勘違い

青豆

第1話

「もしもの話なのですが」

 隣を歩く後輩は、小さな声でそう言った。まるで囁くみたいに。

「あなたと、あなたが今付き合っているKさん、その2人があることをきっかけに、決定的に決裂して、一生関わることがなくなったとして・・・・・・」

「嫌な話の始まり方だな」

 僕は笑って言う。僕はいつも、笑って何かを言っている気がする。言い訳をするような自分の笑顔が、あまり好きではない。

「それで、2人はその後、お互いがお互いのことを引きずって、辛い気持ちをずっと持ち続けて生きたとしますよね。つまり、独身のまま、辛い気持ちで、50年も60年も」

 僕は理解を示すために頷いた。でも、理解なんてしているのだろうか。わからない。

「きっと、それはとても辛い人生だと思います。無意味とすら、言えるかもしれない・・・・・・これは考え方というか、捉え方によって違うでしょうけど。ですが、もし、もしですよ、死ぬ瞬間に、神様が現れて、『君たち2人の決裂は勘違いによるもので、本当は2人の間に問題はなかったし、愛情があって、その後も2人は思い続けていたのだ』と言われたら、どうでしょうか。辛かった人生を、別の角度からいきなり眺めさせられ、色づいた側面を知る・・・・・・それは、きっと、幸せなことだと思うのですが、でも」

 彼は息を吸う。ゆっくりと、慎重に。

「でも、本当にそれで、人生は肯定されるでしょうか? つまり、その人生はだったのでしょうか?」

 僕にはよくわからなかった。

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勘違い 青豆 @Aomame1Q84

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