第5話 セルフイントロダクション
4人の配信者は軽い自己紹介を済ませた。
名前、SMOの経験歴、どんな活動をしていたか、知っておくと話がスムーズになるであろう事をおおまかにだけ。
てんとせりなはβ初期から遊んでいたことと、最近知り合った友人であること。
おやつは数日前に初めてログインした初心者であり、普段はキャプチャー技術を利用した3D配信が主であまりこういったゲームは遊んだ経験がないらしい。
ハシモットーはゲーム配信者。彼もβ初期から遊んでいたらしく、そこそこ経験があるようだ。気軽にハシさんと呼んでくれて構わないそう。
「そろそろ良いかしら?じゃあ始めましょう。あと、私には答えられない内容というものが多分に存在するわ。そういった内容が問の中に含まれている場合返答はできない。これは理解すること」
皆それぞれにうなずいて返す。
「まず、ここはスターマイスオンラインの宇宙であってるの?」
「そう。この宇宙の名前はスターマイス、その認識は間違っていないわ」
『じゃあ私たちはゲームの中に連れてこられたの?』
「あなた達がプレイしていたゲームと同じ世界、という意味ではそうだけど、厳密には違う」
『ゲームとはちょっと違うってことか?』
ウィンネスは少しだけ固まるも、すぐにまた話しだす。
「ゲームじゃないのよ」
「……ゲームじゃない? どゆこと……?」
おやつが小首をかしげる。
「あなた達がゲームだと思って遊んでいたスターマイスオンラインは、今代の宇宙創世神のメクロムが作った悪趣味なスカウトゲートよ。この場にあなた達のような契約者を集めて、戦争の駒にする。わざわざそれだけのためにね。
そしてここはメクロムが面白おかしく次代の後継戦争をするために、あなた達のいた場所とは別の宇宙を弄くり回して作られた実際に存在する世界。別の次元。」
『ゲームじゃなくて異世界、ということなの?』
「簡単に言えばそうね。ここはゲームの中ではない、ということだけ覚えておいて頂戴」
せりなの確認に返答するウィンネスの言葉には何か言い淀んでいる節があった。
「周りにいるクルーを御覧なさい。彼らもゲームの中の存在ではなくこの世界の住人よ。」
確かに、周囲の乗組員はとてもゲームのキャラクターには見えない。
それぞれが談笑したり何か仕事を続けていたりと普通の人間と変わりない動きをしている。
時折こちらの様子をうかがい、まだ話が済んでいないことを察すると口を挟まないよう離れていく。
「次は、そうね……あなたたちは自分の意志で元いた世界に帰る、ということはできないわ」
なんとなくそんな雰囲気はしていたが、実際に言葉にされると深刻度合いがまるで違う。いざ帰れないとなると、家族、友人、学校や仕事、様々なことがそれぞれの心のなかでとりとめなく溢れ出し、不安や恐怖心となって底に沈殿する。
『そんな……』
『マジか……』
「自分の意志では……なら、なにか方法があるんでしょ?」
てんはなにか別の方法があるのかと問いかける。
「あなた達の契約したヴィッグリア神がこの世界での後継戦争に勝てば次代の宇宙創世神になる。そうなったとき、あいつはこの世界に呼び込まれた宣誓者を敵味方の区別なく全員を元の姿、元いた場所に戻すことを約束してる。戦争に勝てばみんな帰れるということになるわ」
吐き捨てるようにウィンネスが言う。主神をあいつ呼ばわりとは穏やかではない。
「元の姿ってことは、そのときは自分の体に戻るの?」
おやつが胸に手を当てて心配そうに尋ねる。
「姿が、ね。ここに来る時に作り変えられているだけで、その体は元々のあなたのもの。魂も肉体も合わせてこちら側に呼び込まれているわ」
「そっか……ざんねん」
「?」
おやつがぽつりとこぼした言葉を聞き、てんは振り向く。
「ん?……あはは、私このキャラデザすごく気に入ってて、ほんとにこうなれたらなぁなんて思ってたから」
てんに聞かれたことに気づき、彼女は少し赤面しながら、本音を吐露する。
「あなた達の姿、それぞれ理由はあるでしょうけど大半の場合で理想の姿やなりたい自分というのを反映していると聞いているわ。そういう世界なんでしょう?ええと、
『ストリーマーってかVの子らの場合だな』
ハシモットーが割り込む。てん達と見比べてみると彼だけは「普通」な容貌。髪の短めの、ただのおっさんといった外見で逆に浮いている。
「確かにあなたは召喚前と特に変化が無いようね」
『俺はVじゃなく顔出しでやってたからそのままぽいなあ。まぁ服は変わってるけど……』
ハシモットーはゲーム実況者。カメラで実際に自分の顔やリアクションを映して配信をしている。そのため現実の容姿そのままにこの世界に来たようだ。
『先に言ってくれれば俺もガワを用意したのになぁ!』
はっはっは、と笑って見せる。重苦しい雰囲気を払拭してくれようとしてくれているのだろう。楽しげでいい人そうだなと、てんはわずかに微笑む。
『確認なんだけど、宣誓者っていうのは私達みたいな連れてこられたプレイヤーのこと、でいいの?』
せりなが真剣な眼差しを向けながら聞く。
「そうよ」
『ウィンネスさんはさっき他にも受け持ちがあるって言ってたけど、他にもSMOをプレイしていた人がたくさんここに連れてこられたの?』
「そう」
『あの! ならそのほかに連れてこられた人の中に、知り合いがいるか確認させて欲しいの!』
珠姫や鍵巻、他にも彼女の交友関係なら安否が気になる人間は多いだろう。てんにも少ないながら、Vtuberや実況者の友人がいる。そして彼らもSMOをプレイしていた。
「その願いは聞き入れられない。」
『どうして!?』
「さっき言ったでしょう? 答えられない内容もあると。どこに誰がいるか、そういった重要な情報を私があなた達に伝えることは出来ないの」
「なんで?どうせ合流するんだし、いま教えてくれると何かよくないことでもあるの?」
おやつの疑問に、ウィンネスは噛み砕いて説明を加える。
「いい?神命という達成しなければならない目標自体はあなた達に示される。ただし、この先に何があるか、誰がいるのか、どうすればいいのか、そういったことは全てあなた達自らの手でなんとかしていかなければならないのよ。私は知識を伝えることは出来るけど、直接手助けになるような事は許されていないの」
「なるほど」
わかった感じの雰囲気を出し何度もうなずくおやつ。
てんはその横で、一つ重大な見落としをしていることに気が付いた。
「ウィンネスさん!」
「さん、は不要よ。様とかも要らないからウィンネスと呼びなさい。」
「あ、うん……じゃあ……ウィンネス、神様は後継戦争をしているんだよね?」
「ええ。そうよ」
「じゃあ、神様は何人もいる、あってる?」
「そこは伝えてもいい内容だから教えてあげる。後継戦争に参加しているのは6神よ。全ての宣誓者は6つの陣営に振り分けられた。契約なんて名ばかりね。」
せりなやハシモットーも、てんと同じことに気づく。
『ちょっとまって、戦争をしてるんだから当然、他の神って敵になるんだよね?』
「当然でしょう」
『てことは敵の軍隊にも宣誓者がいるってことか…?』
「そこまで言わなきゃわからない?」
やり取りを聞いて感じ取ったのか、おやつも少しうわずった声で尋ねる。
「もしかしてだけど、私達、他のプレイヤーと戦わなくちゃいけないの?」
ウィンネスは少し考えているような素振りを見せる。
端的にか、噛み砕いてか、返答の内容を吟味したのか、静かな声色で話しかける。
「そう、そしてそれだけじゃない。あなた達は今後知っている人や友人、そういった類が敵として現れて、戦うことになるかもしれないのよ」
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