私の幼馴染は私が催眠にかかったフリをしていることを知らない。
荒井竜馬
第1話 ふざけて催眠アプリを使ったら
「……確認だ。あくまで確認のためだからな」
とある平日の朝。俺の部屋には、俺を起こしに来た幼馴染である佐々木恵理(ささきえり)の姿があった。
栗色のツインテールに、くるりとした瞳が魅力的で、クラスでも一番人気の女の子だったりする。
俺はそんな女の子に向けて、スマホのアプリを起動させてその画面を見せつけていた。
そのアプリとは、『催眠アプリ』。
こんなフリーでインストールできる評価も高くないアプリが効くわけがない。それは俺だって分かっている。
だから、ただの悪ふざけで使ってみたのだ。
『何バカなことしてんの。早く着替えないと遅刻するよ?』というツッコミ待ちで。
それがどうしてこうなった?
今さっき俺がこのアプリを恵理に見せつけて質問をすると、恵理はさらりと俺の質問に答えたのだ。
それも、普段なら絶対に答えないようなことを。
それこそ、催眠でもされていないとおかしいのだ。
そうなると、このアプリが本当に効いているのか確かめなければならない。
俺のした質問に対する返答が、嘘偽りのないものだったのかを確かめなくてはならない。
だから、これは決して下心から来るものではないのだ。
「……スカート、たくし上げてみてくれないか?」
俺がスマホアプリを見せつけながらそんなことを言うと、そっと恵理はスカートの裾を手に持って、そのまますっとスカートの裾をたくし上げたのだった。
「……催眠アプリ物ってエロいなぁ」
俺は珍しくアラームよりも、起こしに来る幼馴染よりも早く起床していた。
朝早く起きたからといって、特にやることはない。
だって、アラームの時間にベッドから出て朝ご飯を食べれば間に合うのだから、早く支度をする意味はない。
早く支度をしたところで、結局時間が余るだろう。
となると、やることは一つしかない。
高校二年の思春期男子がすることと言えば決まっている。
俺は枕元に会ったスマホを拾って、SNSアプリを起動していた。そして、そのままスクロールをして、少しえっちな画像をぼうっと眺めていた。
男が時間を潰すときにするにすることと言えば、エロ動画かエロ画像を見るくらいのものだろう。
個人的には、三次元のえっちな動画よりも、二次元のシチュエーションを大事にしている画像の方が好きだったりする。
普段ではありえないとされているような状況も、二次元なら簡単にそんな状況を作ることができる。
その中には、最近個人的にぐっときている『催眠アプリ』物も含まれるわけだ。
『催眠アプリ』。スマホに入れたアプリを女の子に見せることで、女の子を意のままに催眠することができるというアプリだ。
当然、えっちなことし放題なのである。男の夢を具現化したようなアプリ。
まぁ、もちろん、そんなものはこの世には存在しないのだけれど。
いや、現実的ではないことは知っている。だからこそ、フィクションの世界で楽しみたいのだ。
時間停止物のえっちな動画の9割がフィクションと言われるように、催眠アプリ物も同じ扱いなのだろう。
「……」
問題は、どうやって本物の1割を引き当てるかだ。
もちろん、分かっている。1割あると考えるその考えが馬鹿だということくらい。
分かってはいるのだけれど、少し間がさしてアプリストアで『催眠アプリ』と検索してしまうのは俺だけではないはずだ。
そして、それをダウンロードしてしまうのも。
「ダウンロード数ひっくいなぁ」
どうせ効くはずがない。そんなことは頭で理解しながらも、俺はそのアプリがダウンロードされるまでの時間をドキドキして過ごしていた。
そして、ダウンロードが終わるなり、俺はそのアプリを起動させた。
そこには紫と桃色の画面を背景にして、『催眠アプリ』と書かれた文字が書かれているだけの画面があった。
タップするようにと指示が出たので、タップをすると次の画面に切り替わる。
簡易的な同時ゲームのような選択画面のようなものが表示されて、そこにあった『催眠する』の選択肢を押すと、画面の中で紫色と桃色の画面が渦を巻いて、ぐるぐると回っている画面が表示された。
……なんか、少し前に流行った『ストレスが溜まっていると、揺れて見える画像』みたいな目がチカチカとする感覚はある。
まぁ、所詮こんなもんよな。
俺は再びえっちな画像の収集に取り掛かろうと思ったのだが、扉の外で階段を上ってくる音が聞こえてきた。
あれ? もうそんな時間かなと思って時計を確認すると、いつの間にか結構時間が経っていたことに気づいた。
そして、数秒後。俺の部屋の扉はノックすることなく開かれた。
「啓介くん、そろそろ起きないとーーえ、啓介くんが私に起こされる前に起きて、る?」
俺の部屋の扉からひょっこりと顔を覗かせたのは、俺の幼馴染の佐々木恵理。
両親が海外出張と単身赴任でいない俺のために、甲斐甲斐しく世話をしてくれている幼馴染だ。
まぁ、恵理の家も同じ感じで、隣に住んでいる者同士半同棲のような生活が続いている。いつもポストの隅に隠してある合鍵を使って勝手に上がってくるのだ。
普通に合鍵を渡しておいてもいいんだけどな。
「ああ。今日は目覚めが良くてな」
「ふーん、珍しいこともあるものだね。雪でも……槍でも降ってくるのかな?」
「なんで言い直したんだよ」
クラスの人気者の恵理と俺の関係は、それこそ物心つく前から続いている。
それだけに、恵理に毎朝起こされていると言うと、羨ましがられて首を絞められることも多々ある。
そんな少年たちに聞いてみると、彼らは声を揃えて『可愛くて巨乳の幼馴染に起こされるって、お前はエロゲの主人公か?!』と言われるのだ。
ふむ、美人で巨乳かぁ。
確かに、恵理は何度も男子から告白されるくらいだし、客観的に見ても可愛らしい容姿をしているとは思う。
それに、同級生の中でも胸囲が大きいのも否定する気はない。
子犬を思わせるような庇護欲をそそるような顔をしながら、胸元に視線を向ければ女性らしさを感じを得ない。
そうなんだけど……。
「ん? あっ、啓介くんが私のこと凝視してる。……啓介くんのえ・っ・ち」
「いや、そんな目では見てないって。今さら恵理のパンツ見ても何も思わない自信あるし」
「ちょっ、さすがに何も思わないってことはないでしょ?!」
ノリノリで変な演技とにやけたような顔をしていた恵理にそう言うと、恵理は何が不満だったのか頬を赤くしながら微かに頬を膨らませていた。
いや、だってしょうがないだろ。
ずっと幼馴染として側にいたのだ。もしかしたら、仲の悪い兄妹よりも一緒の時間を過ごしてきた。
そんな女の子の下着を見ても何も思わない。それは至って普通のことだろう。
そんなことを考えながら、俺は手元にあったスマホの催眠アプリが起動され続けていたことに気づいた。
ぐるぐると回り続ける画面を見ても、特に俺に変わったことは起きていない。
ということは、このアプリは偽物ということだろう。
結局、このアプリを入れたけどパチモンだし、使い道なかったなぁ。
データを無駄に消費しただけか。
……いや、それなら、せめて最後にギャグとして使ってみるか。
「恵理、これを見るんだ!」
「? なにそれ?」
「これは催眠アプリ。これを見た物は、このアプリを見せている人の命令を何でも聞いてしまうのだ!」
「なんでも?」
「そう、なんでもだ! さぁ、恵理よ。『今日履いているパンツの色を答えるんだ』!」
俺は下心なくそんな質問を恵理にした。
ノリツッコミか、それともただのツッコミか。とにかく、俺はツッコまれることを前提にそんな言葉を口にしたのだがーー
「……白」
「え?」
「だから……今日は、白色のパンツ履いてる」
「ん?」
恵理はあきれ顔でツッコミを入れるわけでもなく、誤魔化すわけでもなく、そんな言葉を口にしていた。
こちらから視線を逸らして、微かに頬を赤く染めながら。
普段の恵理がパンツの色を聞かれて、本気で答えることなんてあるはずがない。そんなことがあるとすれば、何者かに操られているときだけーー
操られている?
あれ? このアプリ、まさか本当に効いてる?
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