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空き部屋を借りて着替えをしたのぞみはいつもの練習着になってアトリエの真ん中に立った。
いつもはじっとしてばかりいるアトリエで踊ることはなんだか不思議な気持ちになった。しずくはソファに座って楽しそうな顔をしてのぞみのことを見つめている。傍らにある小さなテーブルの上にはアイスコーヒーが置いてあった。
「それではお願いします」
と言って頭を下げてから、のぞみは自分の新曲のダンスを踊った。しずくの家にある音響機器からはのぞみの新曲が大きなスピーカーこらとても透明な音で流れている。
のぞみは力いっぱい踊った。無心のまま。ただ踊りたいように、自由に体を動かした。楽しかった。のぞみは自然と笑顔になった。まるで自分の体がなくなってしまったみたいだと思った。
ああ、楽しいな。
こんなに楽しい気持ちになったのはいついらいだろう?
最後のコンサートいらいかな?
あのときは泣いちゃったな。
絶対に泣かないって決めていたのに泣いちゃったな。
なつかしい。
まだあれから一年もたっていないのに、なんだかずいぶんと遠い昔のような気がする。
曲が終わっても、体の中に熱が残っている。まだまだ踊り足りないと思った。
体が火照っている。汗をかいている。気持ちのいい汗。のぞみはゆっくりと緊張をといていく。
それと同時に小さな拍手の音が聞こえる。
振り向くとそこにはしずくがいて。しずくは拍手をしながら、踊り終わったのぞみのことをじっと輝く瞳で見つめていた。
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