づいて――


「じゃ、鈴城くんを借りるよ。楽しんでいってね」

「ひ、一美ひとみちゃーん」


 鈴城くんの背中に手をおいて、そのまま押していく。鈴城くんはたたらを踏みながら前進するのだけど、右手をのばして清川さんに助けてとでも、情けなくアピールしていたけど。私はともかく、何ら手を差しのべることなく、清川さんは無表情気味の顔で小さく手を振っていた。とりあえず、こうしてても仕方ないから――


「清川さん、中へどうぞ」


 私は清川さんを家の中、女子会会場になっているリビングへ案内したのだった。

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