Blue

樺純

第1話

ブルーとピンクを基調とした店内。


煌びやかなショーケースには私の自慢のケーキ達が微笑みながらキラキラと輝き並んである。


念願だったお店の名前を「Blue→H 」(ブルーエイチ)にしたのは意味がある。


それはお客様のブルーで憂鬱な心が私の作るケーキを食べ、少しでも軽くHappyなればいいなという私の想いから名付けられた。


「テラ…これ試作品なんだけど食べてみる?」


そう言ってヨナはクールな見た目からは想像も出来ないほど、可愛らしいクッキーを私に差し出すのはパティシエであり共同経営者として働くヨナ。


ヨナとは幼なじみでいつも私たちは本当の姉妹のようにして育ってきた。


ヨナは幼い頃から外科医を目指し、医学部に通い、苦労して医師免許まで取得したがその直後…とある事故のせいで外科医としての道は断れた。


そして、今は私と一緒にBlue→Hでパティシエとして働き幸せに暮らしている……と思う。


T「うわぁ〜可愛い!!」


私が目を輝かせてヨナのクッキーに見惚れていると、カランカランと音を立ててお客様が入ってきた。


T「いらっしゃいませ!」


私が元気な声でそうお出迎えをすると、お客様は目を輝かせて私たちのケーキを見つめる。


私はこの瞬間が最も幸せを感じる時間だ。


私よりも少し年下だろうか?


クリクリとした目を輝かせてケーキを見つめるお客様に私は声をかけた。


T「こちらのチーズケーキは当店のおすすめですよ。」


「そうなんですね。俺、ケーキの中でチーズケーキが1番好きなんですよね…」


T「私もチーズケーキが1番好きです。」


私もチーズケーキがこの世で1番好き。


だから、このチーズケーキには自信がある。


是非、このお客様にも食べて欲しいな…そう思いながら微笑みかけると…


「同じですね?」


お客様がそう言って前歯を出し私に笑いかけた瞬間…


私は夜空に広がる美しい銀河をその瞳の中に見つけた気がした。


それからそのお客様は週に一回、ケーキを買いに来るようになった。


T「いらっしゃいませ〜!」


「こんにちは!今日のおすすめはなんですか?」


T「今日のおすすめはバナナタルトです!」


「俺、子供の頃バナナのお菓子が好きだったんです…」


T「え、私も!」


「また、同じですね〜」


彼はそう言って笑った。


「じゃ、バナナタルト1つとプリン1つください。」


T「かしこまりました。」


いつも、私のお勧めのケーキ1つとプリンを1つテイクアウトで買って帰る彼…


家には一緒に食べてくれる誰かがいるのかな…なんて思うと私は名も知らない彼に胸がざわついた。


「?大丈夫ですか?」


T「あ…すいません!!」


慌てた私がケーキの箱の蓋を止めるためにテープを切ろうとすると、誤って自分の指を切ってしまった。


T「痛ッ……」


思わずそう声が漏れてしまい自分の指を見ると血が出ている。


このままお客様の商品に触るわけにはいかないそう思っていると…


「大丈夫ですか!?怪我してるじゃないですか!」


彼がそう言ってショーケースのカウンターから覗き込み、驚いた顔をしている。


その声がキッチンにも聞こえたのかヨナが中から飛び出てきた。


Y「テラ…?どうし…」


ヨナは私の指を見てすぐに状況を把握すると彼の方へと向かった。


Y「お客様すいません。すぐにケーキに入れ直ししますので、あちらのカフェスペースにてお座りになってお待ちください。」


「俺は大丈夫なんで…その…店員さん…の怪我を見てあげてください。」


Y「すいません…お気遣いありがとうございます。」


彼は私のことを心配そうに見つめながら、奥に数席あるカフェスペースへと向かった。


Y「テラ…大丈夫?」


T「ちょっとぼーっとしてた…ごめん…」


Y「自分で絆創膏貼れるよね?」


T「うん…私は大丈夫だからあのお客様のケーキお願い…」


Y「うん…」


私はスタッフルームに入り傷口を洗い流し、滴を拭き取ると慌てて救急箱から絆創膏を取り出すと、自分でその傷口に貼った。


手を消毒し店内に戻るとちょうど、ヨナがケーキの箱を袋に入れて彼に渡している最中だった。


私は店の入り口に向かい彼が歩いて来ると店の扉を開けて一緒に外にでてお見送りをする。


T「先ほどは失礼しました。」


「いいえ…とんでもない。お怪我大丈夫ですか…?テラさん…」


不意に彼から呼ばれた自分の名前にドキッと胸が跳ね、彼の顔を見つめると彼は頭を掻きながら恥ずかしそうに笑っていた。


「さっき、あの方がそうあなたの事を呼んでたから…俺の名前はケイトです。よろしくお願いします…」


そう言って彼は私に手を差し出した。


私は驚きながらもその手にそっと自分の手を重ね握る。


T「よろしくお願いします。」


それが私とケイトの出会い。


つづく

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