スターシップストリーマーズ ~配信者宇宙戦争に巻き込まれた少年、転移先では美少女艦長になっていた~

ばうまお

第1話 スターマイスオンライン


 わけがわからない。


「シールド出力低下! 艦長、指示を! 」


 爆音とともに辺りが揺れて、慌てた表情の男性がこっちを向いて叫んでいる。


(艦長……って僕のこと?)


 状況は不明……だが艦長と呼ばれているということは、船に乗っているのだろうか。

 

 周囲を見渡すと壁や床は金属質、沢山のシートやらモニターやらが見え、人も多くいる。そして正面の大きな窓には宇宙空間が広がっている。


(宇宙船……?)


 そしてふと、自分の体にも違和感があるのに気がついた。

いつの間にか見たこともないぴったりしたスーツを着せられているし、それだけでなく何やら胸元が窮屈で、股下にあるべきものの感覚がまったくない。


(これって……もしかして……)


 目の前にあるモニターのパネルサイドにわずかに反射する自分の顔を見て、なんとなくだが分かりかけてきた。

 

 自分の頬に手を触れると反射の中の「少女」も同じように頬を指でなぞる。

そうか、今自分は女の子になっている。くりくりの大きな瞳に黒い肌、ふわふわの銀髪は両サイドに羊の角のようなお団子があって髪飾りがそれを彩っている。

 

 そこに映る少女の姿には心当たりがあった。


 美那星みなほし てん


 自身のネットでの、Vtuberとしての姿だ。


 再び轟音とともに周囲が大きく揺れ、現実に引き戻される。

何故こんなことになっているのかは不明ではあるものの、状況は理解できた。

ここは自分が遊んでいたゲームの世界で、そこにVtuberの容姿そのままにやってきてしまったのだ。


 思い出せ、頭を整理しろ、さっきまで自分は何をしていたのか……

そして今、何をするべきなのかを。


 鋭い頭痛とともに、周囲の動きが遅く見えてきた。



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 カーテンをすこしだけめくると、勢いよく陽の光が差し込んできた。

とてもいい天気なんだけど僕にはあんまり関係ないかな。天気が良くても悪くても、最近はほとんど外には出ないしやることはいっつもいっしょ。

夏休み中の高校一年生にしては不健康だな、なんて言われると思うけど、実際体調はあんまりよくない。


もともと虚弱体質だったけれど、中学2年の頃に流行り病にかかってからというもの後遺症なのかずっと調子がおかしかったりする。

疲れやすく少しのことで息がすぐ上がるし咳き込む、頭も時折はげしく痛む。


感覚もおかしくなった。目で見ているものの大きさとか距離感なんかが頻繁にバグってる。

自分の体もふわふわした感じになったり、周りの時間の流れが異様にゆっくりに感じたりもよくある。

検査してもらったけど原因不明。

こういうのを【不思議の国のアリス症候群】って言うらしい。


 「よしっ! 」


 椅子に腰掛けて机の下に潜んでいる大きなPCの電源を入れる。モニターが連動して、すぐさまデスクトップが表示される。

高性能ゲーミングPCというだけあって立ち上げも高速でストレスフリー。

手早くマウスを操作し、配信に必要な準備を整える。


 僕の名前は天ノあまのがわ かける。16歳、男子高校生、そしてさっき配信と言った通り動画配信者ストリーマー

分類はVtuberになって、その姿での名前は「 美那星みなほし てん 」。

自分の苗字をベースにいい感じの名前にしようと考えた名前……というのは後付かな?

「そういうの」が得意な友達にだいたいこんな感じで……ってイメージを伝えて、出来上がったキャラクターのイラストを見てからどうしたものかとひねり出したってところ。


 てんのイメージは、自身と真逆になるような依頼をした。

僕の虚弱体質を表すかのような真っ白な肌、疲れたような眠たいような印象のたれ目、毛量多めで重たい印象のくせ毛な黒髪。

真逆にしたらどうなるかな?肌は黒めにして、目は大きくぱっちりと、髪は輝く銀色で全体をふわっと膨らませようかな?


 こんなオーダーから生まれたのが、羊を擬人化したかのような可愛らしい女の子のキャラクターだった。


 そう、性別を指定するのを忘れてた。そんな事言わなくても当たり前のように男性キャラクターで考えてくれるものと勝手に思い込んでた。

ただ彼が言うには僕の声質的にはこのデザインでも別に違和感がない、というかむしろマッチしてるだろと太鼓判を押してくれたので、じゃあこのままでいっかと煽てられるまま決定。

そもそも動画配信するのも彼の勧めだったっけ。


 一通り機材のテストをしてから配信告知、ライブを準備中にして一旦席を立ち、冷蔵庫から飲み物を取ってくる。

紅茶風味の炭酸水。大好きだけどあんまり売れてないのか最近は最寄りのコンビニでは買えなくなった。

キャップを開けて一口ゴクリ。炭酸飲料って、なんていうか飲むと自分のなかのスイッチが切り替わる気がする。


「みんなおはよー。今日もSMOやっていくね。」


 マイクに向かって挨拶、ゲームを起動していざライブ!

SMOというのは「スターマイスオンライン」の略称。宇宙を舞台にした大規模なMMORPG。

こことは違う世界の大宇宙スターマイスを舞台にプレイヤーが自由に生きていくゲームだ。


いろんな星系があって数えきれないほどの星や拠点がある中で、宇宙船に乗るも、ステーションに住むも、惑星に居を構えるも自由。どこにも属さずに流れ行くこともできる。


やれることも多彩で、冒険家、開拓者、軍人、傭兵、商人、生産者、海賊、それ以外にも職業になるものがたくさんある。


キャラクリの設定項目も充実してるから見た目も思いのまま。僕もてんの姿そのままにクリエイトしたよ。

そしてVRにもデスクトップにも両対応で抜かりなし。僕はヘッドマウントディスプレイを持ってないからデスクトップだけど……


 ログインしている間に視聴者数が伸びていく。

まだお昼前だからそんなに見てくれる人はいないかな?と思ったけど、嬉しいことに30人ほど来てくれていた。個人勢の僕にとって、この時間帯にこの人数は大快挙。まぁ実際のところ、これは運が良かっただけなんだけども……


 というのもこのゲームはまだクローズドβテスト。しかも特殊な。

配信者のみがベータに招待されているらしく一般ユーザーは存在しない。周りのプレイヤーは知名度の差はあれどみんなストリーマー。それぞれが動画配信を行っていて、視聴者がそれを観る。

みんなは応援してる人や推しのVの活躍を楽しみつつゲームのことを知り、このゲームがリリースされたらこんなふうに遊びたい、とか一緒に冒険したい、みたいに期待に胸膨らませる。


 そして僕はこの間までは同接最大20人くらいだったんだけど、なぜかSMOのゲームクローズドβに招待がきた。その時はまだ話題にはなってなかったんだけど、β開始から数日のうちに大手のライバープロダクション所属のVや、有名なゲーム実況者たちがこぞって参加しだして一気にブームになっていった。


 僕も初日から配信で遊んでいて、ゲーム内で他の配信者と協力したり戦ったりしてるうちにいつのまにか視聴者が増えていた。昨日のゴールデンタイムは同接200人を超えたみたいで達成感からか、配信後は頭痛もなくすごくぐっすり眠れた。


「β最後の日だしいっぱい楽しまなきゃね」


 7月下旬から始まっていたこのクローズドβも今日の16時に終わり。ちょうど世間一般の夏休みの期間と合致している。夏休み自体はまだあと数日あるけど。

 β終了後はあまり間を置かずに正式リリースをするらしく、その時にシーズン1が開始されるとのこと。


 視聴者コメントにも返答してかなきゃ。

・今日なにするの?

・イベント参加だよね

・明日からなにするの?


「今日はね、ラストイベントだから、それに向けて準備していく感じ。戦闘に参加するよー。だから手持ちの物資やお金は全部使って艦の強化とかしていこうかな?明日からはどうだろう?なにかおすすめとかあったら教えてほしいな」

 

 流れてくるコメントに受け答えしながら、キャラクターを操作して自分の宇宙船の進路を設定する。

事前予告では今日の13時前後に最後に大規模な戦闘イベントが起きるらしく、それに向けてか昨日から周囲の動きが緩やかになっていた。

 イベント前に間違って手持ちの資産をすべて失うようなことがあれば、周りが大盛り上がりする中指を咥えてみているハメになっちゃうしそれは避けたいだろうしね。


 艦の強化のために勢力圏内の大きな造船ステーションに航路を設定。


『ウールフェルト号、ワープします』


 操舵手がそう告げると、エネルギーの充填の後にワープドライブが起動し超光速空間に突入する。しばらく待てば目的地だ。ちなみにウールフェルトは僕の船の名前。

 手持ち無沙汰だから自キャラを操作して艦内をブラブラさせながらコメントを読んでいこうかな。


「船内が見たい? いいよー」


 このゲームは作り込みが凄まじく、宇宙船は外見だけでなく中もしっかり存在している。

艦橋はもちろん、艦長室もあるし、機関室だったり格納庫やその他諸々ちゃんと意味があるような配置で作られてて見て回るだけでもなかなか面白かったり。

 しかも乗組員も船の規模に合わせてちゃんと乗っていて、それぞれが歩き回ってたり、船内の持ち場についてたりもして芸細。全員名前も設定されてる。


「食堂だよ。なんか変なの食べてるよねコレ」


 乗組員がテーブルに置いて食べている謎のカラフルなトレーを指して笑う。


「機関室とうちゃーく。ワープ中だからすごい光ってるねここ」


 ワープしているから当然ワープドライブは音を上げて青白い光を放っている。


「すごーい。今気付いた! 乗組員の部屋、それぞれ置いてあるものとか違うんだ! 」


 視聴者とともに物見遊山に耽っている最中にアナウンスが入る。


『まもなくワープアウト』


 艦橋に戻るとタイミングよくワープが終了。

眼前には小さくステーションが見える。実際にはまだ距離が離れているからそう見えてるだけで、かなり大きいんだけどね。

 周辺の警備艦艇から認証を受け、ステーションへの接舷許可をもらう。


『ウールフェルト号、ポート21にドッキングを許可します』


 ドッキングポートに接続され、無事に入港。船を降りてステーション内を歩く。

目的は船の強化だから行くところは決まってる。


「ここのところ火力不足気味だったし武装が最優先だよね? 」


 視聴者に問いかける体だけど、絶対武装。決定事項。

艦艇用武装のカスタマイズショップにずんずん進む。


「こんにちはー!」

「どうもこんにちは」


 道すがらすれ違う他のプレイヤーと挨拶を交わす

今声をかけてきたのは初めて見る人だな。ピンク色のポニテの、元気そうな女の子。


・今のおやつちゃんだ

・うりんたんいた


 コメント欄のみんなは知ってるみたい。おやつ?うりん?どっちが名前で苗字かな。

そんなことを考えながら通路を曲がるとショップに到着。店の前からこっちに手を振る人が見える。


「あ! てんちゃん、やっほ。さては戦いの準備しにきたな? 」


 声をかけてきたのは、女性Vtuberの久納宮くのみや せりなさん。前に一緒に協力ミッションをする機会があってそこで知り合った。

あいあんめいずっていうVのグループに所属していて、登録者数もかなり多く人気がある。

僕みたいな個人勢にも気さくに話しかけてくれて面倒見もいい人だ。

彼女の配信を観たことがあったし、チャンネル登録をしてたりもするからあまり騒がないようにしてるけど内心感激してたり。


「こんにちはせりなさん。そっちもそのつもりできたんじゃないですか? 」

「私は違うよ。ここに来たのは付き添い」


 彼女は笑いながらそう言って後ろを指差した。


「こんにちは」「やぁやぁこんちわ」


 そこには二人のプレイヤーがいた。


「てんちゃんは初めましてになるね。二人は……」

珠姫たまひめ みすず です。よろしくね。」

鍵巻かぎまき ピロウ! よろしく! 」


 せりなさんの声を遮って二人がそれぞれ自己紹介をする。


「あ、初めまして! 美那星てんです」


 こちらも慌てて自己紹介。ふたりとも見たことがある

どちらもあいあんめいず所属の有名ライバーだ。


「ピロウちゃんの船が昨日壊されちゃったから新しいの仕入れに来たの」


「壊したのはここにいる珠姫なんだけどな! 」


「弁済してあげたからいいでしょ。あ、こいつが射線に突っ込んでっただけで私は悪くないからね?」


「あはは……」


 やり取りを見てコメント欄が盛り上がる。


・久納宮すこ

・珠姫の配信見たけどあれわざとだろwww

・てんちゃん、この3人と艦隊組める!?


 僕は突然の大物3人を前に若干萎縮気味。コメントを目で追うだけで精一杯。

そこに突然、頭に響くような大きな重低音とともにメッセージウィンドウが表示される。


「え?……なにこれ」


 このゲームで今までこんな表示は見たことがなかった。


「……あれ?」

「なによこれ」

「おん?」


 3人にも同じものが見えているみたい。

僕はメッセージウィンドウに表示される文字を読み上げた。


「……『神の御旗の元、戦う覚悟を誓うか?』」

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