第2話 ファイナルイベント
「なんだろうこれ?」
「イベントって13時くらいからの予定でしょ? いくらなんでも早すぎない?」
「ってか神って、そんな設定なかったよなこのゲーム」
3人とも同じメッセージが見えているみたいで内容について思案してる。
たしかにこのゲームは神様が出てくるような世界観じゃない。設定は細かいし、ゲーム内にも読み物がたくさんあるからそれを洗えば神話の設定とかはありそうだけど、表立って神とかそういうのが出てくるようなシーンは今まで一切なかった。
イベント参加の手順……だとしても時間がまだ早いしこんな見たことのないUIで出てくるものなの?
「なんぞ?」「イベント前倒しか?」「お前も見えてんの?」
ステーション内の周囲のプレイヤーもざわめきはじめる。コメント欄も同様だ。
・なんか仰々しいのでたwww
・参加参加
・ちかえー
流れてくるコメントにどう答えようかと考えていると、メッセージウィンドウがゆっくり消失していくのに気がついた。無意識のうちに、【はい】を選択していたらしい。
「あ、選んじゃった……」
「ん?てんちゃん押しちゃった?」
「あ、はい」
ぽかんとする僕の隣までせりなさんが歩いてくると、くるりとその場で回りながら指でスイッチを押すような仕草を見せた。
「はい、私も参加」
同時にウインクもして見せてくれた。こういう動きができるのはVRならではだな……
変なとこだけ冷静に考えていると、後の二人も続いた。
「まぁ【はい】で安パイだろ」
「これがイベントなんでしょ」
他にも周囲の声が耳に入る。周りにいるプレイヤーも【はい】を選んでいるみたい。
「何が起こるかな?当ててみてよてんちゃん」
せりなさんの声からはワクワクした感じが溢れてるのがわかる。だけど僕は、何故か急に不安でいっぱいになってくる。ゲームでこんなこと、今までなかったのに。
「どうかした?」
再度声をかけられてハッとした。
「いえ、なんでも……」
そこで僕の声はかき消された。
大爆音。そして画面は激しく揺れた。
すぐさま警報がなり、そこら中で警告のホロディスプレイが表示されてアナウンスが流れ始める。
『当ステーションは攻撃を受けています。宣誓者は直ちに戦闘行動を開始してください』
「きたぞ! 」
「イベント早まったんだな! ちくしょー準備不足ぅ! 」
「うそー!? そういうの言ってよホント! 」
そこら中でプレイヤーたちが慌てて動き出す。
「始まったんだね。いこう!」
「……はい!いきましょう」
考えても仕方がない。とにかく悔いが残らないようにしっかりプレイしなきゃ。
船に戻って艦橋にたどり着くと、副艦長が現状を教えてくれる。
「現在未確認の艦隊から攻撃を受けています。」
「それは知ってるから他に何かわかってること教えて」
このゲーム、なんとNPCが問いかけに答えてくれる。
聞けば答えてくれるし、指示を出すと従ってくれる。リアル艦長気分。
「敵艦隊がワープアウト後に戦闘機を展開、ステーションの警備艦艇が応戦しました。殲滅後、敵艦隊は再度戦闘機を展開。現在警備艦艇が第二波と戦闘中で、停泊中の艦艇に救援を求めています。」
「わかった。出港して。あと敵の位置や数を」
ポートから出ると、おかしな形をした戦闘機が船の真下辺りを通り抜けるのが見えた。
同時にドッキングポートの一部が爆発して壊れる。
「すごい近くまで来てる……」
「敵艦は現在7隻。いずれもステーションより距離をとって密集しています。
そこから攻撃機が18機発進されており、警備艦艇が迎撃中ですがすり抜けた3機がステーションへ攻撃を行っています」
副艦長が伝えてくれる。
「とりあえずステーションから離れて戦闘態勢に」
指示通り船は移動を始める。同時にエネルギーシールドを展開。武装の安全装置も解除され、いつでも交戦できる体制が整った。
『てんちゃん、艦隊編成するから参加できる?』
せりなさんから通信。
「はい! 申請しますね」
即席でチームが作られていく。リストには珠姫さんや鍵巻さんの名前もある。他にもステーションにいた参加者に声をかけてるみたいで総勢16名のプレイヤーの艦隊になった。
『参加してくれたみなさん、申し訳ないですが私が指示だしても大丈夫ですか?』
せりなさんが確認を取ると、誰も異論を唱えなかったため旗艦が彼女の船に設定される。
『ではいきましょう!』
まずはステーションに到達した戦闘機の撃墜やその後の迎撃のための防衛隊、敵艦隊を直接攻撃する攻撃隊、攻撃隊の支援や不測の事態に対処するための支援隊に分けられた。
僕の船は攻撃隊、せりなさんも一緒。
攻撃隊は前進してステーション護衛艦艇と合流し、彼らを取り巻いていた戦闘機の撃墜に取り掛かった。カニみたいな形の見たことのないタイプだ。
船に艦載機を搭載している人たちはそれらを発艦させていく。僕のウールフェルト号には格納庫自体はあるけどパイロット雇用と機体のコストの関係で艦載機は搭載できてない。なので対空兵装で援護。
次々に敵戦闘機が落ちていく。拍子抜けというか、普段ミッションやPVPで戦う航空ユニットよりも弱い気がする。あっという間に敵戦闘機は全滅。護衛艦艇がステーションに退避していく。
ステーションの周りにいた戦闘機もとうに防衛隊に排除されていた。
「敵艦隊前進します」
敵艦隊は1隻を残して残り6隻が均等に広がりながらこっちへ向かってくる。観測室から画像が送られてきたけど、今度はザリガニのような形に見える。
『攻撃隊は支援隊の直射上に入らないように前進して迎撃しましょう。
支援隊の皆さんはMAGで牽制してください』
MAGというのはMagneticAccelerationGun、マグネティックアクセラレーションガンの略で、いわゆるレールガンというやつ。実体弾を超高速で射出する質量兵器だからエネルギーシールドに影響されない。あのザリガニがどんな防御手段を持ってるかわからないけど、とりあえずこれ撃っておけば間違いない。
支援隊に配置されているMAG搭載艦は珠姫さんを含めて5隻。
MAGには色んな種類がある。対艦攻撃に使うような高威力のやつはかなり大型で基本的に艦の中央、船尾から船首に向かって芯のように組み込まれてる。
撃つまでに時間がかかるのもそうだけど、標的に向かって砲口のある艦首を向ける必要があるからいざ戦闘となると案外扱いにくい武器。
今回は攻撃隊が前に出て、MAGを撃つ支援隊はそれよりずっと後方にいるから落ち着いて撃てるのかな。
支援隊各艦から攻撃の合図が出て、MAGが発射される。敵艦の動きが単調だったからかどうやら初弾で全弾命中。防御力も大したことないようでどれもそのまま爆発してしまい前進してきた6隻の敵艦はもうあと1隻のみに。残る敵船はわずか2隻。
「え、なんか弱すぎないかな?」
あまりのあっけなさにまた不安になる。コメントでも歯ごたえがない、って意見が多い。
「これで終わりなわけがない……よね?」
前進してきた残りの1隻も他の船が撃沈させてしまう。自分はまだほとんど何もしていないのに。
不安なのか不完全燃焼なのか、なんともいえない気持ち。最後の1隻に向け、攻撃隊は前進する。
『おい! なんか来るぞ! 』
防衛隊に配置されていた鍵巻さんが大きな声を上げた。
すると自分たちが展開している方向とは別の場所から、敵艦が次々にワープアウトしてきた。
『これが本番か! すげえ来るぞ! 』
別方向からもどんどん敵が現れる。
数も多いし展開している場所も増えている。さっきまでと一気に雰囲気が変わった。
これは高難易度ミッション……って感じだ。
そこからはぐちゃぐちゃだった。
まずステーション近くにいた防衛隊が敵から攻撃を受けた。
助けに行こうにも他にも敵が現れるから直行できず迎撃に力を割かれる。
防衛隊は数を減らしながらもなんとか離脱して攻撃隊、支援隊と合流。
前進してくる敵艦をみんなで協力して捌いていくものの、いくらなんでも多すぎる。減らしてもすぐに増援が現れてキリがなかった。
どんどん接近され乱戦になって大混乱。通信内容を聞くに味方への誤射まで起き始めたみたいだ。
いつのまにか16隻あった味方艦はもう半分。
戦闘時間が長引くと、みんな疲れて判断が鈍くなってくる。
普段はしないような初歩的なミスだったり、うっかり何か見落としたり。
シールドが消失したままなのに回復を待たず攻撃に参加しまた1隻、回避進路を誤って敵艦にそのまま突っ込んでしまいまた1隻、味方がいなくなっていく。
自分にも焦りや混乱はあった。なんだったら頭も痛い。だけど何が起きてるのかとか、今どういう状態なのか、っていうのが不思議とじっくり感じられる。
あ、これ発作だ。周りがゆっくりになるやつ。不思議の国のアリス症候群の。
敵の動きと味方の動き、入ってくる通信、流れるコメント、どれもきちんと頭に入ってくる。
ただ、それにどう対処していけばいいかを思い描けるかは別だけど。
ふと1隻の敵艦の動きが気になった。シンプルに攻撃を仕掛け続けてくる他の敵艦と違って、距離を詰めすぎず、乱戦には入らず、一定の間合いを保とうとしている、そんな感じの動きをしている気がした。
解析を指示すると、それが最初に現れた7隻のうちの最後の1隻だった。
もしかしたら、あれを倒したら何か起きたりするのかな?
「せりなさん、マーカー付けるんでそこの敵なんとか出来ますか?」
『わかった!指定して!』
返答を聞くと、マーカーでポイントを指示。例の最初のやつを攻撃するには、ここを突破したい。
『もうそろそろ限界だからすぐいくね』
せりなさんの船と、もう1隻が進路を変えて先行してくれる。自分もすぐあとに続きながら、追尾してくる敵艦の攻撃を凌ぐ。
味方の攻撃で敵が減り、動き、乱れが出来て、なんとか単艦でも突破できそうな状態になる。
「奥にいるやつ倒しに行くんで後は任せてもらって大丈夫です!」
『がんばれって!』
それでも敵はまだ残ってる。ゴリゴリに撃たれながらも無理やり船を前進させると、例の最初のやつが離れていこうとする。
「逃さない!」
追いかけてくる敵から攻撃を受け続ける。機体の耐久値はもうかなり少ない。
あとちょっと、もう少しで主砲の必中圏内……
回避軌道を取っていた標的が急転回してこちらに向かってきた。
こっちはボロボロだから逃げるより倒した方がいいってこと? あのザリガニはこっちを甘く見てる。
前方から攻撃。艦首の右側が吹き飛んだ。だけど兵装は無事。
こちらもお返しだ。3つある2連装粒子砲を続けざまに目標に撃ち込ませる。
2射で標的のエネルギーシールドが消し飛んで、続く1射が真芯を撃ち抜いた。
ザリガニは頭が吹き飛んだまま直進を続け、すれ違ったあたりで爆発した。
「やった——」
撃沈したのもつかの間、背後の敵の攻撃でウールフェルト号は限界を迎えた。
『てんちゃーん!』
せりなさんの呼びかけが聞こえたあたりで機体が爆発。死に戻りでホームポイントへ転送される。
戦況が気になる。あれをやっつけたことでなにか変わってたらいいけど。
一息ついた後コメント欄の確認をしようとモニターに目を向けると、また頭に直接響くような重低音とともにメッセージウィンドウが表示された。
【宣誓者、美那星 てん。神命を待て。】
選択肢も何もなく、ただ表示されているだけ。
いったい今度は何だろう、顔を画面に近づけて目を細めると、急に視界に光の渦が現れ始めた。
モニターからじゃなく、自分の視界に直接。
びっくりしてのけぞると、その勢いで椅子から転げ落ちてしまう。
音は鳴り止まない、そして眼の前がぐるぐるしているせいで、平衡感覚がなくなってうまく立ち上がれない。発作で視界が歪んだりすることはたまにあったけど、光る渦は初めてだ。
気分が悪い、吐きそう。
手で押さえようと口元に手を動かしたとき、指先が、手のひらが、腕が、うねりながら光って、少しづつ光の粒になって消えていくのが見えた。
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