渡辺美咲と混沌世界の創造主
「平穏な一生だったね」
「はい。私は合格ですか?」
どうなんだろう。
良い方にも悪い方にも転がってはいないと思う。
危険な目にもそれほど遭わなかった。
役には全く立っていないが。
「不合格。理由を説明する」
まずこの世界に何ももたらしていない。
どちらかというと一生寄生虫のような生活。
チャンスをものに出来ていない。
「チャンス?」
「侍女だ。外に出るきっかけをくれただろう?家族から離れなければ貴女は何にも成れなかった。何も失わず、懸命に努力することもなく、ただ生きるだけだった」
もしも、家族と一緒ではなく侍女と二人で町に出たら、私はあっという間に拐かされた。
そしてそこから成長する人生が待っていた。
そうして成長した私はこの世界に何かを与え、生み出す可能性があったらしい。
「チャンスは三度あった。だが、そのチャンスを貴女はつかめなかった。混沌の世界には似合わない。貴女は温暖な世界で平穏に過ごすのが似合っている」
「娘は違うというのですか?」
「貴女の姉が貴女の娘の将来だ」
「姉…」
「貴女がいなければもっと大胆に行動し、もっと多くの成果をこの世界に与えてくれた。貴女は要らない」
あの世界で姉は幸せそうだった。
娘は混沌の世界に行けば幸せになれるのか。
世界が暗転して、気づくと私は背の高い椅子に座っていた。
隣には温暖世界の創造主。
周りを見ると真奈の隣に混沌世界の創造主が座っている。
真奈は眠っているようだ。
「今回のゲームはあまり面白くなかったな」
「普通は混沌世界や灼熱世界に当たった奴が温暖世界を望んで、温暖世界で派手に動いて世界がボロボロになるのが見物だったが、温暖世界に当たった者が混沌世界に行くと実につまらん展開だな」
「だが、温暖世界の創造主が、まさか自分の世界を避ける者がいるのかとがっかりした様子を見れたのは収穫だな」
「次のゲームはいつになるだろうな」
「暴走実験場の主が次にとんでもない実験をして巻き込まれ死者が出るまでゲームはないからな。あいつ今度は平穏を望む因子、発展がなくても平穏であればよしとする因子を探すらしいぞ。さすがにそれは平和にしかなるまい」
「いや、わからんぞ。戦争の最中に平穏の因子を片方の大将に注入したら、撤退戦で何万人も死ぬかもしれん」
「まったく、あいつは何をするかわからんが、成果だけは出しておるな」
「人とは計り知れんものだ」
創造主たちが語らう中、椅子は少しずつ離れていく。
創造主とそれぞれの世界に選ばれた者達が、少しずつ離れていく。
真奈、真奈、私のかわいい子。
長兄も次兄も姉を愛していたわ。
甥たちも貴女に懐いていた。
貴女自身も世界でしっかりと立っていた。
どうか新しい世界でも幸せに。
そのとき混沌世界の創造主が何かを投げた。
それは白い鳥になって私の方に飛んで来たが、温暖世界の創造主が鳥を掴むとそのまま消えてしまった。
「今のは一体?」
「私への通信だ。気にしなくていい。そろそろ私の世界に入る。次に目覚めたら君の新しい人生が始まる。何か希望はあるか?他のものは集中力などをもらっていたようだが」
「いえ、私はつまらない一生でも平穏で穏やかな一生を送れそうであれば、何も要りません。あの子が幸せになれるならそれだけでいいのです」
「そうか」
温暖世界の創造主は握りつぶした手紙をそのまま消した。
「ああ、手紙はやつが握りつぶしたか。まあ、妥当なところだな」
混沌世界の創造主はそう呟いた。
手紙に書いてあったのは
『姉が貴女の娘というのは嘘』
これを見た彼女はさぞこの領域に混沌をもたらしてくれるだろうと思ったが、温暖世界の創造主がそれを許すはずもなかった。
「つまらぬ」
この娘があのようにゲームに強くなるかなどわかったものではない。
あの姉は小さい頃からゲームを面白いと思って研鑽したからあそこまでいったのだ。
この娘にもそういう素養はあるが、あのように豊かで穀潰しを養えるような家は百年も前に滅びている。
ただ、この娘がこの世界で輝ける素質を持っているのは確かだ。
他の世界では真っ当に生きられまい。
「さて、どの国に落とそうか。そうだな…裏世界の精霊樹の里にするか」
混沌世界と言っても世界は広い。
いくつもの星を内包している中で比較的地球に近い星を選ぶ。
「夢と魔法のある世界。其方の母は…あのものがよいか。しっかり生きよ。この世界にさらに混沌をもたらしておくれ」
精霊樹の里で一人の精霊が生まれた。
女の子で焔のような赤い髪と金色の目。
その子はいつも誰かを探していた。
でも、自分が誰を探しているのか、彼女は説明できなかった。
ーーーーー
この話はこれでおしまい。
完結済設定がタイムリーに出来ないと思いますが終わりです。
ゲームをしよう、とそいつは言った。真っ白い部屋の中で @nanami-7733
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