第2話 告白②

「姉さんが小学校を卒業するときに告白されたって。進学する中学校が違うからって」

「そっか、お相手も同じ学年の男の子だったんだね。もしかして、お相手は附属中学校へ行ったのかな」


 私たちが住む都市まちでは地域の公立中学校への進学がほとんどだけど、一部の人が大学附属中学校や私立の中学校へ進学する。


 もしも進学先の中学校が違ったなら、小学校を卒業してしまえば会えるチャンスはへってしまう。それこそ会おうと、おたがいに努めなければ。


 たぶんお相手の男子はさよ姉とは違う中学校に進学して、日々の生活がいそがしくなったんだろう。


「じゃあ、別れたのはいつ?」

「去年の夏前。ちょうどリオちゃんが放課後クラブを止めた後ぐらい。恋人に別な好きな人ができたかららしい」


 タイミングを思うと、ゴールデンウィークの頃にはさよ姉のお相手はうわ気をしていたらしい。中学3年生のゴールデンウィークは、高校受験前の最後の休日らしい休日だって聞いてるし。


「それを告げられて、姉さんとても落ちこんでね」

「そしてユウくんもなやんじゃったんだね」


 うわ気相手はさよ姉のお相手と同じ中学校の生徒なんだろうか。もしも私たちも中学校が違ったら、別の好きな人がお互いにできてしまうかもしれない。


 私はそんなのはイヤだ。きっとユウくんもイヤだって思ったんだと思う。


「うん。リオちゃんと恋人同士になれても、お別れになったら意味ない。だから、どうすれば、いいのかなって、考えて考えて。そうしていたら、もう後がなくなって。ほんと、ごめんね」

「うんん、わかったよ。私こそ、責めたみたいでごめん」


 ユウくんはいっそう申しわけなさそうにおわびを口にした。ユウくんを責めたいわけじゃないから私もおわびを返して、ユウくんをハグした。ユウくんから私にだけ通じる匂いがして私も気分を落ちつける。


「急に、ど、どうしたの?」


 私の思わぬ行動にびっくりして、顔を赤くするユウくん。深く落ち着かせたくてしばしユウくんの頭をなでて――


「ユウくんがつらそうだったから」


 たぶん私はいつくしみの笑みでもうかべられたんだろう。ユウくんも笑顔で応えてくれた。


「じゃ、一緒に考えましょ。私も、お別れしたくないんだから」

「ありがとう。リオちゃんにはいつも感謝してる」

「彼女だからね」


 いつものユウくんとの気安い会話に私から切りかえたせいなのか、ユウくんもうつむいてた姿勢をもどした。そして正面からおたがいの顔を見あう形になって、それがおかしくて、声を出して笑いあった。笑いあったことでユウくんの物うげな様子は消えていった。


「それで一応、考えついたことがあるんだ」

「それってどんなこと?」


 笑顔から一転して真面目な顔つきになったユウくんは提案があるという。私も応じて真面目を装って提案内容に耳をかたむけた。


「二人共通の目標を持つんだ」

「目標……」

「例えばね」

「例えば?」


 提案内容にピンとこない、そんな表情を出してしまったのだろう。そんな私にユウくんは具体例を上げようとする。私は小さくオウム返しをすると――


「ずっと二人一緒にいよう」

「24時間ずっといっしょってこと? それはできないんじゃ、ない?」


 出された具体例をつい非現実なものと考えたので、無理なことときって捨ててしまったのだけど――


「ふふ、ちがうよ。いくつになっても、大人になっても、おじいちゃんおばあちゃんになっても、どちらかが死ぬまでってこと」


 小さくほほえんだユウくんは私の考え方を修正した。でもそれって――


「もう、それじゃプロポーズだよ。け、結婚を考えるなんて早過ぎ」


 私のほほはとたんに熱を帯びてしまう。たぶん赤面してしまっただろう。


「そうかな? 恋人の次は結婚して夫婦でしょ?」

「だから気が早いんだってば!」


 ユウくんは段階の少ない将来のステップを口にした。私だっていつかはそうありたい。そう願ってるけど、やっぱりまだ遠い未来の話だと思う。


「ふふ、とにかく分かってくれたよね?」

「う、うん」


 再び小さくほほえみ、私の理解度をユウくんは問いかけてくる。伝わってきたのはユウくんの本気度なのだけど。もうこのままでイイかなと、ちょっとあきらめ気分になった。


「リオちゃんには他に案はある? なければ、これで決めたいけど、どうかな?」

「すぐ思いつくのはないね。ああ、でも、どうして目標なの?」


 ユウくんは早速にでも決めてしまいたいようなのだけど、そもそも別れないための方法が目標ということに違和感を覚えてしまう。目標例の意味するところのインパクトでつい話がそれてしまったけど。


「姉さん言ってた。付きあいを始めた後、その先をどうしていくか、お相手と考えてなかったって」


 さよ姉が、だれを、どの部分を好きになってお付きあいを始めたかはわからない。でも、始まりがあれば終わりがある節理はちょっとわかる。だから、1日でも長く私たちがお付きあいを続けるためにも、未来に目を向ける必要がある。ユウくんはそう言いたいし、ユウくんもそう願っているのだろう。私もそう思ったからユウくんの提案を受けいれることにした。


「いいよ、ずっと二人一緒にいように――決めよ」


 今まででも、会う時間だったり荷物の持ち寄りだったり、いろいろ約束をしてきたけど、目標を二人で決めたのは初めてだった。目標を守れるかわからないけど……うんん、守らくちゃいけないんだ。そう思ったら恋人になった実感がわいてきた。


「じゃぁ、ずっと二人一緒にいようを目標に、合言葉にして忘れないようにしようね」

「うん。忘れない。せーの」

「「ずっと二人一緒にいよう!」」


 息ぴったりに合言葉を口にできたことでおかしくなって、二人で笑いあった。そして意気ようようと手つなぎして音楽室を後にした。


 その後、それぞれ自分の教室にもどった私たちが居残っていた友達に、やっと付きあったのかとからかわれたのは、また別の話。


――――#プロローグ 了

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