立花葵の場合

 よくわからないことを言われたが、そういうときには時間を稼いで考える時間を作る。

 ビジネスでもわからないことがあったときには、とにかく周りに聞いて状況を整理しろと言われていた。

 ミスをあとで修正する方が時間はかかる。

 だから、わからないことがあったら、まず質問をする癖をつけろ。

 そう言って育ててくれた会社の藪田先輩ありがとう。

 咄嗟に出たのが、質問してもいいですか、という言葉だった。


「いいだろう」


 そう言われたので最初に気になることを聞く。


「私たちの世界はなんと呼ばれていたのですか?」


 私たちの世界がもしも水の世界と呼ばれていたなら、この先の世界は地球よりも水が少ないんだろう。

 戦乱の世界と呼ばれていたら、この先の世界は地球より平和かもしれない。

 逆に平和な世界と呼ばれていたら、この先の世界は地球よりも波乱に満ちた世界と言えるだろう。

 何かしらのヒントになるはずだ。


「君たちの世界は」


 さあ、なんと呼ばれていたのか教えてもらおう。

 技術の世界?温暖の世界?いや、温暖はないか?地球にだって寒冷地はある。


「暴走実験場と呼ばれていた」

「暴走実験場?」

「そう。人に制限をつけず、技術を与える。どこまでも大地を傷つける人と気づいて歯止めをする人、人と人との争いもつきず、だが、愚かしすぎることもない。そうなったらその世界はいつ破滅するかの実験場だ。いわば、何でもありの世界だな」

「何でもあり。そうなると新しい世界では私たちの行動に何かしらの制限がかかるのでしょうか?」

「そうだな。制限と言っても人のやることだからな。暴走しないような保険としてときどき神罰が落ちる」

「ということは宗教的な制約があるのでしょうか」

「そうだな。神の意志に沿う、沿わないで方向付けをして、神の意志から外れれば神罰が落ちるから、それぞれの人が自身を律していると考えてもらおう」

「利して?」

「律して。自分たちの行動を自分たちで制限して、と言うことだ。もっとも君たちの世界も法律があり、君たちは法律に則って生活していただろう?それもある種の制限だ。君たちは比較的穏やかな人々なので、他の世界に害をもたらす可能性は低いと考えられるから、今回このような救済策が選ばれているわけだ」


 暴走実験場…

 地球のことを考えれば否定しきれない。

 それに神の実験で突発的に人を殺したくなる因子なんてものを抽出された上にそれを人に植え付けてどうなるかを試されたのだ。

 実験場と言われてもおかしくないし、暴走実験場、というのはある意味的確な表現なのかもしれない。


「あの、よくわからんのだが、私たちは戻れないのか?事故にあったというのはわかったが」


 一番右の方の男性がそういった。

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