第18話 関係性の変化

 光理と鷹良が恋人として付き合うことが決まった翌日、星南はぼんやりと目を覚ました。朝六時前、早く起きる理由もないが、枕元に置いていたスマートフォンの画面を見る。暗い部屋に、スマホの画面は明る過ぎた。


(通知……?)


 チカチカいう点滅に気付き、メッセージを確認する。タップすれば、そこには陽からの文章が並んでいた。


『今日はお疲れ。ちょっと連れ回した気もするけど、楽しかった。また学校でな』


 受信時刻を見れば、昨夜十一時過ぎとなっている。その頃には眠っていた星南は、メッセージに気付かなかった。


(佐野森くん、メッセージ送ってくれてたんだ)


 朝送るのはよくないかもしれない。相手は寝ているかもしれない。そうは思ったが、早く返事を返したい気持ちが勝った星南は悩んで短いメッセージを送った。


『朝にごめんね。わたしもとっても楽しかった! ありがとう。また明日ね』


 何度か誤字がないか確認し、十分後にようやく送信した。無事に送信されたことを確かめ、ほっと息をつく。


「何か、緊張した……」

「せな、さま?」

「ごめんなさい、起こした?」

「いいえ。ぼんやりしていました」


 星南のベッドに置かれた籠の中で眠っていたいろはが、そろそろと起き上がる。前足で顔を洗うと、耳をぴくぴくと動かした。


「どなたかから、メッセージですか?」

「うん。昨日のうちに、佐野森くんがくれてたみたい。さっき返信送ったんだ」

「……そうでしたか」


 瞬きをしていろはは籠から出て来た。そして同じくベッドから下りる星南と共に床に下り、一緒に伸びをする。


「はぁ、昨日は楽しかったな……。夢だったんじゃないかって思えるくらい」

「夢ではありませんよ。実際、星南様は先程メッセージのやり取りをしたばかりではありませんか」

「うん、そうだよね」


 手にしていたスマートフォンの画面を撫で、星南はそれを机の上に置こうとした。その時、メッセージの通知を知らせる音が鳴る。


「佐野森くん……?」

「見てみて下さい、星南様」

「う、うん」


 いろはに促され、星南は画面をタップする。すると、陽からのスタンプが送られてきていた。おはよう、と子犬のキャラクターが片手を挙げている。

 普段の陽からは想像も出来ないかわいいチョイスに、星南は思わずしゃがみ込んだ。


「なにこれーっ」

「あちらも起きていたようですね」

「……みたい」


 星南は急いで、同様におはようと言っているうさぎのスタンプを送り返す。ようやく一息つき、着替えて朝食を食べるために階段を下りたのだった。


 更に翌日。光理が部活の朝練に行くため玄関を出た途端、窓を開けていた星南の部屋に彼女の声が聞こえてきた。

 星南が不思議に思って見下ろすと、鷹良が来ていることが確かめられた。おやと思う間もなく、


「なっ、何でいるんですか!?」

「何でって。か、彼女迎えに来たら悪いかよ」

「ぐっ……。わ、悪くはありませんけど先に連絡下さい。そもそも……」


 第一声が大きかった自覚があるのか、光理は徐々に音量を小さくしていく。やがて聞こえなくなり、星南は並んで歩いて行く二人を見送った。

 窓を閉め、星南は自分を見つめていたいろはに笑みを見せる。


「光理を藤高くんが迎えに来たみたい。仲良く二人で朝練に行ったよ」

「それはよかったです。……っと、そろそろ時間ではないですか?」

「あ、そうだね。じゃあ、下りようか」

「はい」


 いろはにぬいぐるみになってもらい、鞄につける。星南は忘れ物がないか確かめ、朝食を摂るために階段を下りた。


「おはよう」

「おはよう、星南」

「おはよう。よく眠れたかな」


 居間へ行くと、珍しく父親が食事をしていた。いつも既にいないかまだ寝ているかである父が起きていることに、星南は素直に驚いた。

 目を丸くしたのがわかったのか、父親は苦笑いを浮かべる。


「全く、姉妹で同じ顔をする」

「仕方がないではないですか。あなたはいつも朝顔を見せないんですから」


 悲しいと言う父親に、母親はにべもない。妻の答えに肩を竦め、父は娘に目を移す。


「朝早いことの方が多いからね。……そうそう、星南」

「ん?」

「この前、うちの神社の祭神である女神様のことについて話しただろう?」

「うん」

「例祭があるという話をしたことを覚えているかな?」

「うん、覚えているよ。毎年やっているって言っていた、あれ?」


 星南が言い当てると、父親は嬉しそうに笑った。そして「そうそう」と笑う。


「実は次の春、例祭が執り行われるんだ。その例祭で、星南と光理に巫女として舞を披露してもらいたいんだが……どうだろう?」

「えっ。例祭の舞?」


 目を丸くし、星南は父親を見つめた。例祭で巫女役をとは、一体どういうことが。聞き返すと、父親は少し詳しく教えてくれた。


「うちの神社では、二年に一度神社の関係者の中から若い女性二人を選び、神にささげる舞を舞ってもらっているんだ。今日、神主さんに聞いて、頼めないかと言われたんだよ」

「光理は何て?」

「部活に支障が出ない程度なら、という許可は得たよ」


 光理が了承したと知り、星南はどうしようかと考える。考えながらも、朝食を食べる手は動く。そして、うんと頷き口の中のものを飲み込むと、答えるために口を開く。


「わたしも良いよ。岩長姫様のことももっと知りたいから」

「ありがとう。詳細が決まり次第、連絡するよ」

「わかった」


 例祭ではどんな舞を舞うことになるのだろうか。岩長姫もやったのだろうかと想像が膨らむ。星南は一旦考えにふたをして、父親に頷き了承した。

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