第10話
ケイトside
カジノの階に行くまでのエレベーターの中で、俺の手から逃れようとするテラさんに少し胸の奥が痛くて、俺は繋ぎ合わせられたその手をさらに引きよせ離さない。
T「あのさ…手…」
K「カジノ…人でごった返してるから迷子にならないように…と思って。」
T「そ…か…」
そんなの嘘…
テラさんに触れていたかった。
ただ、それだけ。
静かすぎるエレベーターが降りていく間、俺はただ無言でテラさんの手を握っていた。
カジノに着くとテラさんは下を向き体を縮こめる。
俺にとっては金や酒…そして暴力にまみれた世界は当たり前でその世界しか知らずに生きてきた。
しかし、テラさんはきっと違うだろう…
ふと、テラさんの横顔を見るとその横顔はとても純粋で俺には眩しすぎた。
K「…カジノ興味ないですよね?」
T「私には場違いだから…」
K「じゃ……いいとこ連れてってあげますね。」
そこは唯一、俺が癒されて若頭ではなく1人の青年ケイトとしていれる大切な隠れ家のようなそんな場所。
なぜか不思議とそこにテラさんを連れて行けば喜んでくれると俺は感じた。
ガチャ
扉の向こう側にはいつもの見慣れた俺の癒される風景。
川を挟んだ向こう岸に見える観覧車のイルミネーションを見ながら俺はいつも「幸せ」について考えていた。
T「綺麗……」
ボソッと言ったテラさんを見ると、テラさんの横顔の方がはるかに綺麗で思わず見惚れてしまう。
K「でしょ?ここは俺のお気に入りの場所…カジノなんかよりも楽しくて心が満たされる…そんな場所なんです…」
照れた気持ちを隠しながらテラさんをじっと見つめそう伝えると、テラさんは眉を下げ心配そうな顔をして俺に問いかけた。
T「ケイトはなんでここで…カジノで働いてるの?」
K「さぁ…なんでなんでしょ?自分でも分かんなくて…生まれたときから…決まってたから…って感じですかね?でも初めて今日…こんな人生もいいかなって思いました……」
T「なんで?今日そう思ったの?」
K「ん?なんでだと思います?」
気づいて欲しかった…こんなにも俺がテラさんに惚れてしまっていることに。
なのにテラさんは俺から視線を逸らしとぼけた顔をしていた。
もし、俺の組の下っ端がテラさんに絡んでなかったらテラさんはこのカジノには迷い込まなかっただろう。
そして、俺がここにいることもテラさんは知らず、今まで通りケーキ屋のスタッフとお客…そんな関係だっただろう。
なのに俺たちは今、並んで俺の大好きな景色を一緒に眺めている。
T「私たちは…お客様とスタッフっていう関係というより…もう…友達でしょ?」
テラさんの口から出た「友達」その言葉に少し落胆したのは俺の気持ちが1ミリもテラさんに伝わってなかったことを改めて知ったから。
K「友達…か…」
T「そう!友達!」
大きな声でテラさんに念を押されるようにそう言われた俺はもう…溢れ出す想いを我慢できなかった。
ドク…ドク…ドク…
俺の心臓は暴れ出しテラさんの温もりをもっと求めてしまい、自分の腕の中に閉じ込めると俺の手はテラさんの柔らかい髪を撫でる。
K「俺は友達を抱きしめてこんなにもドキドキしてるんですね……?」
そう言った俺の瞳をテラさんは潤んだ目で見つめ、俺は本能のままその唇に口付けた。
愛しすぎて壊してしまいそうになるテラさんを優しく抱きしめながら、テラさんの唇を甘く塞ぐと…遠慮がちだったテラさんが積極的になり俺は理性を失いそうになる。
もう少し…あともう少しだけ…
そう心の中で唱えながら口付けを交わしているとテラさんは俺の胸を強く押し離れた。
テラさんは俺のこと拒否してる?
そう思いながら恐る恐る嫌かと問いかけると、テラさんは頬を赤く染め嫌じゃないという…それなら…俺はもう少しだけこの温もりを感じていたい。
初めて味わった心地いい温もりを俺は手放すのが怖くてまた、テラさんの唇を塞ごうとするとテラさんは俺の胸をまた押した。
付き合ってないのにいいの…と俺に問いかけるテラさんの唇は赤く熟れていて俺の瞳を釘付けにする。
しかし、その言葉に俺は少しの違和感を感じた。
付き合ってないからダメ…ではなく、付き合ってないのにいいのかと問いかけたテラさん。
普通は付き合ってからするもんだと言いながらその口ぶりはまるで経験豊富な感じで俺の胸が騒めく。
目に見えない誰かとテラさんは今までそんな事をして来たのだろうか?
そう想像してしまった俺は嫉妬心の現れだろうか?
拒む様子のないテラさんにまた、口付けをしテラさんの足がグラグラになるまで唇を重ねた。
つづく
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