15

 サラダを作り終えたのぞみは焼きあがったパンをお皿の上に置いた。コーヒーメーカーにコーヒー豆を入れて、沸かしたお湯を注いでコーヒーを淹れる。

 食卓の上に食器類を用意する。そんな一つ一つの作業が心が躍るくらいに楽しかった。

 のぞみはふと料理をしているしずくの背中を見た。それからもう一度大きな鏡に映っている自分の姿を見る。

 そらから、私がしずくさんの家にやってくるようになってどれくらいの一日を、私としずくさんは二人だけの時間を過ごしているのだろうと思った。(日記を見ればすぐにわかることだけど)

 のぞみは自分の胸を見る。それほど大きいわけではないが、ないわけでもない。スタイルには自信がある。(とくに足には自信があった)アイドルはお休みしているけど、体型を崩すほど、怠惰な生活はおくっていない。顔だってアイドルのときのままだ。と作り笑顔を見ながらのぞみは思った。

 のぞみの身体は169センチだった。しずくの身長はたぶん175センチくらいだと思う。少しだけだ癖のある無造作な黒髪が可愛いとのぞみは思う。(撫でたいと思った)

 最初のころ、本当に初めてしずくの家に一人で絵のモデルをしにくるようになって、数回くらいのころは、のぞみはそれなりの覚悟と準備をしてしずくの家にやってきた。

 愛用の白い自転車を漕ぎながらずっと心臓がどきどきしていたのを覚えている。(今でも心臓はどきどきするけど)

 今ではその覚悟と準備はあまり必要なくなった。しずくは実際に目の前にいるのぞみではなくて絵の中にいるもう一人ののぞみばかりに夢中になっていたからだ。(ばか、とのぞみは思った)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る