第17話 ちょっとした出来心

『佐々木さんって、少し犬っぽくて可愛いよな?』


 クラスの男子と会話しているとき、その一人の男子が不意にそんな言葉を口にした。


 周りの男子もその意見に頷いていたし、客観的に見て恵理は犬っぽい女の子らしい。


 犬っぽいか……。


 授業中、そんなクラスメイトの言葉がずっと頭に残っていた。


 恵理が犬っぽいという言葉がずっと引っかかっていたのだ。


 確かに犬っぽいことは犬っぽいのか。


 懐いたように側にいたり、俺を起こしに来たり中型犬みたいな感じがしなくもない。


 中型犬といえば、やっぱり外で飼うんだろうか? いや、最近は小型犬に限らずに室内で犬を飼うらしい。


 家の中で、大型犬とじゃれ合うような動画も見たことあるしな。


 ……中型犬と言えば、犬の耳はもちろん、首輪だってしてるイメージあるよな。


「啓介くん、帰らないの?」


「ん? あれ? 授業は?」


「いや、とっくに終わったよ」


 考え事をしていると、いつの間にか授業も帰りのホームルームも終わっていたらしい。


時間の流れの速さに驚いていると、恵理に呆れるような目で見られていた。


そんな恵理のことをじっと見ながら、先程頭の中で考えてた中型犬を隣に置いて、横並びで比較してみる。


「ん? どうしたの?」


「……ちょっと、先に帰っていてくれ。寄る場所ができた」


「そう? うん、分かった」


恵理は少し意外そうな顔をした後、そう言い残してこちらに教室を後にした。


その後ろ姿を眺めながら、俺は小さく頷いていていた。


恵理が犬っぽいか、その真相を確かめられるのは多分俺しかいないだろう。


そう、催眠アプリを持っている俺しか。




 そして、ある買い物を済ませた俺は家に帰宅していた。


 夕食の準備をしていた恵理にキリの良い所で俺の部屋に来るように言って、俺はそわそわとした様子で恵理が二階に上がってくるのを待っていた。


 待つこと十分ほど。


 階段を上がってきた足音が徐々に俺の部屋に近づいてきたのが分かった。


 少しずつ近づいてきた足音に胸を高鳴らせていると、部屋の扉を開けて恵理がひょっこりと部屋の中を覗くようにして現れた。


微かに赤く染まった顔が何かを期待しているように見えてしまった俺は、結構末期かもしれない。


「えっと、なに、かな?」


「恵理。これを見るんだ」


 俺が予め起動させておいた催眠アプリを恵理に見せると、恵理はスマホの画面を見た後に少しだけこちらから視線を逸らして部屋の中に入ってきた。


 パタンと閉じられた扉を背後にして、催眠にかかった恵理は俺の言葉を待つようにもじりとしていた。


 俺はそんな恵理の姿を確認した後、先程購入した物一式が入った紙袋を恵理に手渡した。


「……これを身に着けて欲しい」


 突然、紙袋を手渡されてきょとんとしていた恵理だったが、その中を覗き込んだ後に体をビクンとさせて驚いていた。


 ばっとこちらに勢いよく向けられた顔は、俺の正気を疑うようなものだったが、俺はそんな恵理の顔から目を逸らしてそのまま言葉を続けた。


「さ、さぁ、身に着けるんだ」


 俺がそう言うと、恵理は耳の先まで真っ赤にさせた後、観念したようにその紙袋からに入っている物をごそごそと探って、躊躇いながらその全てを身に着けていった。


 そして、待つこと数分後。


「おぉっ……」


 目の前には、犬のコスプレをした恵理の姿があった。


 髪色と同じ栗色をした垂れ耳のカチューシャと、スカートの中からぴょこんと出ている犬の尻尾に、犬が付けているような首輪。


そして、首輪には赤いリードが付けられていて、それを恥ずかしそうに手で持っていた。


お散歩を楽しみにしている犬が、自らリードを口に咥えるように、恵理は首輪についたリードを自らの手で持って、指示を待つかのように上目遣いで立っていた。


 制服を着たままの状態でさせた犬のコスプレ。


 ほんの軽い出来心でやってしまったが、なんか性癖を捻じ曲げられてしまいそうな怖さがあった。


「似合いすぎだろ。な、なんか、罪悪感が……こんな格好させてしまって、本当にいいのだろうか?」


「~~っ」


 恵理が顔を真っ赤にさせていたので、首輪がきついのかと思って確認してみたが、首輪は少し緩めに付けてあるみたいだから問題ないみたいだ。


「えっと、あ、リード持とうか?」


「っ」


 なんか気まずくなって荷物持とうかと同じテンションで、そんなことを言ってしまった。


 催眠に掛かっている恵理は小さく体をビクンとさせた後、そっとリードの先を俺に渡してきたので、俺がそれを持つことになったのだが。


 ……これって、なんか変なプレイみたいになってないか?


 さすがに恵理に悪いし、少しだけ楽しんだら催眠を解除しよう。


 そう思いながら俺はベッドに座って、立ったままの恵理を見上げながら、この先どうするかを考えてみた。


「えっと、おすわり」


「……わんっ」


 俺がそう言うと、恵理は少しだけ躊躇いを見せた後に俺の目の前に正座で座った。


 ちらりとこちらに向けられた上目遣いと、俺の指示通りに行動する恵理の従順さに少しの感動を覚えて、俺は続けて指示を出した。


「お手」


「わんっ」


 俺が手のひらを上に向けて差し出すと、恵理はその上に軽く握った手を置いてきた。


 な、なんだ。このなんとも言えない感情は。


 これが支配欲と呼ばれるものなのか? いや、幼馴染にこんなことをしているという罪悪感から来る背徳感という奴なのか?


 俺は初めて感じるぞくぞくという感覚を前に、少しテンションが上がっていた。


「ちんちん」


「…………わ、わんっ」


 恵理は少し躊躇った後、顔を赤くさせながら俺の太ももに手を置いてきた。


そして、微かに潤んだ瞳をこちらに向けた後、意を決したようにその手を少しずつベルトの方に伸ばしてきた。


「ん?」


 そのまま体を前のめりにすると、俺のベルトに手をかけてベルトを緩めてきて、俺のズボンを下ろそうとーー


「いや、違う違う! 犬がやる芸の方だって!!」


「え? あっ」


 俺が慌ててズボンを押さえると、恵理は素で驚くような声を漏らした後、ぽんと音でも出たんじゃないかというほど顔を赤くさせた。


 それから急いで手を引くと、正座していた足を立てて少し開いてからつま先立ちをした。


 そして、胸の前で軽く拳を握ると、こちらを上目遣いで見つめてきた。


「わ、わんっ」


「おー……これは中々」


 ちらりと見えているのは淡い空色をしたパンツ。


 見えているのは少しだけだというのに、裾が上がってしまったスカートの中から見えている太ももが大胆に見えることと、服従しているようなポーズがこちらの劣情を駆り立ててくる。


 ……これ以上は、本当に性癖が曲げられそうだ。


 そろそろ、終わりにしておくか。


「よしよーし、よくできました」


「く、くぅーん」


「ちんちんって言って、変なことしようとしてきたときは驚いたぞ。さながら、淫乱な雌犬になってしまったのかと思ったわ。なっはははっーーえ?」


 最後に頭を撫でて終わろうと、そんなことを言いながら軽く頭を撫でていると、不意に手を掴まれた。


 そして、困惑している俺をそのままに、恵理は俺の手に頬ずりをした後、小さく出した舌の先で俺の手のひらをぺろりと舐めてきた。


「ひゃっ」


 そんな俺の声を聞いて、恵理の目が微かに妖艶に細められたような気がした。



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