第26話 : 護衛の実力
出来上がった香水はイチジクの枝から取った香りに何種類かの広葉樹の香りを混ぜた物。イチジクの甘さに木の葉の爽やかさを足したような不思議な香りがします。
「この甘い感じがお師匠様らしいですわね」
どこが私らしいのか良くわかりませんが、悪い香りではないです。
どちらかと言うと眠気を誘いそうになる感じで、イチジクのどこか甘さを感じさせる香りが鼻腔をくすぐります。因みに花を摘んだりした後にこれを使うことを想像したら──この香りと混ざるとどうなるのか──イチジクが食べられなくなりそうです。
その後はお茶屋さんに行き、私のためにブレンドした紅茶をプレゼントして頂きました。
ついでにこちらで軽食での昼食を済ませています。
もうそろそろ帰らなければと言う時間になって、最後に平民街にあるギルドに行くことになりました。
これはベルスト様の提案で、いずれギルドとは何らかの関係を持つことになるだろうから知っておいた方が良いとのことでした。
平民街と言っても高級店が並ぶ通りからそれ程離れている訳ではありません。ギルドの建物のシンボルである火の見櫓は貴族街から簡単に見える位の距離にあります。
とは言え、流石に貴族街とは雰囲気が違います。
「失礼する」
ギルドの入り口は開放されていて、中に入るとホール状になってる場所があり、そこに依頼書がズラリと張ってあります。緊急案件を示すピンク色の紙が数枚あり、荷物の運搬や逃げた馬の確保などの依頼がありました。通常の依頼はメイドの募集から傭兵まで数十枚の紙が所狭しと貼られていて、それを見ている人が数人います。
その中にベルスト様がカッカッと入っていきます。
「ギルド長に会いたいのだが」
「どちらさ……失礼致しました。ご案内致します」
ベルスト様が受付嬢に手渡したのはリリアーナ様と同様に一枚のハンカチ、そこにあった刺繍は王家の紋章なのでしょう。
ギルド長は応接室で私達を歓待してくださいますが、もう教会に戻る時間です。私を紹介してくれた後にまた来るからと言って外へ出ました。
早足で教会に戻る途中、貴族街との境あたりで一人の男性が私達の行く手を塞ぎました
もの凄くガッチリした体躯は獣人、それも水牛獣人でしょうか。特徴的な曲がった角が生えています。平民街では亜人の方々が結構いましたし、貴族であっても獣人や人魚の血が入った方々がいます。もちろん私達の学校にも。
育った村には亜人の方はいなかったので最初は戸惑いましたが、この国は「全ての人属・亜人が平等に暮らせること」を謳っているので王都には多種多様な人々がいます。とはいえ……
「お前達、貴族だな。俺に着いてこい」
リリアーナ様の服を見ていれば分かりますよね。貴族街だと流石に治安が良いと思っていましたのでこちらの注意力が欠けていたみたいです。
「何者だ」
ベルスト様が対応している間に透視で周囲の探索を行います。
この男の仲間らしい周囲を伺っている者が二人。その周囲に当方達の護衛らしき人が十数名。
恐らくはベルスト様と男が対峙している間にシェリー様とリリアーナ様を誘拐する算段だと思われます。私を聖女と知らなければ自身の女性としての価値はゼロでしょうから。
「お前に答える必要などない。連れている女をこっちに寄越せ」
「断る!」
「ほう、いい度胸だ。なら俺を倒してみろ。お前達に女を出さないという選択肢はない」
ベルスト様に数歩近づきます。この瞬間にベルスト様の前に無色の障壁を作るため魔力を集中します。
障壁と言っても色々ありますが、私が作りたいのはハリネズミのように棘のあるもので、拳を降り出せば自分が刺さってしまいます。ツルツルの壁なら簡単で即出来ますけど形が複雑な分少しだけ時間が掛かります。
壁を構築しようとした瞬間、目の前で風が吹いたように感じました。
「それ以上動くな」
えっ、この声。
「やめろ、痛てえよ」
脇からも声が。
目の前の男の脇腹に小刀が当てられています。その後ろには別の手で胴を抑えるジョナさんの姿。目線を逸らせばベルスト様達の護衛と思われる方々が二人の男を取り押さえています。
「なん、だと」
「それ以上喋るとこの腹を切り裂くぞ」
ドスの効いた声はいつものジョナさんのそれではありません。本気で相手を殺してしまいかねない迫力を感じます。
「その動き、まさかお前伝説の……っ、うっ」
「喋るなと言ったはずだ。次はない」
刃先で服を切っていきます。肌は切れていないようですが、出血をしたごとく男の顔が青くなっていきます。
たちどころに護衛の方が取り押さえ、縄で縛り上げていきます。
「ご苦労だった。礼を言う」
引き連れられていく男達は王族に
それにしてもジョナさんの強さ……彼女は一体何者なのでしょうか。家に帰ったらお礼かたがた話を聞きたいですね。
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