第2話
ケイトside
たまたま車で通りかかった店の前。
いつも通り部下が運転していると、たまたま飛び出してきたノラ猫のせいで急ブレーキを踏み、たまたまその店の前に車が止まった。
「気をつけろ。」そう呟き、たまたま車の窓から店の中を覗き…
俺は運命のように一目惚れをした。
ショーケースの中で並ぶ可愛らしい色とりどりのケーキよりも眩しく愛らしい笑顔を見せるあの人に。
動き出しそうになった車を止め、俺は車から降りると少し離れた所で待つよう指示を出した。
吸い寄せられるように入った店内には、心が満たされるような甘い匂いが立ち込めていて、それだけで幸せな気分になった。
だが、俺は甘いものが苦手だ…
いや、苦手になったと言う方が正しいのかもしれない。
それは母さんがよく作ってくれたケーキを思い出して胸が痛くなるから。
俺に向けられるあの人の笑顔は仕事とはいえ温かくてどこか懐かしい感じがした。
T「こちらのチーズケーキは当店のおすすめですよ。」
「そうなんですね。俺、ケーキの中でチーズケーキが1番好きなんですよね…」
T「私もチーズケーキが1番好きです。」
俺がチーズケーキを好きな理由は母さんが得意なケーキだから。
自分もチーズケーキが好きだと言ったあの人の笑顔がなぜ、こんなにも心地良く温かく、俺を優しい気持ちにさせるるのかようやく分かった。
「同じですね?」
そう呟きながら思い出したのは遠い記憶となってしまった母さんの優しくて温かったあの笑顔。
そうだ…この人…
母さんに…似てる…
そんなことを思った自分に苦笑いをしながら俺は店を後にし、少し離れた所で待っている車に乗り込んだ。
「…甘いものなんて…珍しいですね?」
K「たまにはな…」
家に戻り、俺の実の兄のような存在のジニさんに買ったばかりのプリンをあげると、旨すぎると言ってプリンに夢中になって食べていた。
J「珍しいね?あの日以来、ケーキを食べなくなったケイトが買ってくるなんてさ?」
K「ですよね…なんかあの店の前を通りかかったとき不思議な気持ちだったんです…俺の冷たくなってしまった心に一瞬、ぽわっと優しいろうそくの火が灯ったような気持ちで……」
J「へぇ…」
K「今このケーキを食べたら久しぶりに幸せな気持ちになりました。」
J「ケイト…あんまり1人で抱え込むなよ?」
K「分かってますよ…」
J「ならいいいけど……あっそうだ!また、このプリン買ってきてね?」
K「気が向いたらですね。」
なんて言いながら来週、いつあの店に行けるかスマホのカレンダーを見て確認する俺の心はもう…
名前も知らないあの人に興味を持ち始めてしまった。
それはあんなにも心地よい心の癒しを感じたのは母さん以外にあの人が初めてだったから。
J「あ…そう言えば最近、覇道組の若頭のムネオリが俺たちのシマで闇の取引をしてるって噂だよ……?」
ジニさんが最後の最後までプリンの器に残ったプリンのカケラをスプーンですくいながら言った。
そう、俺は若くしてこの辺りを仕切る天龍組の若頭。
ジニさんは俺の右腕としてそして、義兄として俺をいつもサポートしてくれていて、覇道組と俺たち天龍組には昔から切っても切れない因縁がある。
K「もしサツにバレたら俺たちに擦り付けるって魂胆ですね。」
俺はスマホのスケジュール帳をみながら足を組みそう答える。
J「カジノの方にもムネオリのとこの下っ端が偵察に来てたみたいだし…ウチの幹部しか知らないはずのカジノ経営がムネオリにバレてるな…。」
K「…へぇ……ウチのシマにそんな興味あるんですね…あの人。しかも、カジノの話が漏れてるってことは裏切りモノがウチの幹部内にいるってことか……なんか嫌な予感するな…。」
J「ケイトのその勘が当たらないことを願うよ…」
俺はジニさんからその情報を聞いてからさらに頭の中をフル回転し、今まで以上に自分の組の人間に目を光らせた。
そして、それからも俺は時間を見つけてはそんな荒んだ心を癒すかのように、あの人お店であるBlue→Hへと通いケーキとプリンを買って帰った。
誕生日はいつなのか…
血液型は何なのか…
好きな花は…
好きな色は…?
聞きたい事は山程あるのに自ら歩み寄りあの人に聞くことを一瞬、躊躇ったのは俺がこの闇深い世界の人間だから。
幼い頃
組長である親父に俺は言われた。
愛する人間ができた時、人は強くなる事もあるが弱みとなる事もあると。
だから、若頭となったとき俺は愛する者は作らないと決めた。
はずだった。
あの人と出会うまでは…
通えば通うほど貪欲な俺はあの人の温かさを求め歯止めが効かなくなってしまう。
俺が愛するということはあの人までこの世界に巻き込んでしまうかもしれないと分かりつつも…
俺の気持ちはもう、自分でも止められなかった。
「テラ」という名前を知り…
誕生日や血液型を知り…
テラさんの好きなものを知る。
知れば知るほどテラさんを求めていき…
この世界にいる自分が誰かを愛するということの本当のリスクを俺はまだ…何も知らなかった。
つづく
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