渡辺美咲と真奈の場合

 それぞれ別の世界に行ってもらう?

 よくわからない状況だけど、私と真奈を別の場所に行かせると言っていることだけはわかった。

 事故で死んだ?

 ショッピングセンターで?

 確かに買い物に来ていた。

 子供はすぐに大きくなる。

 真奈の服が必要だったし、靴も少し大きめの靴を買おうと思っていた。

 夫を会社に送り出して、近所のショッピングセンターではなく、その隣にある子供用品の店を目指して。

 そして、歩道の前の方から悲鳴がして、車が。

 そうだ。私もひかれた。


 だからといって、どうして私と真奈が離れないといけないんだろう。

 目の前の封筒をじっと見つめる。

 ゲームをすれば好きな世界に行ける?

 ならば、私は真奈と同じ世界を希望するべきじゃないだろうか。

 記憶はなくなるだろう。

 その方が良さそうだ。

 真奈にとって最適な世界なら真奈は幸せになれるだろう。

 私にとっては最良の世界ではないかもしれないが、ここで真奈の手を離すことなんて出来ない。

 ぎゅっと抱きついている真奈と同じ世界に行く。

 その努力をしないなんて出来ない。


「真奈、大丈夫よ。お母さんも真奈と同じ世界にいくね」

「ママ」

「大丈夫よ。ずっと一緒よ。怖くないわ」

「うん」


 真奈は少し不安そうだが笑ってくれた。

 ゲームとやらに絶対に勝たねば。


「ゲームの内容を教えてください」

「その前にそれぞれ封筒を開けてみよ。行き先に不満のある者が他にもいるかもしれないからな」


 そう言われて封筒を開けようとする。


「私はこの封筒にどの世界が書かれているようとその世界に行きます。記憶も消してください」


 そう言ったのは左端の女性だ。


「ゲームはしないのかい?」

「ええ。それが最良だというのであればそれを信じます。それに元の世界の記憶は無くしてもこの場所の記憶が変に残ったりしたら?先ほども言ったように一部の技術記憶は残してもらう可能性があります。そうするとこの場所の記憶を一緒に思い出してしまうかもしれない。世界を変えた結果、あのときこうしていればと後悔して前に進めなくなることを恐れます。辛いことがあったとしても、ここより他の世界にいけばもっと悪かったのだろうと思えば耐えられます。なので私はこの封筒の世界に行きます」

「それも一つの選択だ。だが、行き先は見てもらおう」

「わかりました」


 思わず手が止まってしまった。

 真奈のためにゲームをして、他の世界に行くと私は不幸になるかもしれない。

 そのときに記憶があれば真奈を恨むかもしれない。

 私は技術も含めてあらゆる記憶を消そう。

 知らなければそれでいい。


 そう思って封を開けた。

 書いてあったのは温暖世界だった。

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