第9話 ユアウェルカムモシャ☆


 ゴブリンが口を開いた。


【КЛНЯЭрПБФЧذ ЭНГдБथरोзऊсज?】


 亮介は感動した――ああ、ほぼ同時に意味が理解できるぞ――【仲直りできたのか? よかったニョロ~】――。


 理解できるまでの時差が先ほどより縮まってきている。『慣れ』というか、そのうちダイレクトに理解できるようになるかも。


「ゴブリンくん、こちらが喋っている言葉――日本語は理解できている?」


【ФЗध МФбЪЦ――途中で分かるようになったニョロ】


「なんで急に通じるようになったんだ?」


【亮介、お前がお団子とやらをくれたからニョロ~】


「あれが原因なの?」


【地球のものを食べたことで、君たちと意思疎通ができるようになったニョロ~。同じ釜の飯を食った仲間というやつニョロ~】


「なるほどニョロ~」


 あ、ヤバ、語尾がうつった。


「なるほどモシャ~」


 ほぼ同時に菱屋あかりがそう言ったので、『あ、菱屋さんにはずっと語尾がモシャで聞こえているんだ~』と亮介はびっくりした。


 やっぱり語尾が違って聞こえているの、なんか恥ずいなぁ……。


 亮介と菱屋あかりはバツが悪くなり、そろって何度目かの赤面……変な箇所で青春の甘酸っぱさを味わう、ズレまくったふたり。


 んん、と咳払いしてから彼女が話題を変えた。


「なんかゴブリンくん、ていうのもアレだね。君、名前はないの?」


 小首を傾げるゴブリン。


【ないモシャ】


「ないモシャか~、じゃあ私が名前をつけてあげるモシャ。恩に着ろモシャ」


【ほんまかモシャ】


「ほんまモシャ~。どうじゃ嬉しいんかモシャ~」


【嬉しいモシャ。ありがモシャ】


「ユアウェルカムモシャ☆」


 はたで聞いていて、亮介はゾッとした……言葉の乱れ! すごく馬鹿っぽくなっているぞ、菱屋さん! しっかりしろ!


 しかし彼女は自らのヤバさに気づくことなく、腕組みをして考え始める……チクタクチクタク……待つこと二分。


「決めたぞ、君は『ゴブンゴ』だ――ゴブリン&団子――くっつけて『ゴブンゴ』――完璧に整ったモシャ!」


 ……うわ、ゴロ悪ぅ……ふたたびゾッとする亮介。


 しかし当のゴブリンが、


【わーい、僕は今日からゴブンゴ、嬉しいニョロ~】


 とはにかんでいるので、亮介は胸が切なくなり、何も言えなくなってしまった。




   * * *




 亮介の頭にふとある疑問が浮かんだ。


「ゴブンゴはさ、魔法とか使えるの?」


【使えるニョロよ~。でもトリッキーなやつが多いニョロ】


「どんなやつ? リラクゼーション的なやつはあるの? さっきまですごい緊張していたから、心身を癒す、みたいなのがあったらかけてほしい」


【できるニョロ~……亮介に、ўҷҚўаҲъИсғғ Ң!】


 呪文らしきものが響いた……と感知した瞬間、亮介の意識が途絶えた。


 ……コテン。


 菱屋あかりは突然寝転がってしまった亮介を見おろして目を丸くした。


「え、み、南町くん……!」


【癒されたいと言っていたから、寝るのが一番モシャ】


「これ、ただ寝ているだけ?」


【そうモシャ。八時間くらいで起きるモシャ】


「そか……寝ているだけならいいや」


 横向きに眠る亮介の上にのしかかり、顔を覗き込む。


 ふふ、と頬が緩んだ。


 ツンツン、と頬を突いてみる。


「ほんとに寝ちゃってる~寝顔、可愛い♡」


【確かに亮介は可愛いモシャな~】


「可愛いモシャな~♡」


 視線を交わし、なごむ人間とゴブリン。種族は違えど、通じ合えることもある。


「南町くんに枕を貸してやるかぁ」


 菱屋あかりは彼にのしかかるのをやめ、ベッドに手を伸ばして自分の枕を取った。


「んーしょ」


 亮介の頭を持ち上げ、そっと枕を敷いてやった。それから毛布もかけてあげる。


「どうするゴブンゴ? うち、パパは単身赴任でいないし、ママは仕事で遅くまで帰って来ないから、なんでもできるよ。今日は学校サボっちゃったし、下でゲームでもする?」


【ゲームぅ? それなんだモシャ】


「楽しい遊びモシャ」


【やるモシャ~♡】


 イェイ♪ ハイタッチしてから下の階に向かうふたり。


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