39.終末

 ◆


 始めは誰もが奇怪な現象だな、と思いながらも呑気に喜んでいた。

 世界中に金貨の雨が降り、一体誰がこんなことをしたんだろうと思いながらも、金貨を家に持って帰って……これでちょっとは生活が楽になるなぁ、なんて皆が思ったんだろう。

 ニュースが伝える頭上から降り注ぐ金貨に打たれて怪我を負う人間や、死亡する人間も最初の方は所詮は他人事だった。

 その翌日にも金貨の雨は降り注いだ。呑気にしていた人間の家族や友人が死に、金貨の雨も三日目になると金の貨幣価値が暴落させた。

 金が没落するやいなや、次はプラチナだった。

 これはインゴットの形で降り注ぎ、金貨以上に死傷者数を増やした。

 やがて、この奇怪な現象を喜ぶ人の数を恐れる人の数が上回った。


 恐怖が地球を駆け巡る内に、やがて吐瀉物に宝石が混ざる人間が現れ始めた。

 手術中の子どもの体内から大量の札束が見つかったという話が何件もあった。

 どれほどの金銭的利益を得ようとも、最早喜ぶ人間は希少となっていた。

 今、起こっている現象は一体なんなのか……一体、今地球に何が起こっているのか。

 

 だが、地球上の数少ない人間を除けば、事態を正確に把握している人間など誰一人としていなかったのだろう。

 正確に言うのならば、これは本来これから起こる現象の先触れのようなものであり、まだ何も始まってはいなかったのだ。


 金貨の雨が初めに降り注いでから一週間が経過し、連日降り注いだ貴金属の雨が初めて止んだ。人々は胸を撫で下ろしたが、安心は出来なかった。翌日も貴金属の雨は降らなかったが、たまたま止んでいるだけで、次はいつ降り始めるかわからない。街からは格段に人の姿が消えた。


 貴金属の雨が降り止んでから五日、この奇怪な現象はようやく終わったのだろうと人々が判断し始めた頃、世界中の天文台が属する政府に恐るべき報告を上げた。


 月が地球に近づいてきている。


 科学者の予想によれば、最終的には隕石のように衝突するだろうが、月の接近に伴う潮位の上昇や、引力の影響で衝突を待たずして地球は滅亡することになるだろう。


【つづく】

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