第4話 余呉湖と琵琶湖の狭間
関西の私大の理系キャンパスは山にあることが多い。僕の通っている大学もそうで、地図で見ると、左から、僕の大学、医療系大学、某私大の理系キャンパスの3つが並んでいる。LINEでやりとりしていく中で知ったのだが、
僕が大学近くのスーパーで弁当(昼食)を買って、下宿に向かって坂を下っているとき、ガソリンスタンドを横切った際のことだ。
「おっ!奇遇だね!!」
大きな声で誰かが僕のことを呼び止めた。
急ブレーキをかける。キキィという音が
声の方を見ると、ガソリンスタンドに黒色のフリルの付いたワンピースを着た女性が居た。それはもちろん佐津川さんだった。彼女以外に僕を呼び止める人はいない。
彼女は動体視力が良いのだろう。自転車を全速力で漕いでいる僕に気づいたのだから。
「何をしてるんでs…何をしてるの?」
また敬語が出そうになって言い直した。
「ガソリンを入れているのよ。今日は遠くに行くから!」
「えっ!どこに行くんですか?」
「そういや、君には言ってなかったね!今から暇?暇なら付いてきてよ!」
「だから…どこに?」
僕は困惑した表情でそう述べた。
「
彼女はそう言いながら、スマホでマップアプリを開いて行き場所を見せてきた。
結局、僕は下宿に自転車を置いて、下宿前で彼女と合流し、彼女と旅することになった。
僕の大学近くのインターチェンジに彼女は車を走らせる。
後部座席で弁当を食べている僕をチラチラ見ながら、彼女は今から行く場所について語り始めた。
今回のBGMはカイツブリが滋賀県のことについて知ったかぶる曲だった。妙に頭に残る曲なうえ、彼女はいつものごとくループ再生している。
「賤ヶ岳はおもしろい所なのよ。琵琶湖と
早口でそう語る彼女の声はとても明るく、これからの旅を楽しみにしているようだった。賤ヶ岳?、余呉湖?ってな感じで滋賀県についてよく知らない僕は道中、スマホで調べることにした。余呉湖は滋賀県の北東、福井の近くにある湖で羽衣伝説や某ミステリー小説の舞台として有名な所らしい。知らなかった。賤ヶ岳は羽柴秀吉と柴田勝家が戦った合戦の地として有名らしい。そういや、賤ヶ岳の戦いって聞いたことがあるな。と高校時代の記憶を呼び起こした。その後は彼女と夏休みどうしているか?大学の講義の話、バイトの話など他愛もない話をして過ごした。
途中で多賀にあるサービスエリアでの休憩を挟み、出発から1時間半くらい経っただろうか。賤ヶ岳の麓にある駐車場に着いた。
「さすがに疲れた!」
と佐津川さんは言いながら、両腕を上に伸ばして背筋をピンとさせた。
その動きに伴って汗と制汗剤の混ざり合った香りがした。
僕は首をブンブンと振り、その変態チックな気付きを脳内から消した。
「何してるの?行くよ」
彼女は、いつの間にか山道の奥の方まで行っており、おいでおいでと手で招いていた。彼女に追いつきしばらく歩くと、リフト乗り場があった。
彼女が僕の分のリフト券も購入した。
いざ、リフトに乗るぞ!そう意気込んだ僕はリフトを見て驚いた。安全バーが無かったのだ。少し怖かったが、後ろには佐津川さんが待っているし、勇気を出してすぐ乗り込んだ。
乗ると意外と安定性があった。身体が宙に浮く感じが妙に気持ち良かった。鳥はこんな気分で空を飛んでいるのかも…リフトから見える景色は田舎の原風景という感じで綺麗だった。空気も澄んでいる気がする。
リフトで揺れながら、佐津川さんと話をした。平日ということもあって周りのリフトに人はおらず、大声で話しても迷惑にならなかった。
「風に当たって気持ち良いね~」
「そうでsだね。鳥になっている気分」
「へえ君もそう思ったんだ!私も!」
「景色も綺麗でsだね!」
「うん!田舎の綺麗な風景が見れて最高!ってか、まだタメ口するのなれてないんだ」
振り向いてみると、彼女は満面の笑みを浮かべていた。
リフト降り場に着いた。降りるときも少し怖かったが、係員さんの誘導もあってすんなり降りれた。
「ああ~楽しかった!」
そう言いながら、佐津川さんはまた伸びをした。そしてこう続けた。
「ここからちょっと上るけど、私たち若いからでえじょうぶ、でえじょうぶ」
冗談を言うくらい上機嫌なのだろう。
2人で話しながら、山道を歩く。すると思っていたよりすぐに山頂に着けた。
山頂からの景色は圧巻だった。
青々とした琵琶湖、余呉湖両者が見える。それらの湖面は日の光を反射して輝いており、波を打つたびに神秘的な光が強くなっていっていた。2つの湖の間にある緑色の山と青色の対比が見事で、まるで自然が描いた絵画のようだった。
オーシャンブルーならぬレイクブルー…素敵だ。
「来て良かったでしょ?」
あまりの感動に言葉を失っていた僕の顔の下から佐津川さんが覗き込んでいた。
「はい…」
僕は強くうなずいた。
山頂には腰を下ろしている岩に腰を下ろしている武士の銅像があったり、伊吹山が眺められたりして、他にも見どころがあった。
楽しい日々も過ぎて。山を下りた。
帰りは時間がかかるが、湖岸道路で帰ることになった。佐津川さんがもっと近くで琵琶湖を見たいという提案からだった。
その提案は正解だった。近くで見る琵琶湖は壮大で、きらきらと輝いて美しい。
見ていると、感動のあまり言葉を失う。
自分の通っている大学は山にあり、下宿もその近くにあるため、琵琶湖を滋賀県の大学生になってからも僕は近くであまり見ていなかった…そんな僕は琵琶湖の良さに気づいていなかったんだ。僕は少し後悔した。
そんなことを考えていると、
「あっ!カイツブリ!!」
運転席の佐津川さんが興奮して指をさした。
そこには大量のカイツブリが居た。
湖面輝く琵琶湖と大量のカイツブリは絵になっていた。
これもまた美しい…
車内で琵琶湖をずっと眺めていると感動しっぱなしだそう思ったが…
しかし、その感動は長くは続かなかった。
カイツブリ発見後すぐに寄った道の駅で佐津川さんは小鮎の佃煮と鯖そうめん、赤蒟蒻を買った。そして、鮒寿司…そう鮒寿司を買ってしまったのだ!!また鮒寿司!どんだけ好きなんだ!!?
道の駅出発後、鮒寿司の臭いにおいの漂った車内で、僕はあまりの臭いで気を失った。目を開けるとすでに夜で。僕の下宿前だった。鮒寿司恐ろしや。
「今日はお疲れ様!これお土産!美味しいよ!!」
そう言いながら笑顔を浮かべている彼女が渡したのは鯖そうめんだった。
彼女が去り、自室に入り、僕はそれをチンして食べた。
美味だった。
紅い蒟蒻と鮒寿司女 村田鉄則 @muratetsu
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