第27話 下着に温もりを感じるんだけど?!

「啓介くん?」


「えっ、ああ。おう?」


「朝からぼーっとしてたけど、大丈夫?」


「お、おう……」


 授業と授業の合間の休み時間。


俺の席にやってきた恵理は、俺の机に両肘をついて俺の顔を上目遣いで見ていた。


 普段の無邪気そうな顔。いつも通りの俺が知っている恵理の顔だ。


 きょとんと小首を傾げている何気ない表情なのに、俺は確実に心臓の音を速めていた。


 胸の奥の方が熱くなってむず痒いようなこの気持ちは、以前まではここまで大きくは感じなかった。


 ……でも、この気持ちが性欲によるものなのか、恋愛感情なのかよく分らないのに変わりはない。


「えりー」


「はーい。それじゃあね、啓介くん」


「おうよ」


 恵理はクラスメイトに呼ばれたらしく、小走りでそちらに向かって行った。


 微かに揺れるスカートの裾と、遠目からでも分かる女性らしい体つき。


 当然、スカートをたくし上げさせて後ろからパンツを見た光景が重なり合う訳で、それ以上の記憶も思い出すわけで。


 ……おれ、昨日キスしたんだよな?


 そのことを思い出して、俺は机に小さな音を立てて頭をぶつけた。


 妖艶な表情をしていた恵理にスカートの中に入れられて、パンツをよく見るように言われて、しまいにはへそにキスをするようにと命令をされた。


 そして、俺はその全てを抵抗することなく受け入れて、スカートの中で恵理のおへそにキスをしたのだ。


 俺のファーストキスは、恵理のおへそ。


 ……いやいや、昨日の恵理エロ過ぎただろ?! 何なんだあれは?!


 どれだけ落ち着いて考えようと思っても、結論は全部恵理がエロ過ぎたという結論に落ち着いていしまう。


 え、昨日の何?! なんであんなにえっちな感じだったの?! 発情期なんですか、マジで?!


 昨日のやり取りを少し思い出すだけで、心臓の音はうるさくなるし、男の子の部分が強く刺激されてしまう。


 ……そして、自分にそんな素質があったのかと気づかされてしまった。


 ひょっとしたら、俺は幼馴染に性癖を狂わされるんじゃないだろうか?


 そんな可能性があるというのに、放課後を心待ちにしている自分がいる。


 多分、今日俺は恵理を催眠にかけようとはしない。


 催眠にかけないで、かけてもらった方がえっちな思いをできるんじゃないか。


そんな期待を一日で教え込まれてしまったから。




『少し経ったら、啓介くんの部屋に行くね』


 そう言われて、俺は自室で恵理が入ってくるのを静かに待っていた。


 ベッドに腰かけて恵理を待つ俺は、ただ恵理が部屋に来るだけにしては心音をうるさくさせ過ぎていた。


 この心音の正体は分かっていた。


……俺は恵理に催眠をかけてもらうことに、期待しているのだ。


そして、それはえっちなことをしてくれるのを待っているのと同義だった。いや、正確には俺は催眠されないのだから、その表現は違うのか?


 そんなどうでも言ことに頭を悩ませていると、玄関の方で物音が聞こえてきた。


 すぐに軽やかな足取りの足音が階段を上ってくると、そのまま俺の部屋の前まで来てその音を止めた。


 そして、開かれた扉の先からは、催眠アプリを起動した状態の恵理の手だけが伸びてきた。


「催眠、された?」


 恵理はその後にひょっこり顔を覗かせると、少しだけ含みのあるような笑みを浮かべていた。


 もう俺が催眠にかかったと思っているのだろう。恵理はそのままベッドに座る俺の前まで来ると、俺の顔を覗き込んできた。


「さて、今日はどうしようかな」


 俺が催眠にかかっているのを確認すると、恵理は俺をからかうような笑みを浮かべながら、俺を見下ろしていた。


 どうしようかと考えるということは、俺にえっちなことをしようとしているということなのだろう。


 俺が恵理の下着を見てもなんとも思わないと言ったのが悪かった。恵理はその俺の言葉を揺らがせるために、俺にえっちなことをしようとしているのだ。


 ……それ以外には考えられない。


 そんな理由の一つでもなければ、恵理が変態だということになってしまうしな。


「そうだ。啓介くん壁の方向いてよ。ベッドの上に座ったまま」


 恵理は俺に催眠アプリを向けながら、そんなこと言葉を口にした。


催眠にかかっているフリをしなければならない俺は、恵理に言われるがままに足をベッドの上に乗せて壁の方を向いた。


 そこに広がるのはただの一面のクリーム色の壁。別に楽しいことなど何もない。


 もしかして、今日の催眠はえっちなことはなしなのか? 


そんなことを考えていると、不意に後ろの方で衣擦れの音が聞こえてきた。その後すぐに、ファスナーの音が聞こえてきて、それが床に落とされた。


 ……ファスナーの音?


「絶対に、こっち見ちゃダメだからね」


 恵理は恥じらいの込められたような声でそんな言葉を口にした。そして、少し音が消えたと思った次の瞬間に、俺の目の前に何かが落ちてきた。


 何だろうと思ってよく見てみると、そこには制服のスカートが落ちていた。というか、後ろから投げ込まれてきた。


 ……ん? んんんん?! なんで制服のスカートが? まてまて! 俺の部屋に俺の学校指定の制服のスカートなんてない。


恵理からそれが投げられてきたということは、これは恵理のスカートということになる。


つまり、それはすぐ後ろにいる恵理がスカートを履いてないということになる?


やっぱり、なるよな?!


「後ろ、振り向いたらダメだからね」


「っ!」


 恵理は俺の思考を読むようにそんな言葉を口にした。


 あと二秒遅かったら、俺は絶対に振り返っていた自信がある。いや、今は催眠にかかっている設定なのだから、振り返ったらダメなのか。


 ……だめなのかぁ。


「今振り返るのは、勿体ないからね」


 勿体ない?


 意味ありげな言葉を口にした恵理の言葉が気になっていると、また後ろで衣擦れの音が聞こえてきた。


 スカートの次に脱ぐものと言えば、ワイシャツか?


 それはつまり、俺の幼馴染が俺の部屋で上下ともに下着姿になるということになる。


当然、そんな状況を前に冷静で入れるはずがなく、俺は体の熱を熱くさせて心臓の音をうるさくさせていた。


 目の前にある脱ぎたてのスカートに軽く触れたい気持ちを抑えて待っていると、また衣擦れの音がやんだ。


 そして、また俺の前に何かが投げ込まれた。


 見間違えるはずがない、それは半袖のワイシャツだった。


 つまり、今恵理は下着姿で俺の後ろに立っているということになる。


 今まで、上下一緒に下着姿を拝んだことはなかったので、俺は今すぐにでも振り返りたかった。


 それでも、催眠にかかっているという設定上、振り向くことはできないのだ。


「まだ振り返ったダメ。……も、勿体ないから」


 そんな葛藤している俺の元に、微かに熱に浮かされたような恵理の声が聞こえてきた。


 ……勿体ない?


 これ以上先があるというのか? いや、これ以上先っていうと……いやいや?!


 え、これ以上先って、本気か?!


 俺が一人であわあわとしていると、後ろで恵理が動いているような気配があった。


 これは本当に脱いでいるのだろうか? 幼馴染の部屋で、恵理は一糸まとわぬ姿になろうとしているのか?


 そんなことを考えていると、肩口から何かが落ちてきた。


 今までの渡し方と違うことに気づきながら、俺の制服のズボンの上に落されたのはーー淡い空色をしたブラジャーだった。


 胸の谷間の下の部分に色の濃い小さなリボンが付いていて、ブラジャーの上の所にはフリルのような物が拵えてある。


 いや、ていうかでかいな!!


 以前もブラジャーを付けている姿は見たことがあったが、こうしてブラジャー単体で見たのは初めてだ。


 ズボンの上に落ちているブラジャーは、少し内側が見えるように置かれていて、内と外で違う素材が使われているのかと少しだけ関心をしていた。


 なんというか、内側は少し柔らかそうな素材が使われていた。少しだけ突いて、その感触を楽しみたいなと思ったり思わなかったり。


 あれ? このブラジャーって、前に見たことのある淡い空色をしたパンツとセットのやつな気がする。


 そんなことを考えていると、また肩口から何かが落ちてきた。


 そうそう、まさにこんな感じーー?!


 そこから落ちてきたのは淡い空色をしたパンツだった。


 上部に少し濃い青色の小さなリボンがついていて、左右に分かれるようにフリルが拵えてあるものだった。


 以前に見たことのあるパンツ。それがこんな形で上下揃ってみる日が来るとは。


 いや、そんなことよりもーー


「絶対に、振り向いちゃダメだからねっ」


 少しの必死さと羞恥心。そして、それ以上の何かの感情によって揺らされている声が聞こえてきた。


 間違いない。今、恵理は俺の後ろで一糸まとわぬ体になっているのだ。


 そう思った瞬間、大きくなっていた心臓の音は外に漏れ出てしまうんじゃないかというくらいに大きくなってしまった。


 性欲によって高められた体温と、一点に集中させられた血液の流れによって、俺はその姿を想像しただけでおかしくなりそうだった。


「啓介くんっ」


「っ!」


 恵理は熱に浮かされたような声で俺を呼ぶと、そっと俺の肩に手を乗せてきた。


 ただ肩に手を乗せられただけなのに、俺は敏感に反応してしまい、体をビクンとさせてしまっていた。


「まだ、なんとも思わない?」


 恵理はそう言うと、ただそのまま肩に手を乗せたままじんわりとその熱を伝えてきた。


「啓介くん、耳真っ赤」


 そんないらない情報を伝えながら。


 肩に手を置いたまま、ブラジャーとパンツを俺のズボンの上に置いたまま、手を伝って素肌の温度を俺の肩に伝えてきた。


 その恵理の体温が、後ろで恵理が裸であることを強調するようで、俺はただただ長い間ムラムラっとさせられ続けたのだった。


「じゃあ、そろそろ服着ようかな? 取ってくれる、啓介くん」


 恵理はしばらくその時間を堪能したのか、艶っぽいような声で俺にそんなことを言ってきた。


取れって、いったいどれから……。


 そう思った時、俺はズボンに乗せられていた空色のパンツをそっと掴んでいた。


 まだ体温が微かに残っているような温度を感じて、このパンツが脱ぎたてであることが伝えられてしまった。


「啓介くん。そんなにパンツ握りしめて、私のパンツ好きなの?」


 そんな少しからかうような言葉を向けられて、俺は慌てたようにそのパンツをすぐ後ろにいる恵理に手渡した。


 それを受け取った恵理は、俺の後ろでパンツのゴムの音が聞こえるようにしてパンツを履いたようだった。


 そして、俺は次にズボンの上にあったブラジャーを掴んだ。内側の少し柔らかい部分を指の先でバレないように撫でて、俺は何でもないようにそのブラジャーを恵理に渡した。


 あとは同じような流れで服を手渡していき、恵理は少しゆっくりめに衣擦れの音を立てながら、服を着ていった。


「よっし、こっち見ていいよ」


 振り向いた先にいた恵理は、制服のリボンの位置を直している最中だった。


 俺が振り向くと、耳の先まで真っ赤にさせた顔をそのままに、恵理は俺をからかうような笑みを浮かべていた。


「私の下着見て、何か思った?」


「っ……」


「まぁ、さっきの下着類は全部洗濯済みのやつなんだけどね」


「え?」


 予想もしなかった返答を前に、俺は催眠中だということも忘れて間の抜けたような声を漏らしてしまった。


 そんな俺の反応を見て、恵理は妖艶に口元を緩めて言葉を続けた。


「さっき家に帰って持ってきたの。さすがに啓介くんの部屋で全裸になったりはしないよ」


 今だ地に足がついていないように、微かに熱に浮かされたような声と共に恵理はバッグにしまってあった水色のブラジャーの肩紐をこちらに見せてきた。


「……どきどきした?」


 大人っぽい笑みと共にそんなことを言われていまい、俺は先程まで抱いていたドキドキが幻想だったのだと思い、ひどいショックを受けてーー


 あれ? 俺が見た下着はそんなに青色が強くなかった気がしたんだが。


 もっと淡い色をした下着だった気がする。


 それに、微かに体温が残っていた気もしたし、あれが洗濯後の下着とは考えにくい気がする。


 そんなことを思って恵理の顔を覗くと、その顔には作ったような余裕しかないような気がした。


 やっぱり、さっきの下着は本当は脱ぎたてなんじゃないのか?


 しかし、そんなことをどれだけ考えても、確かめようがなかった。


 あれは本当に洗濯済みの下着だったのか。それは恵理しか分からないことみたいだ。



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