第27話 : ジョナの過去(一部盗賊の眼)

「リリアーナ、言いたくはないが」

「わかっています。皆様、申し訳ございませんでした」


 リリアーナ様が涙声を出しながら頭を下げます。

 貴族の方がこういうことをするのは屈辱以外の何ものでもないのですが、流石に自分が原因だと分かっているのでしょう。


「貴族のプライドよりも身の安全の方がはるかに大事だぞ、心得るように」


 ベルスト様が普段よりもきつい口調で諫めます。一歩間違えば誰かが傷付いたかも知れないので仕方がないですね。


「郷に入れば郷に従えという言葉もある」

「お兄様、リリアーナも後悔しているようですから、そのあたりでよろしいのでは」

「ふむ、今後はくれぐれも注意するように」


 教会の中でのお説教が終わり、家に戻ります。


「ただ今戻りました」

「アンジェ様、お帰りなさいませ」


 何事もなかったようにジョナさんが出迎えてくれます。


「アンジェ様、外を歩いて汗をかいているでしょうから浴室で流せるように用意してあります」


 レイピアさんが準備万端整えてくれています。優秀なお二人のお蔭で安心で快適な暮らしができています。


「ジョナさん、今日は私の身体を洗って欲しいのですけど」

「承知しましたが、よろしいのですか」


 出会った時に一度身体を洗って貰い、その際にあまりの身体の違いにショックを受けてしまってから一人で入浴していたのですけど、今日ばかりは二人きりになれる浴室でジョナさんの話を聞きたかったのでこちらからお願いしました。


「こんな感じでよろしいですか」


 相も変わらず凄いカラダを駆使して私のことを洗ってくれます。今回はじっくり話を聞きたかったので背中と手足を手洗いして貰っています。

 それにしても流石はサキュバス、力加減と手を動かす速さが絶妙すぎて身体が蕩けそう──これを殿方がされたら──それ以上想像すると私の理性が崩壊しそうです。


「ジョナさん、先程は有難うございます」

「普通に仕事をしたまでです。お礼を言われる程のことではありません」

「そんなことはありません。ジョナさんがいなければ誰かが傷付いていたかも知れませんから」

「あれだけ周りが見えていた『祝祭の聖女』様ですからそれはないかと。ただ、その存在を知られるといけないでしょうから私は動いたまででして」

「私はそれ程強くはありませんよ。それよりも……」


 それからジョナさんのこれまでについて幾つか教えて頂きました。


 ジョナさんは子供の頃(と言っても千年以上前らしいですが)から運動能力に優れていたそうです。種族の中でも図抜けていたそうで、それを評価されて傭兵団にスカウトされ、それから数百年間! を傭兵として世界中で仕事をしていたそうです。

 陸戦ばかりではなく、水上戦もこなし、刀、槍、更には弓矢も扱えるので、どこの戦場でも最前線にいたとのこと。そして「人型最終兵器」とまで呼ばれるようになった頃、自らの不注意で獣用の罠に掛かってしまったところを教会に助けられ、そのまま庇護下に入り上層部の方々の護衛をしていたとのこと。

 本人の話だと傭兵の頃より身体は楽だけど気は遙かに遣うから結構大変だったと。私の護衛だと『祝祭の聖女』という最強の存在だから随分気が楽らしいです。そもそも守る必要があるのかと笑って言われました。



🔷 🔷 🔷


 俺は悪い夢でも見ているんだろうか。

 いや、午前中は間違いなく最高に良い日だった。

 ギルドで見つけた依頼は簡単に終わり、仲間たちとお喋りしながら酒を飲んだ。昼間から酒を飲めるほど余裕の仕事は滅多にないから、恐ろしいほどコスパの良い仕事だった。


 外へ出ればやけに派手な町娘の格好をした連中がいる。

 あんなに目立つ色の服を着ている奴なんて平民ではまずいないから、恐らくは世間知らずの貴族がお忍びのつもりでここに来ているのだろう。

 ハッキリ言って鴨が葱をしょって来ている以外の何ものでもない。


 あの目立つ女一人を攫ってしまえばいいのだから俺達三人で充分だ。そう思っていたのだが……


 何で「人型最終兵器」のジョナがあそこにいるんだよ!

 アイツはしばらく前に行方不明になって、俺達の間じゃ「伝説の殺戮女」と呼ばれるようになっていたのに。どこかで戦いに負けて死んだなどと言っていた奴をぶん殴ってやる。

 あの女に勝てる奴なんでこの世にいないだろ……んっ、アイツが護衛なんてことをしていると言うことはあの子供達は王族か……まさかだが『祝祭の魔女』クラスの大魔法使いか。


 そう考えればこの牢屋で生きているだけでも儲けものだったのか。

 だったら最後まで運があったと言った方が正解なのかも知れない。

 ここを出られたらもう王都を離れよう。俺達の力じゃ生きていかれない場所になったんだな。

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