第26話 少しだけえっちな子

 授業中。私はこれからのことについて考えていた。


 今朝は啓介くんに可愛いと言われながら頭を撫でられて、気持ち良い朝を過ごすことができた私だったが、このままでいいのかと考えていた。


 啓介くんに可愛いと言われて頭を撫でられるのは、非常に良い気分になる。少女漫画風に表現するのなら、胸の奥の方がとくんっと音を立てる感じだ。


 でも、それはあくまで私にとってはというだけ。


 そう、問題である啓介くんにはあんまり響いていなさそうだった。


 その証拠に、去り際に少しだけスカートをたくし上げたときの方が、ずっと私のことを見ていた。


 ……やっぱり、男の子はえっちなことをされた方が嬉しいのだろう。


 なんか、今日スカートをたくし上げたときの食いつきが凄かった。性的なものを見るような熱視線を凄い感じたし。


 今日のパンツって、別に普通のパンツだったよね? 普通の白のパンツだったような気がする。


 それなのに、あれだけ食いついた理由。


 多分、普段と何か違うところがあって、そこに対して異常に反応したんだと思う。


 普段から私は催眠にかかったフリをして、スカートをたくし上げている。ていうことは、ただスカートをたくし上げるっていう行為が刺さったって訳ではない。


 私は先生の話をそっちのけで、ノートの隅の方に考えをまとめていた。


 啓介くんの性癖を書き出して、そこに対比するように今朝の情報をかき込んでいく。


『啓介くんの性癖……パンツフェチ、脇フェチ、脚フェチ、匂いフェチ、スクール水着フェチ、コスプレ好き(わんちゃん)、女の子に恥ずかしい格好をさせるのが好き、指の間を舐められるのが弱い』


『今朝の情報……催眠にかけられる状況、一方的にされる、髪を触らせる、言葉責め?、スカートのたくし上げ、パンツ』


 ……歴史の授業ノートがえらいことになってしまった。


 啓介くんの名誉のためにも、このページは後で切り取っておこう。


 それにしても、こうして見ると啓介くんの性癖って幅広いなぁ。いつからこんなふうになっちゃったんだろ?


 そんなことを思いながら、啓介くんの性癖と今朝の情報の共通点をまるで囲んでいくと、一つの解答が導き出された。


「……これだ」


 ノートに書き出されていた情報から導き出された解、私はそれをノートに書き記すと、そこに二重線を引いた。


『スカートをたくし上げた女の子に、一方的にされるがままにされる』


 これなら、私にもできるかもしれない!


『これ以上先』に近いかもしれないその解を見つけた私は、小さく頷いてそれを実行することにしたのだった。


 私は導き出した解を実行するために、放課後までの間に悶々としながら作戦を考えたのだった。




 そして、放課後。


 私は一度荷物を置きに自分の家に戻った。


荷物を置くなりいつも通りに啓介くんの家に向かった私の中では、一つのプランが完成していた。


 多分、啓介くんは私が部屋に入るなり催眠アプリの画面を見せてくると思う。


 いつもの流れで言うなら、いつも私の名前を呼んでから催眠アプリの画面を見せてくる。


 そうなると、そこに隙が生まれるはず。


 私が催眠アプリを持っていることはもうバレてるから、前みたいに悠長にはしてられない。つまり、私が啓介くんより先に催眠アプリを仕掛けるタイミングは一つしかない。


 私は啓介くんの家の玄関から入って階段を上りきると、いつものように啓介くんの部屋の扉を開けた。


 そして、顔よりも先に、催眠アプリの画面を表示させたスマホを持った手を部屋の中に入れながら、言葉を続けた。


「お、啓介くんスマホ見てるね。ていうことは、もう催眠にかかったってことかな?」


実際に啓介くんが催眠アプリを見ているのかは関係ない。こうして口にしてしまうことで、啓介くんは催眠アプリにかかったフリをするしかならなくなる。


 私は少し遅れて顔を覗かせたわけなのだがら、啓介くんの反応を見る限り、ちゃんと催眠にかかったフリをしているらしい。


 急いでベッドに投げたスマホには、もしかしたら、催眠アプリの画面が表示されたままになっているかもしれない。


 べつに、そこを強く言及する気はないけどね。


 さて、ここからが本題だ。


 啓介くんの性癖に刺さることをして、啓介くんに私のことが好きだと認めさせる。色気仕掛け……じゃなくて、チキンレースの開幕だ!


「……じゃあ、啓介くん。そこに正座して」


 私はそう言うと、ベッドから少し離れた床を指さした。


 当然、催眠にかかっているフリをしなければならない啓介くんが、私の言葉を無視することなどできはずもなく、啓介くんは大人しく床に正座をした。


 正座をした啓介くんは、少し不安な顔をして下を向いていた。


 私は少し情けなさそうな顔をしている啓介くんの前に立って、一瞬啓介くんからの視線を受けた。


 下から向けられた不安げな視線を受けて、私はどこか胸の奥の方が微かに刺激されてしまった気がした。


 これからすることを考えて、鼓動を速くした私の胸の中でそんな気持ちがじんわりと染みてきて、私はそれがバレない様にそっとスカートの裾を持った。


 ……これは、啓介くんが私のことをもっと気になって、好きだと思ってもらうためにやるだけ。


啓介くんが喜ぶからやるだけで、私が望んでいる訳じゃない。


 そして、私は鼓動の音を大きくさせながら、そんな言いわけを胸の中で何回も繰り返して、スカートを広げるように啓介くんの頭の上にかけた。


 自ら啓介くんをスカートの中に入れると、絵面がとんでもないことになっていた。


 正座している啓介くんに無理やりスカートを覗かせている、痴女みたいな絵面になってしまった。


 ……わ、私が変態みたいだ。


 私は一気に顔を熱くしながら、不意にそんなこと思ってしまった。


でも、ここで変に恥ずかしがったら、啓介くんは私のことを意識しないままかもしれない。ただ少し気になるだけの幼馴染で終わるかもしれない。


私はそんなことを考えると、引いてしまいそうになっていた腰を少しだけ前に出して、冷静を装うようにしながら言葉を続けた。


「啓介くん、ちゃんと見てる? 視線逸らしちゃダメだからね?」


 多分、啓介くんが好きなのは『スカートをたくし上げた女の子に、一方的にされるがままにされる』というシチュエーション。


 それなら、私はそれに乗るしかない。


 あくまで作戦。それだというのに、やけに前のめりになっている自分がいるのも事実だった。


 汗をかくほど熱い啓介くんのいやらしい視線。それを一点に受けながら、興奮している啓介くんの熱い鼻息がこそばゆくて、私の中のくすぐったいとは別の感情を掻き立ててきた。


 そして、先程の真下から向けられた啓介くんの不安げな視線を受けて、じんわりと浸透していった感情が、勝手に私の背中を押した気がした。


 おかしい。スカートをたくし上げて、何度も啓介くんにはパンツを見られたはずだった。それなのに、こんなに恥ずかしく感じるなんて思いもしなかった。


 そして、その恥ずかしさが私の心臓の音を速くしてきて、いつの間にか熱くなっていた吐息と共に、私は言葉を漏らしていた。


「本当に、なんとも思わない?」


「……」


「っ。啓介くん、鼻息すごいよ? 興奮してるの?」


「っ」


 私の言葉を受けても変わらない熱すぎる性的な視線。微かにペースを乱されたような鼻息が、私をくすぐってきて、私を変な気持ちにさせようとしてきていた。


 どれくらいの時間そうしていたのか分からない。気がついた時には、抑えきれなくなった声を漏らしながら、熱で私の頭はとろんとさせられてしまっていた。


 ただ焦らされ続けるようなその状況を前に、私は何かの物足りなさを感じてしまったらしい。


 自分でそんな状況に誘い込んでいながら、高められた感情は私の背中を軽く押したみたいだった。


「ねぇ、啓介くん……おへそにキスして」


 そして、我慢ができなくなった私は、そんな言葉をポロリと漏らしてしまっていた。


 ……あれ? あれ?! 今、私なんて言った?!


 なんかぼぅっとしていたせいか、わけの分からないことを言った気がする!


 私がスカートの外で一人あわあわとしていると、スカートの中でもぞりと動く感覚があった。


 ずっとかけられていた熱い鼻息が徐々に上に移動していって、おへそ付近で動きを止めた。そして、躊躇うことなく柔らかい感触が私のお腹付近にそっと触れてきた。


「~~っ」


 少し長い間押し当てられた唇は、離れた後もしばらく私のおへそ付近に悪くない違和感を残した。


自分とは違う温度とその感触がそこ残って、ついさっきまでそこにいたことを主張していた。


私は一気に熱くなった顔をそのままに、顔の熱を誤魔化すように啓介くんにかけていたスカートをばっと払った。


やり場に困った手をそのままにしておくのも不自然な気がして、私は優しく啓介くんの頭を撫でた。


 一方的に色々と命令されて、よく分からなくなっている啓介くんの顔を見て、胸の奥の方にある何かを刺激されながら、私は言葉を漏らした。


「幼馴染のパンツじゃ、何も思わないよね?」


 私がそう言うと、啓介くんは一瞬何か言いそうになったようだったが、何かに気づいたように口をつぐんで目を逸らした。


 その目の映った熱を見て、私は数日前まで自分の部屋にある鏡で見ていたことのあるものと同じものだと思った。


 ……啓介くん、私に催眠してもらえることを楽しみにしているんだ。


 それに気づいてしまった私は、胸の奥の方の何かが強く疼いてしまった気がした。


 どうしよう。これじゃあ、私が変態みたいだ。



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