第8話
テラside
そして、私は今…
ケイトと手を繋いだままエレベーターに乗っていて…
さっき見たばかりの煌びやかなカジノへと向かっている。
特に会話をするわけでもないのに繋ぎ合わせられたその手を見て、ケイトはどんなつもりで私と手を繋いでいるんだろ…
そう思ったら少し胸の奥が痛くて、私は繋ぎ合わせられたその手を引いてケイトの手から逃れようとした。
すると、ケイトはチラッと私を見てまた強く手を繋ぎ直す。
T「あの…手…」
K「カジノ…人でごった返してるから迷子にならないように…と思って。」
T「そ…か…」
三十路目前のいい大人の女が、人混みで迷子にならないように年下の男に手をつながられているのか…
私はそんな事を客観的に思いながら、静かすぎるエレベーターが降りていくのをただ1人ドキドキとしながらじっと待った。
目的の階につき、ケイトに手を繋がれたまま煌びやかなカジノの中を歩いていると、そこはやはり私なんかが来るところじゃなくて場違いな気がして思わず視線を下に向ける。
K「…カジノ興味ないですよね?」
T「私には場違いだから…」
K「じゃ……いいとこ連れてってあげますね。」
ケイトはそう言って私の手を引き、少し足早に人の波をかき分けながらカジノの奥へと入っていき、私は夢中でケイトについて行く。
すると、ケイトはひとつの扉の前に立ち手を繋いだまま扉を開けた。
ガチャ
扉の向こう側に行くとそこは心地よい夜風が吹いていて、川を挟んだ向こう岸に見える観覧車のイルミネーションがとても綺麗で思わず私のため息が溢れた。
T「綺麗……」
K「でしょ?ここは俺のお気に入りの場所…カジノなんかよりも楽しくて心が満たされる…そんな場所なんです…」
濡れた長い前髪を揺らしながらそう言ったケイトの目は透き通るような綺麗な目をしていた。
T「ケイトはなんでここで…カジノで働いてるの?本当に…バイトなの?」
K「ジニさんはあぁ言ってたけど本当はバイト…ではないかな…?実はなんでここにいるのか…自分でも分かんなくて…生まれたときから…決まってたから…って感じですかね?でも初めて今日…こんな人生もいいかなって思いました……」
ピューと音をさせて強い風が吹き、私の前髪が乱れるとケイトは私の前髪を優しく直しながらそう言った。
T「なんで?今日そう思ったの?」
K「ん?なんでだと思います?」
ケイトはニコッと笑いピアスの光る眉をピクッとあげながら問いかける。
そんな仕草が私の胸をドキッと跳ねさせ、私はケイトにその想いがばれはいように目を逸らした。
それでも私の心臓は早くなる一方で、ケイトと手を繋いでしまってると思うだけで、自分の気持ちがバレてしまわないかドキドキが止まらなかった。
T「なんでだろ?分かんない…」
K「んふふw俺たちずっとBlue→Hの中でお客様とスタッフっていう関係でしたけど…こうやって初めてテラさんと一緒にイルミネーションが見れたから…ですかね。」
ケイトはそう言って私の頬を優しく撫でてニコッと笑い、私の胸はその笑顔でキューっと締め付けられる。
T「私たちは…お客様とスタッフっていう関係というより…もう…友達でしょ?」
K「友達…か…」
T「そう!友達!」
私がそういうと繋ぎ合わせられた手をグイッとケイトが引き寄せ、私はもたれ掛かるようにしてケイトの胸の中におさまった。
ドク…ドク…ドク…
私の耳にあたるケイトの胸からは早く動く心臓の音が聞こえて…ケイトはゆっくりと私の髪を撫でた。
K「俺は友達を抱きしめてこんなにもドキドキしてるんですね……?」
ケイトはそういうと私の顔を覗き込み、そっと私の頬に手を添えて自分の元に導くように近づける。
徐々に近づいてくるケイトの唇にドキドキと私の胸は跳ね、このまま爆発してしまうんじゃないかと思ったら苦しくてケイトのシャツをギュッと握った。
そして、ケイトは私の体を優しく包み込むように抱きしめながら私の唇を甘く塞いだ。
触れた唇が脈打つように互いの唇を啄む。
柔らかい感触のケイトの唇が自分の唇に纏わり付き身震いするほど心地いい。
キスが次第に深くなり舌を絡め合いながらその行為に夢中になり頭の中がぼーっとする。
ダメ…これ以上はダメ…
でも、なんでケイトは私にキスなんかしてるの!?
そう思った私は我に返り、ケイトの胸を強く押し離れた。
チュウっと音を立て離れた私たちの唇は微かに震えていてケイトは私の唇を親指でなぞる。
K「ごめんなさい…嫌でした?」
T「嫌とかじゃなくて…その……」
K「……俺のこと…友達なんて思わないでください…。」
ケイトはそう言ってまた、私の唇を塞ごうとするから私は慌ててケイトの胸を押した。
T「あ…あのさ…!?」
K「はい…」
T「あ…あの!!」
K「だから…そんなしてどうしたって聞いてんの…」
ケイトは私の唇をじーっと見つめ、何度も撫でては今すぐにでも塞ぎそうな勢いで、私は思い切ってケイトに問いかけた。
T「わ…私たち付き合ってないのに…いいの?」
私の声が夜空に響くと、私の唇を撫でていたケイトの手は止まりゆっくりと私の目を見つめる。
K「それは…言葉にしろってこと…?」
T「そ…それはそうでしょ…普通…?」
K「普通ってなに…?俺にとって普通なんて通用しないんだよ…そもそも嫌いな人とは初めっからキスなんてしない。」
ケイトは当然のような顔をしてそう言うとまた私の唇を深く塞ぎ、私はケイトの首にしがみ付いたままケイトの気が済むまで口付けをされた。
K「嫌…ではなさそうだね。」
ケイトは気が済んだのか頭がぼーっとし始めた頃、やっと私を唇から解放して私の唇に纏わり付いた唾液を親指で拭った。
私はフワフワとして足元に力が入らずフラつくとケイトが私の腰を抱いた。
K「ここ冷えてきたんで…ジニさんの部屋に戻りましょうか。」
私はモヤモヤしたままその言葉に頷くと、ケイトに抱き寄せられ、また煌びやかなカジノで賑わう人混みをかき分けながら歩きエレベーターに向かった。
つづく
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