第4話 たんぽぽ丘での出会い
4月中旬に文芸同好会ができ、連休がもうすぐやってくる。私はまだスランプから抜け出せず、筆が進まないでいた。このままじゃ高総文祭の申し込みにも間に合わない。ママが「書けない時は少しの間でも筆を休めて別の事をしてみても良いんじゃない?」と言ってくれたけど、やはり落ち着かない。友達とも普通にしているつもりでも佳苗や美月、千晶はやはり何か感づいているのか、「何かあった?」としょっちゅう聞いてくる。これ以上やはり大好きな友達には心配かけたくなくて私は正直に作品が書けないでいると打ち明けた。そうしたら3人は「そうか…。スランプか。よし、連休中に1日皆でどっかに遊び行かない?1日だけでも書くことを休んでリフレッシュしたら?行き先でも何かひらめく事があるかもだし。」と千晶が言うと、佳苗は「良いね~。どこに行く?」と切り出す。すると美月が「わたしの住んでる市に新しくショッピングモールができるんだ。確か5月1日にオープンするって新聞に広告出てたはず。そこ行かない?」と言うので、皆それに賛成した。新しいショッピングモールか。どんなお店があるんだろう。美月の住んでる市は高校の最寄り駅から電車で40分。ショッピングモールから美月が通学で使っている駅はすぐ近くなんだそう。それなら時間かけて楽しめるだろうな。ただ、連休はこうした場所は大概は混雑するものと相場は決まっている。ま、楽しめれば良いわ。あとは天気も良ければ。なんて考えているうちに日にちはあっという間に過ぎ、ゴールデンウイークになった。約束の5月4日、私は美月と千晶が住む市に電車で向かった。途中の駅で佳苗と合流し、どんな場所なんだろうとか、どんなお店あるのかなとか、画材売ってないかな、文房具や本屋あるかなとか等々回りの迷惑にならないように話した。美月と千晶の住む市は本当に大きくて近代的だ。こんなにすごい市なら隣町なんて目じゃないだろうに。立派な高校もあるから。美月と千晶に無事合流して、早速例の新しいショッピングモールに向かった。美月が言う通り、駅からほとんどかからない所にドーンと建っている。沢山の店鋪もそうだけど、やはり人が多い。休みと言うことで親子連れや家族連れが多かった。それぞれ見たい店鋪があるだろうから、お昼になったらフードコートで落ち合うようにし、佳苗は文房具、美月は新しい水着、千晶は服や雑貨、私は本屋にそれぞれ向かった。ショッピングモールの本屋はやはり広い。その分、見たい本のコーナーが分かりにくい。とりあえず文庫本を見てみる。ママの小説やエッセイがコンパクトな文庫本になっている。ハードカバーはお高いから、コンパクトなお手頃価格の文庫本って良いんだよね。カバンに入れて好きな場所で気軽に読めるし。私は最近ある作家の作品に惹かれて読むようになった。その人の名前は山名卓司。最近大きな賞を獲得し、売れっ子作家に仲間入りした。彼の作品は爽やかな恋愛小説がメインで、文芸同好会でも男女問わずファンになっている生徒がほとんどだ。学校の図書室に置いたらと言う声もちらほらある。私は山名卓司のコーナーを覗いた。新刊はまだみたいだ。売れっ子作家なら新刊情報が新聞やSNSに出るだろう。私は他のコーナーをざっくりと見てからスマホを見るとお昼近くになっていたので店を出てフードコートに向かった。途中、買い物袋を下げた千晶と会ったので一緒に歩いた。フードコートに着くと、やはりすごい混雑で席を探すのが大変だなーと思ったら、佳苗と美月が先に来ていて話していた。美月が私達に気付いて合図してくれたので、確保してくれていた席に座り、それぞれ食べたい物を食べる。アスリートの美月はがっつり牛丼、千晶はパスタ、佳苗と私はハンバーガーにした。ファーストフードも久しぶりなので美味しく感じた。午後はまた好きな店を見て回り、夕方に少しお茶してから駅で美月と千晶と別れ、私は佳苗と電車に乗って帰る。佳苗と途中で別れ、私は自分の町の駅で降りてバスに乗り換え、自宅近くのバス停で降りて家路を歩いた。楽しかったけど、インスピレーションが湧いてこない。書けていた時は不思議だけど色んな本が読みたくなったり、あちこち行ってみたくなったりしていた。でも最近は全くそんな気配が無い。好きな作家の本が買えなかったと言うより買いたくなかったのが証拠だ。明日で連休も終わる。明日はどうしようかと悩んでいると、ふとたんぽぽ丘に行ってみたくなった。子供の時に帰ってみたら何かおこるのではと思った。そんな事を考えていると家に着いた。ママが夕飯を支度している。お土産にコーヒーショップで買ってきたコーヒーとケーキをママに見せると、食後のデザートにしようと言うので冷蔵庫にケーキをしまい、コーヒーはコーヒーメーカーの隣のカゴに入れた。今日の夕飯はママ特製のチキンライスとコンソメスープ。どちらも私の大好きなメニューだ。食べ終わってから片付けしてお風呂入って上がるとママが早速買ってきたコーヒーをメーカーにセットする。しばらくして良い香りがキッチンに広がった。「うーん。良い香りねぇ。仕事が捗りそうだわ~。編集さんにも入れてご馳走しなきゃ。」とママがご満悦な笑顔で言った。仕事でコーヒーをよく飲むママには嬉しいお土産だったみたいだ。メーカーが止まり、コーヒーが出来上がると私はお皿にケーキをフォークと一緒に出した。ママがコーヒーをカップに注ぎ、片方にはミルクをたっぷり入れてカフェオレにしてくれて私に渡してくれた。良い香りのカフェオレに甘いケーキは抜群の相性だった。私達は一時の安らぎを堪能して、カップやお皿を洗って片付けてからママは仕事をしに書斎に、私は自分の部屋に入った。1日歩いたせいか、眠気が来たのでそのままベッドに入り翌日起こされるまで全く目覚めなかった。ママと一緒に朝食を食べ、片付けてから私は気分転換にたんぽぽ丘に行った。足元のたんぽぽは綿毛になっていて、あちこちふわふわ飛んでいた。綿毛の行方を追って顔を上げると、見たことがない人が立っていた。たんぽぽの綿毛の様な薄い真っ白なブラウスにベージュのストレートパンツに黄色いスニーカー、何よりもたんぽぽの様な眩しい黄色い髪と瞳をしたスラリとしたイケメンだった。彼は私を見ると、ふっと優しく微笑んで私に近づいてきた。すると「やっと会えた。ボクはキミの事をずっと前から知っているよ。」と言うとふわっと私を引き寄せて抱き締めた。え?待って?小学校にも中学校にも高校にもこんなイケメンはいなかったし、いないよね。だいたい、高校の校則厳しいから、彼みたいな目立つ髪と目をしていれば先生に目をつけられているはず。あまりにいきなり過ぎて頭が混乱していた私は怖くて暴れて彼の腕から離れようともがいた。しかし、スタイルの割にすごい力で抱きしめられているので抵抗したくてもできない。「ボクはダン。これ以上は何もしないから安心して。ただキミにボクが見える様になったのが嬉しくて…。」と言うと力を緩めて離してくれた。私は力が抜けてしまい、そのままへたりこんだ。ダンはすまないと言った表情をしながらも私の前に座り、私の目を真っ直ぐ見つめて「ボクはここのたんぽぽ丘を守る者なんだ。ボクは感受性と想像力が強い人間にしか見えない。子供の頃のキミにボクが見えなかったのはキミのインスピレーションや想像力にムラが有りすぎてボクとの波長が合わなかったから。初めてキミを見た時は不思議な感覚に襲われたよ。これが一目惚れと言うやつなんだと分かったのはずっと後だったけどね。いきなり過ぎて驚いただろうけど、これだけは真剣に聞いてほしい。ボクはキミを愛してる。どうしようもなく惹かれているんだ。」と言った。私は恋愛事に昔から疎くて男性からの告白に免疫が無く、どう答えたら良いか分からなかった。今まで会った事がないイケメンからの告白なんて恋愛小説にだって有り得ないでしょ。大体全ての人に見えないのに、これはおかしい。絶対夢だ。早く覚めてよと自分の顔をつねったら痛かった。夢じゃないの?私、どうしたら良いの?頭の中でグルグルしているとダンの姿は消えていた。頬の痛みが夢ではないと教えていた。夜寝る前にノートを開き、今日あった事を書く。あまりにも色々有りすぎて書いても書いても終わらせられない。でも眠気には勝てず、ノートを閉じて眠りについた。明日からはまた学校だ。しかしこの出会いが私を変える事になる。
たんぽぽの花咲く丘で 池町ゆうみ @blue-lily
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。たんぽぽの花咲く丘での最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます