第13話 同時刻、異世界


 ――同時刻、異世界。


「昨夜うちの子が洞窟に行ったきり、帰って来ないんです。村の言い伝えは本当で、うちの子は聖なる平たい石に乗ったせいで、異世界の自販機に飛ばされてしまったのかも」


 そう訴えるゴブリンママは落ち着きなくエプロンをいじり、不安で瞳を潤ませている。


 話を聞いた大柄なオークボスが嫌~な笑みを浮かべた。


「安心しな、あんたの息子は俺が探し出してやるよ」


「ありがとうございます……!」


「た、だ、し」オークボスの鼻息が荒くなる。「俺ぁな、タダ働きはしねぇ主義なんだぜ?」


「は、はい……あの子を取り戻してくだされば、お金はちゃんとお支払いしますので」


 ゴブリンママは怯え、小声で呟きを漏らした。


 尖った牙をクチャクチャ動かしながら、ブタ顔のオークボスは笑みを濃くした。


「だめだ、金だけじゃ足りねぇ」


「え?」


「俺ぁゴブリン女に夜の相手をしてもらったことが一度もねぇんだ。ちょっと興味があるぜ」


「そ、そんな……お金はお支払いしますから」


「金だけじゃだめだ――おいあんた、息子が心配じゃねぇのかよ? いいな、可愛い坊やを探して連れ戻してやるから、あんたはパンツを洗って覚悟しとけよ」


 ペッと唾を吐き、オークボスがのしのしとその場を去って行く。


 ゴブリンママは鳥肌を立たせて震え上がったが、息子を無事に取り戻すには、腕の立つ冒険者であるオークボスに頼るしかない。


 オークボスの取り巻きをしている下っ端オークは、トボトボと歩きながら、なんだか恥ずかしくなって俯いてしまった。


 ……うちのオークボス、ゲスだなぁ……息子を心配しているゴブリンの女性を脅すなんて。マジでキモイぜ。


 でもオークボスは強いから逆らえない。


 ――洞窟に辿り着いたオークボスと下っ端オークは、聖なる平たい石の前に立った。


「さぁて、俺様が石の上に乗ってみるぜぇ」


 オークボスが斧を肩に載せ、イキリながら言う。


 そして大股に足を踏み出し、聖なる平たい石に乗ってみたのだが……。


「ん? なんともならねぇな」


 石は反応しない。ドスン、ドスン、と上で跳ねてみるが無反応だ。


 下っ端オークはホッと息を吐いた。


「な、なんだ……言い伝えは嘘だったんだ……ゴブリンの子供は野原かなんかで迷子になったんですよ。きっとそのうちに帰って来る」


 オークボスはひとりイライラして、石をダンダン踏みつける。


「くそ、つまらねぇな! なんで自販機に飛ばねぇんだ!」


「あの、もうそのくらいに――」


「くそ、くそが!」


 ドン、ドン――汚れた足で踏み荒らしていると。


 ピカーッ!


 オークボスの体が光に包まれた。


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