48

 そんないくじなしの自分をもう一度信じさせてくれたのは、一歩を歩き出す勇気を与えてくれたのは、しずくの絵だった。

 愛の溢れる絵。

 優しさでいっぱいの絵。

 涙で、悲しみで、本当は心がいっぱいのはずなのに、それでも強く生きようとする力を意思を、その絵を見る人に与えてくれる希望の詰まった絵。

 ずっと昔に忘れてしまっていた、大きくなってから口にするとやすっぽく聞こえてしまうような、そんな言葉たちが、のぞみの心を胸を強く打った。

 そうだ。私は私の歌を聞いてくれる人たちがこんな風にあったかい気持ちになれるようなアイドルになりたかったんだと思い出した。

 しずくの絵を見ていると、愛が伝わってきた。

 しずくの愛が伝わってきた。

 めぐみの愛が伝わってきた。

 二人の愛が感じられた。

 絆が。

 強く。本当にとても強く。

 伝わった。

 だから勝てないと思った。

 誰かに絶対に勝てないとそうのぞみが思ったことは今が初めてのことだった。

 そんなことを思いながら、のぞみは隙を見てしずくにぎゅと抱きついた。甘えるように。ぬくもりを求めるように。あるいは、助けを求めるように。

 ぎゅと、なにも言わずに抱きついた。

 しずくはなにも言わなかった。拒絶もしなかった。でもその手はのぞみを抱きしめてはくれなかった。その手はそっと優しくのぞみの両肩の上に置かれているだけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る