47

 人生に不思議なことはなにもない。

 あるのは正当な評価と自分の人生においてどれだけ努力をしたのか、その結果だけだ。

 とのぞみは事務所からよく言われていた。

 のぞみの所属している世界的に有名な事務所ではのぞみだけではなくて日々生まれてくるアイドル(もしくは新しい才能たちに)つねにそんな言葉を言っていた。

 評価とはそのすべてが正当なものであり、正当なものとは世間の評価そのものであると言う。たとえその裏にどんな嘘があったとしても、それをふくめて正当な評価なのだと言う。努力も同じ。才能や嘘。虚像。作られた偶像。そのすべてをふくめて努力と言うのだとのぞみに言った。

 アイドルであるのぞみにはその言葉が本当のことであると身をもって(本当に心から)そうだと信じることができた。

 それくらいプロの世界は競争が激しくて、そして誰にでも公平だった。

 激しい競争の中で、大きな流れの中で、夢を見るたくさんの才能たちがその流れにのまれ、どこかにいなくなってしまった。

 幸せとはなんだろう?

 私が目指した、憧れた夢はいったい、どこに行ってしまったんだろう? 

 あの光景は、風景は、幼い私が見た本当はこの世界のどこにも存在していないただの幻想だったのではないだろうか?

 そんなことを夜、疲れて眠りに落ちる前にのぞみはよく考えていた。

 夢を真っ直ぐに信じることができなくなると言うことは自分を信じることができなくなるということだった。

 そのことにこのときのめぐみはまだ気がつくことが全然できていたかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る