第4話 ブリーフィング
「せりなさん!何があったんですか?」
『こっちもなにがなんだか……とりあえずてんちゃんが無事で安心した。』
ディスプレイの向こうで安堵の笑みを浮かべるせりな。見知った顔に出会えて気持ちが少し落ち着くのはてんも同じだった。
「お喋りのために繋いだわけじゃないから。そういうのは後でよろしく」
金髪少女が強めの口調で遮る。そして気だるそうに左の手首を指さしながら説明を始める。
「まず左手首を確認して」
一同が自身のそれを確認する。左の手首の周りに何やら帯状の光体が腕輪のように浮かび上がってきた。鮮やかなブルー、ひし形を中心に両側に抽象化された翼のようなものを配置したデザインをしている。
「まずそれが宣誓者の証、オースバンド。目を向けて念じれば操作できる。その色と形があなた達の契約する神を表している」
『宣誓者って?』
ディスプレイの男性、ハシモットーが口を挟むも、少女は一瞥もくれずに話を進める。
「あなた達が契約したのはヴィッグリア神。そして私は使徒ウィンネス。しばらく面倒を見てあげるから、言う事を聞くように」
ここで彼女はようやく名乗る。露骨に不機嫌そうな表情と声色。やる気も、興味もなさそうで、本当に面倒を見るつもりがあるのか怪しいところだ。
「開いて」
「開くって?」
おやつが声をかけると、ウィンネスは返答こそしないものの左手首をチョイチョイと指さしてから眉間に指を当てるジェスチャーをしてみせた。
オースバンド、目を向けて念じれば操作できる。先程彼女が言っていた内容を思い出し皆それぞれ「開け」と頭の中で唱える。すると光の帯からホロディスプレイのようなものが現れた。
◆美那星 てん
契約:ヴィッグリア神
所属:
役職:巡洋艦ナローアレイ艦長
てんの目の前に、自身の簡単なステータスのようなものが表示されている。
「今出てきたのがあなた達の基本情報。好きに書き換えたり出来ないから、そこだけ開示することで身分証の代わりにすることも想定されているわ。他の情報も見れるから、各自念じてみなさい。」
ページ送り、項目、とりあえずそんなことを考えてオースバンドに目を向ける。
すると、浮かんでいた情報がフワッと別の内容に切り替わる。
◆登録者数:1500
◆SC保有:0
『とうろくしゃすう? SC……ってのが出てきたけど…』
せりなが声を漏らす。
「登録者数、みんな心当たりはあるでしょう? ここについてわざわざ説明するまでもないと思うけど。SCはスーパーチャージ。投げ銭と言ったかしら?貰うんでしょ、あなた達」
突然現実的な話題が出てきた。1500、てんの記憶している最後のチャンネル登録者数より300人程多い。こうなる直前の配信で増えたのだろうか。
「SCは……ご褒美といえば伝わるかしら。使えるタイミングは多くあるからいろいろ試してみたり、都度覚えていきなさい。あと、働き次第でヴィッグリアさまからも振り込まれるかもしれないから、励みなさい。」
あまり詳しくは教えるつもりはないようだ。かといって聞いても不機嫌になる。それに、神の使徒を名乗っていたが彼女の態度からは主神を崇め奉る気がさらさらなさそうな印象すら受ける。
「そこにまとめられる情報はまだまだあるわ。適性や、能力なんかも後で見ておくように。」
(((いや全部説明してくれ)))
投げやりな対応に、一同心のなかで口を揃えて突っ込んでしまう。
「ひとまずあなた達に与えられている神命を伝える。指定宙域に向かって味方と合流なさい。私の受け持ちの宣誓者をそこに集めるわ。」
「神命って……いきなり……」
てんがつぶやく。
「あなた達に耳馴染む言い方をすればクエストとかミッション、に言い換えるべきだったかしら?」
「そうじゃなくて!いきなり連れてこられて、ろくに説明もないし、無理やり神命だのなんだの言われたって……そもそもここは一体……」
ウィンネスはそこで初めて不快感以外の感情がこもった表情を見せる。
少し驚いたような、訝しげな顔つき。
「いきなりとか無理やりとか、あなた達自らの意志でここに来たんじゃないの?」
「え?」「!?」『…?』『はぁ?』
「事前にちゃんと確認があったと聞いてるけど?文言までは知らないけど。」
「……まさか、ゲームの中に出てきた意味不明な選択肢、アレのこと……?」
「あ! 戦いを誓うか!? みたいなやつ!?」
『あれだけでこんな状況になるなんてわかるわけないじゃない……』
てんとおやつ、そしてせりなの反応を見て、ウィンネスは深いため息をつく。
「なによそれ……こっちの仕事が増えるじゃない。だからどこも皆話が通じてないのね。」
『いやいやこっちからしても話通じねーって感じなんだけどな』
不満を漏らすハシモットー。すると、画面の脇からウィンネスが現れ、至近距離から彼の顔を無言で睨みつける。
『うおっ!?あ……スンマセン……』
「!?」
男性が平謝りするのを横目に、てんは自分の側にもウィンネスの姿があるのをしっかり確認する。
男性に詰め寄って圧をかけているのも、目の前で眉をひそめ腕組しているのも、どちらも全く同じ姿をしている。
「え?ふたり?」
ディスプレイと、目の前、何度も何度も見比べる。
「私は使徒だって言ったでしょう。自由に移動したり、同時に別の場所に存在したり、そんなことは当たり前にできるんだからいちいち驚かないで頂戴」
じゃあ先に言ってくれ……と思うも、それを口に出せばまた機嫌を損ねてしまいそうだ。
けれど、このままどんどん湧き上がる疑問や不安をそのままにはしておけず、皆声を上げずにはいられなかった。
「じゃあウィンネス……さんも神様ってこと?」
『さっき受け持ちがまだいるようなこと言ってたけど、他にも連れてこられた人がいるの?』
「そもそも何のために私達呼ばれたの? ここってゲームの中?」
『てか今更だけど君らどなたさん? 誰かどうすりゃ帰れるか知らん?』
4人がほぼ同時に思うことをぶつけてしまい声が重なってしまう。
「はぁ……待ちなさい」
使徒様は姿勢も表情も変えないまま立ち尽くす。しばらくすると深いため息つき、口を開いた。
「あなた達は神に誓いを立て、名誉と褒章、そしてこの世界で望んだ姿と引き換えに、その生命を預けました。
これからは主神の名のもとに戦い、敵を打倒し、領土を増やし、あらゆる手段を講じ我らがヴィッグリア神の名を、力を高め、次代の宇宙創生神の後継戦争での勝利への礎となるのです。」
先程までとはまるで違う、芝居がかった様子で話し始める。
「ヴィッグリア神は慈悲深きお方です。勝利の暁には、全ての配下に褒賞を与え、そして敵の区別なく全ての宣誓者の帰還を約束されます。」
胸の前で両手を合わせ握る。頭の上には光輪のようなもの、可憐な少女の風貌、白く透き通る美しいドレス、その姿はさながら天使……実際天使のようなものだが。
てんやおやつ、他の乗組員が着用しているSFチックなスーツとはまるで趣が異なる質感やデザインを。これがことさら彼女が他とは違う別の存在というのを際立たせていた。
「我が名はウィンネス、偉大なるヴィッグリア神の10番目の使徒として、あなた達を導きます。」
言い終えると、表情が曇りもとの雰囲気に戻る。
「今ので理解した者は挙手なさい」
当然、誰も手を挙げない。
「いいわ。今のクソ台本に対する感想は私も同じ。あまり気が乗らないけどそうも言ってられないようだし、あなた達の質問にある程度答えてあげる」
少しだけ、今までなかった柔らかい表情。指をチョイチョイと動かして問いかけを待っている。
先程のこともあり、てん達は誰が切り出すのか、ちらちらと様子を伺っている。
せっかくその気になったのに、とでも言いたげに口を尖らせ、ウィンネスが提案する。
「じゃあこうしましょうか。わからないことだらけなら一番身近な疑問から解消する。あなた達、自己紹介をなさい。これから戦友になるのだから、重要な情報だと思うけれど?」
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