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「アイドルの君は君の影であり、本当の君ではない」しずくは言う。

「はい。それはその通りです。アイドルの私は本当の私ではありません。でもそれは別に問題はありません。アイドルとは本来、そう言うものです。嘘つとか、偽物とか、流行り物とかそう思うのならそう思ってくれてもかまいません。それでもその時代、その時間に一緒に生きているたくさんの人たちと一緒に夢を見る、夢を共有するのがアイドルなんです」パンを両手で持ってかじりながらのぞみは言う。

「アイドルとは偶像であり、あるいは伝道師、神様の言葉を伝える巫女のような存在。象徴。祭り。民族と伝統。生け贄。声。姿を隠す? あるいは見せる? そもそも偶像崇拝が禁止されているのはどうしてだろう? 神様は目に見えないから? そのお姿を利用して悪い悪魔が人間を騙すからだろうか? そもそもどうして人を騙してはいけないのだろうか? この世界にあるほとんどの仕事、職種、働きは人を騙していると言うのに」しずくは思考する。

「ある一定の人数を越えて集団となった群体はほかの群体の脅威となるからではないですか?」のぞみは言う。

「宗教のお話?」のぞみを見てしずくは言う。のぞみはどちらかと言うと戦争のことを考えていたのだけど、宗教と言われると宗教もそうなのかな? と思った。

「絵を描くことは影を描くことだと思う? それとも影ではなく影を作り出しているもの自体を描くことだと思う?」しずくは言う。

 そのしずくの言葉に迷うことなくのぞみは「本物を描くことです」と自信満々の顔で答えた。そんなことを言える根拠がのぞみにはあった。だって自分を救ってくれたのはしずくの描いた一枚の絵なのだから。その絵が偽物であるはずがなかった。今もちゃんとのぞみの部屋に飾ってある一枚の小さな絵。それは今ののぞみにとって神様と同じくらいにとても大切なものだった。

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