第32話 着替えを手伝わせるだけのはずが。①

 授業中。私は今後の作戦について考えていた。


 今朝、私を見た啓介くんは少しわたわたとしていた。どうやら、昨日の作戦が上手くはまったらしい。


 そう、昨日の……昨日、の。


 昨日、私は啓介くんの部屋で啓介くんに後ろを向かせて、啓介くんの部屋で下着姿になって、啓介くんに私のことを意識させるように動いたのだ。


 計画通りならただワイシャツとスカートを脱ぐだけ。下着は洗濯済みの、あまり着ていない下着を使って、あたかも私がさっきまで着けていた下着のように見せようとしたのだ。


 そう、したんだけど。


 ……うわぁぁぁぁぁぁぁ! 私、昨日啓介くんの部屋で全裸になって、脱いだばかりの下着を啓介くんに触らせて、誘惑しようとしたんだぁぁ!


 完全に変態だよ、どうしちゃったの私?!


 私は後から何度思い出しても、思い出した分だけ顔を熱くさせてしまっていた。

 

 幼馴染の部屋で、幼馴染がその部屋にいる状況で全裸になって、その羞恥心と背徳感とか、色んな感情でゾクッとなってしまった。


 ありていに言うと、あの状況に少しだけ興奮してしまっていたのだ。


 自分のことが信じられなくなって、私自身嘘でしょ?! と何度も後から自分に問いただした。


だけど、どれだけ考えてもその気持ちは嘘でも間違いでもなくて、啓介くんに自分の裸を想像されている所を見て、胸の奥の方が熱くなってしまった。


 ……こんなの、完全に変態だよぉ。


そんなふうに思って、机の上にうな垂れてみたところで、私は何かに気づいたように顔を上げた。


 そう、私があんな変態的な行動に出てしまったのはなぜなのか。それを考えたときに、思い当たる節は一つしかなかった。


 啓介くんが毎日、私にえっちなことをさせて、性的な目で見続けるから私の中の何かが変えられてしまったのだ。


 だから、私は悪くない。そう、えっちなのは啓介くんの方なのだから。


 そう思った私は、昨日の羞恥心が無駄になってしまわない様に、さっそく本日の作戦を考え始めたのだった。




 そして、放課後。


 私は完璧な作戦の元、それを実行することにしたのだった。


 帰ったからずっとえっちな命令をされないかとそわそわしてる啓介くんを見て、少しぞくぞくっと来てしまった感情を落ち着かせて、私はいつも通りに家事と炊事を終わらせた。


 そして、一通り終えてから啓介くんの目を盗んでお風呂を洗って、お湯を入れておく。


 今日の作戦はこうだ。


 私の家のお風呂が壊れちゃった的なことを言って、啓介くんの家のお風呂を借りさせてもらう。


 その時に、催眠アプリを発動して脱衣所で私が服を脱ぐときにそれを手伝ってもらう。


 そう、今回は啓介くんの手で私をその、下着姿にしてもらうことにした。


 分かってはいる。昨日真後ろで裸になりながら、今回は下着姿止まりなんてビビりすぎだということは。


 自分からチキンレースを仕掛けておいたくせに、お前がチキンじゃないのか嬢ちゃん、と言われてしまうのも仕方がない。


 それも分かったうえで、今回は少しだけ控えめにしたのだ。


 ……少し一気に攻め過ぎた気もするし、今日は一旦この辺で落ち着こうと思ったのだ。


 それでも、ただ下着姿になるのではない。今回は啓介くんに脱がせてもらうという、少し大胆過ぎる行動でもあるのだ。


 だから、少しだけチキンになってしまってしまいながら、攻めの姿勢にも出ているという点は評価して欲しい。


 うん、結構頑張ってると思う。


 そんなことを考えて、私は軽い身支度だけを終えて、啓介くんの家へと向かったのだった。


 私が啓介くんの家の玄関を開けると、そこには少しポカンとしている状態の啓介くんがやってきた。


 まぁ、今さっきまでこの家にいて、急に戻ってこられても何が何だか分からないのだろう。


「え、恵理?」


「ごめんね、家のお風呂少しおかしくさ。今日だけお風呂借りていい?」


 私は騙してごめんねと言う意味合いで、少しだけ申し訳なさそうな笑みを浮かべながらそんな言葉を口にした。


「え、風呂? 別に、それくらいなら全然いいけど」


 ……あれ? 意外と余裕そう?


 昨日結構大胆なことをした自信はあったし、手ごたえはあった気がしたけど思った以上に反応が軽い。


 何かおかしいなと思って考え直してみて気づいてけど、あくまで啓介くんの認識では私は啓介くんの部屋で下着姿にしかなっていないという認識だったことを思い出した。


 というか、私がそう思うように仕向けたのだった。


 そういえば、昨日啓介くんに渡した下着は、洗濯済みの下着という設定になっていたのだった。


 まぁ、本来はそうするはずだったんだけど、私が少しだけ暴走してしまったんだった。


 自業自得といえば、そうだけど、ただただ私が恥ずかしい思いをしただけに終わったということなのか。


 そう思うと、なんかあんまり日和ってる場合じゃないなと思ったりもする。


 ……いやいや、さすがに昨日と同じ轍を踏むわけにいかないか。


 私は気を取り直して、作戦通りに動くことにしたのだった。


「啓介くんは、もうお風呂入った?」


「いや、まだだから、先に入っていいぞ。まぁ、まだお風呂いれてはないんだけど」


「実は、今朝から給湯器おかしかったから、こうなるんじゃないかと思ってね。……お風呂、実はもうお風呂入れる状態にしてるんですよ」


「え、そうなのか?」


 素で驚いているような反応を見せた啓介くんは、私がこっそりお風呂を入れていたことと、私の嘘を本気で信じているようだった。


 ……まぁ、私が本気で催眠にかかっていると思うくらいだし、騙されるよね。


 なんか、将来変な壺と買わされないかとか、少しだけ不安になってくるなぁ。


 私は漏れ出たような笑みを浮かべている啓介くんに合わせるように、小さく笑みを返した。


 今なら、簡単に催眠にもかかってくれるよね?


そう思った私は、催眠をかけるのは今しかないと思ってトートバックからスマホを取り出して、初めから催眠アプリを起動させていた画面を啓介くんに見せた。


「だからね、今から催眠もしちゃおうと思ってさ。……一緒に、脱衣所まで来てもらおうかな、啓介くん?」


 私がそう言うと、啓介くんは今のタイミングで来ると思っていなかったのか、目を見開いて驚いていた。


 そんなに驚くことかなと思って考えてみて、すぐに啓介くんが驚いたのがタイミングだけではなかったことに気づいた。


 多分、『脱衣所』という言葉に反応しているのだ。


 私と一緒に脱衣所に向かうことで、どんな命令をされるかを想像して顔を赤くしているのだ。


 そんなことを啓介くんの表情から感じ取ってしまって、私は胸の奥の方にある感情をくすぐられてしまった。


「じゃあ、いこっか」


 少しのみを浮かべながらそう言うと、私は啓介くんの隣を抜けてから振り返って、スマホアプリ画面を見せた。


断ることも逃げることも許さない。そんな意味を込めてスマホを見せると、啓介くんは覚悟を決めたように私の後ろをついてきた。


……本当は、ずっと催眠にかけられたくて、そわそわしてたくせに。


 そんなことを考えながら。


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