第20話 ライトアップ
やがて時は過ぎ、冬休みが目前に迫って来た。住宅にサンタやトナカイ、雪だるま等のイルミネーションを飾る所もあり、町の中が華やいでくる季節でもある。
寒さの中にも、暖かさを感じる季節。何となく、高校の中も気忙しく浮足立つ。
「せな、帰りに商店街のクリスマスツリー見に行こうよ! 季節限定のクレープも食べよう!」
「……どっちかって言うと、後半が目的でしょ。爽子ちゃん」
「バレたか」
ふふっと悪びれずに笑う爽子に呆れつつも、星南には断る理由はない。快諾し、放課後二人して学校を飛び出した。
「おお〜! 雪だるまのクレープだ」
「もう、爽子ちゃん食べ物ばっかり。こっちも綺麗だよ?」
「ほーひふほは、はほほひふんほふへはひひほ〜」
「ごめん、何て?」
星南は雪に見立てたアラザンのかかったイチゴのクレープ、爽子は雪だるま型のクッキーが乗ったチョコバナナクレープを選んだ。店の前が丁度巨大なクリスマスツリーが設置された商店街の広場になっており、二人はベンチに横並びで座っている。
隣でクレープを頬張る爽子に呆れながら、星南は闇に染まり始めた空の下のクリスマスツリーを見上げた。午後六時に点灯するというイルミネーションまでは時間があるが、既に街頭に照らされた未点灯のライトのガラスが光って綺麗だ。ツリーのてっぺんには銀色の星が輝き、夜を待っている。
爽子が口の中を空にして、持っていた水筒を口につけてから「ふぅ」と息をつく。
「おいしかったぁ」
「ハムスターみたいだったよ、爽子ちゃん」
「だっておいしいんだもん。学校頑張ったしね」
「はいはい」
定期テストも終わり、後は冬休みを待つのみだ。その開放感で一杯の爽子に、星南は何も言わない。今回は赤点が全くなかったのだから、これくらいのご褒美は必要だろう。
「それで、さっき言ったことだけど」
爽子はイチゴのクレープを半分ほど食べ終えた星南の方に、身を乗り出す。顔が近付き、星南は少し身を引いた。
「な、何……」
「私が食べながら行ったのはね。『そういうのは佐野森くんと行けば良いの』って」
「な……何をっ」
何を言っているのか。星南が問い質す前に、爽子が「だってさ」と笑う。
「だって、ずっと仲良しじゃない? 男子とあんまり仲良くしないせなには珍しいし、向こうもせなと話すの楽しそうだし?」
「わたしは……」
「言い訳考えてる時点でアウト! 丁度クリスマスだし、佐野森くん誘ってデートしてきたら?」
「でっ!? つ、付き合ってもいないからね?」
顔を真っ赤にして否定する星南だが、爽子はニヤニヤ笑うばかりで取り合わない。幾ら否定しても疑われ、星南は眉を寄せた。
「まだなのに……。それに、たぶんクリスマスに遊ぶのは無理だと思う」
「恥ずかしそうに言っても逆効果だよ? ん、無理ってどういうこと?」
「実は春に、お父さんの勤める神社で例祭があるんだ。そこで光理と一緒に手伝いをすることになってるから、その練習の一回目がその日にあるの」
毎年春に執り行われる、神社の例祭。そこで舞を披露することになった星南と光理は、練習を今年から始めることになっていた。とはいえ、今年中の練習はクリスマスイブと三十日の二回だけだ。三月の本番に向け、徐々に練習回数は増えていく。
星南の話を聞き、爽子は残念そうに眉を下げる。
「そうなんだ。……イブってことは、クリスマスの二十五日は何もないんでしょう? そっちで誘えば良いじゃん!」
「もう……。彼女でもないのに、佐野森くんを困らせるだけだよ」
本当は、もっと陽と二人で話をしたい。水族館と森林公園でのことは、星南にとって大切な思い出となっていた。
自分が陽に対して恋愛感情を持っているのか、持っているとしてそれが岩長姫に引きずられたものではないのか。特に後者について、星南は自身がない。
わずかに胸の痛みを感じながら、星南は「ほら」と爽子の視線をライトアップ前のクリスマスツリーへ動かそうとした。
「見てよ、爽子ちゃん。折角見に来たのに、クレープにばっかりじゃ勿体ないよ。もうすぐライトアップ始まるって」
「わかったわかった。後十分くらいかな?」
「楽しみだね」
「楽しみだけど、流石に寒い……」
日暮れに近付くにつれ、寒さが増していく。後十分程とは言え、このまま外で待つのは辛いと爽子が訴えた。
ならば、と星南は時間まで商店街の店舗を見ることを提案する。アーケードになっている商店街で何処かの店に入っていれば、寒さを軽減させることは出来るだろう。
「それ賛成」
爽子の賛同を得て、星南は早速残ったクレープを食べ切った。それから二人して商店街に繰り出し、書店で参考書やマンガを探すことで時間を潰した。互いの好きなマンガを紹介し合っているうちに、とっくに点灯開始時間を過ぎる。
星南と爽子は駆け足でクレープ店の前へ戻ると、人だかりが出来ていた。彼らの視線の先にあるものを見上げ、二人して「おお……」と言葉を失う。
「綺麗……」
「うん。オレンジのクリスマスツリーだ」
オレンジ色の暖かなライトをまとい、クリスマスツリーが枝葉を伸ばしている。その高さは十メートルを超えており、圧巻の一言だ。
町行く人々も次々に足を止め、ツリーに見入っている。その人混みを何となく眺めていた星南は、ある人物を見付けて思わず「あ」と口にしていた。
「どうかした、せな?」
「いや、あそこに光理と藤高くんがいるなって思って」
「どれどれ? あ、本当だ。仲良いねー」
手を繋ぎ、笑顔を見せ合ってクリスマスツリーを眺めている。光理と鷹良の仲は、うまくいっているようだ。
それを見て安心し、星南は邪魔しないように視線をクリスマスツリーへ移す。オレンジのライトが点滅し、幾つかのパターンを繰り返していく。クリスマスソングが流れる中、曲に合わせてライトが踊っているようだ。
(もしも、佐野森くんと一緒に見られたら……)
想像してしまい、星南は人知れず顔を赤らめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます