第5話 部活動①
――カッコン、カコン、カッコン、カコン、カッコン、カコン――
私は
――スカ!
盛大に空振りする私。あわてて後方に飛んでったボールを追いかけ捕まえた。そして柊木さんに平謝り。
「柊木さん~、ごめんなさーい。ぜんっぜん、スマッシュあたらなーい」
「初心者はふつうだよ~。早坂さん、ラリーは続いてるからできる方だよ~」
私のドジにもいらつかずに、微笑みながらふつうと気づかってくれる柊木さん。彼女は第一小学校の放課後クラブで卓球を経験していたそうで。サーブからラリー、そしてスマッシュと、まんべんなく様になっている。
そして私はといえば、パパに連れていってもらったスーパー銭湯でちょっと遊んだだけの
それから柊木さんがスマッシュで終わる1セット、私がスマッシュで終わる1セット、もう一度柊木さんがスマッシュで終わる1セットまでやって、私と柊木さんのウォーミングアップが終わり、順番を待っていた他の部員たちに卓球台をゆずる。
私と柊木さんは壁際――ではなく舞台そでというべきところで、冬服の体操着を夏服の体操着の上に着こんでいた。四月ももう半ばといってもまだ寒いというのに、空気の入れかえは必要と体育館の大きなドアはすべて全開にされている。そんなものお構いなしなバスケットボールやバレーボールの部と比べれば、やはり卓球の運動量は少ないほう。だから、こまめに着ぶくれするしなかない。
「ふぅ。やってる時はいいかんじに温かかったけど、待ち時間に入ると寒いね~」
「そうだね~」
柊木さんは割とのんびり口調。言っては悪いと思いつつ、彼女はのんびりしてるから運動が上手じゃないと思っていたのだけど。以外やいがい、すばしっこい。反復横跳びもきれいなフォームでやったりするしで、卓球はむいているんだろう。もしかしたら卓球のために努力してたのかな?
「早坂さんも堂にいってるよ~。打つときにひじの高さが安定してないから、素ぶりでフォームを固めればグッと良くなりそうだねぇ~」
柊木さんは私に課題を突きつけてきた。卓球台の向こうから見る私はいろいろ不器用に見えたんだろう。とりあえず中学三年間の部活は卓球と決めたのだし、腐らずにがんばってみようと思う。それにユウくんも――
「おつかれさま。リオちゃん、柊木さん」
おしゃべりを続ける私と柊木さんのところにユウくんもやってきた。一緒に部活見学をしたユウくんはそのまま私と卓球部にはいった。ユウくんには小学生時代と同じくバスケットボールを続けてもいいんだよと、期間中、そう声をかけてはいたのだけど。ユウくんがあんなふうに思ってるとは思わなくて――
◇◆◇
部活動を見学できる一週間。私たち一年生は中学三年間につきあう部活動をこの期間中に決めることになっている。私のかよう第一中学校には、軟式野球、ソフトボール、サッカー、ソフトテニス、バスケットボール、バレーボール、バドミントン、卓球、陸上、水泳、ダンス、合唱の十二種類の部活がある。種類によっては男女別か男女合同、あるいはどちらかしかない場合もある。
えっ、帰宅部はないのかって? この
強制ということは早々にあきらめたんだけど、まさか部活のことでママから不満を聞くとは思わなかった。お仕事のシフトとやらで遅番とかいうのになったときは、妹の真美を小学校まで迎えにいってほしかったんだって。どんだけ私に頼る気でいたんだろう。結果的に真美のことは、おじいおばあちゃんにお願いすることになった。
それはともかく、部活見学はユウくんと一緒に見てまわることに。ついでに入学式の日にやりそこねた、カップルとして学校内で知られることを、手つなぎでまわることでチャレンジしなおそう、となった。
◇◆◇
初めにまわった部活はバスケットボール部。部員たちはフルコートで本番さながらなゲームをやって見せている。見学者たちも点が入ったりすると歓声をあげていた。
ユウくんも私も小学校の放課後クラブではミニバスケをしていたのだから、候補の初めにのってて当然だったけれど――
「えっ、男女合同部はない?」
「中学生なんだから男女別でしょう? 体格も体重も、ぜんっぜん違うのよ。女子は男子に当たり負けしちゃうわ」
一応聞男女合同部の存在を聞いてみた。女バス部長と名のった上級生は当然とばかりに『ノー』と教えてくれた。体力作りとか遊びとか、そんな範囲でやってはいないということで。勝ちに行くには性別は分けないと女子は勝てない。う~ん、今あるバスケ部では、私の目的とは合わないのはわかったけれど。
「おお、おまえさん、ウマいじゃないか。このままバスケ部へ入らないか? レギュラーを約束するぞ!」
「いえ、他も見てまわりたいので」
横ではユウくんがきれいにレイアップシュートを決めて、男バス部長に熱烈なおさそいを受けていた。放課後クラブでは点とり屋として活躍していたし、そのチームのコーチ兼見守り人にも将来を期待されていた。大会の実績を聞けば、男バスは女バスに押されているから、巻きかえしの戦力にしたいのだろう。まあ、ユウくんもいろいろ興味もあるだろうから、即答はさけたよみたいだ。
「ここに手をつないできたけど、あの子、あなたの彼氏さん? よかったら、あたしに譲らない? バスケの上手な人と付き合いたいのよね」
「お断りします!」
ユウくんを横目に見ていた女バス部長が、急におかしなことを言いだした。ユウくんは物じゃない。当たり前だけど彼氏を――ゆずるわけないでしょ!!
「リオちゃん、そろそろ次へいこうか」
「いこ!」
ユウくんにも女バス部長とのやり取りは聞こえていたのか、苦笑まじりの顔をしてこっちに近づいてきた。私はそんなユウくんの手と――見せつけるようにつないで、歩き出した。もう、ここに用事はありません、そんなフインキを出しながら――
◇◆◇
次にまわったのがバスケ部と同じ日に見学可能だったダンス部。体育館のステージ上で練習してるのだとかで、回りやすかったから選んでみたんだけど。
「レクリエーション目的の人には向かないかな」
そういうのは部長の上級生。部員の人たちは見学者たちへ向けてパフォーマンスを見せていた。その熱気はたしかに気楽さを感じさせるものではなく。それだけ見学者たちにムダな声をあげさせない迫力があった。
「やるからには大会で上位を目指したいのよね。だから、ついてこれる人を募集してるわ。でも男子が不足してるからな~。そちらのあなた、入ってみない?」
あからさまにユウくんの胸とかお腹とかに流し目をおくるダンス部長。たしかにユウくんのスタイル、いいとは思うけど。服の上からでも、触れば筋肉感しっかりあるし。でもね、さっきから話しかけてるのは私なんですけど。
「いえ、まだまだ見学も初日なので。さ、次いこうか、リオちゃん」
パフォーマンスをながめていたユウくんも、何となくいづらいのか素早くお断りして、私の手をにぎり、足早に立ちさろうとして。うん、ダンス部長の性別がみた目でよく分からなかったから、ユウくんの気分は何となくわかった。だから、私もおとなしくユウくんの後をついていった――
◇◆◇
ダンス部の見学を短い時間で終わらせてしまったということで、初日の最後というつもりで合唱部の見学にきていた。合唱部の陣どる音楽室ではピアノ演奏つきで部員の人たちが歌をうたっていた。小学校でイヤというほど歌わされたなと思う曲ばかりが続く。そんな音楽室のお隣の準備室では、体験コーナーということで発声練習の習得というものをやっていたから、ユウくんと一緒に混じってみたのだけど――
「あら、あなたいい声ね。肺活量もかなりありそうだし、どう、合唱部入らない?」
「いや、まだ考える時間ありますので」
ユウくんに入部の勧めをうっとりとした声で発する合唱部長。今度はちゃんと女性ですけれど。どうしてどの部長も、ユウくんをさそおうとする人ばっかりなの?! ユウくんもボンキュッボン相手だといっても、冷たくハッキリ断って!!
「お~、伸びやかですねぇ。ソプラノのメンバー不足なんですよ。どうです? 入部してみませんか?」
「いえ、まだ考える時間ありますので」
私は私で、アルトボイスといでもいうのか高めの声の副部長さんに入部を勧められていた。線は細めだけど、顔のみた目はよい男子で。あ、ユウくんがこっち見てにらんでるし。『そっちもスタイルのいい部長相手に鼻の下のびてませんでした?』とばかりに、舌を出してイーっとしてみた。
「どうしたの? 変顔なんかして」
「あ、いえ」
副部長さんに変顔してたところを見られてしまって、ちょっとはずかしい。ユウくんには家に帰ったら文句をいってやらないと。でも――
今日はいろいろとストレスをためてしまったと思っていたのだけど、発声練習っていいね。大きく口をあけて、大きな声をだす。単純だけどストレス解消にはとってもいい。そうわかったのは見学の成果だったと思う。そしてユウくんもストレスはなくなったのか、見学時間が終わったあとは、二人気分晴れやかにお家に帰ることができた。本来の目的である部活決めはまったく進んでいないのだけど……
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