第28話 : 公爵令嬢は懲りない

「お師匠様、もう一度お忍びでお出かけしませんか」

「リリアーナ、貴女まだ懲りないの」

「懲りたから同じ間違いをしないようにきちんと考えておりますわ」

「アンジェ、貴女からも言ってあげなさい」

「お師匠様は絶対に誘いを断りませんわ」


 私ってそれ程単純なのでしょうか。

 リリアーナ様はもう一度私をお忍びで誘いたいみたいですけど、私は暫くはご遠慮したいと思っています。

 誰かに誘拐されそうになるなんてどう考えても普通じゃありませんし、護衛の皆さんに迷惑を掛けるのは非常に心苦しいものがあります。


「リリアーナ様、せっかくのお誘いは有り難いのですが、しばらく間を置いた方がよろしいかと」

「いえ、鉄は熱いうちに打たなくてはダメですわ」

「鉄というのは」

「ワタクシがお師匠様を思う心ですわ。この燃えている心の火をぜひ感じてくださいまし」

「リリアーナ、本当に懲りないな。俺はそこに関しては本当に感心するよ……まあいい、アンジェ、君に渡したい物がある。昼休みに食堂で細かいことを話したいから宜しく頼む」


 ベスルト様が渡したい物?

 お忍びの時に何かありましたっけ。



 座学の時間に小テストがありました。

 この国の歴史に関するもので、私は中の中くらいの成績です。

 これまでの知識の蓄積がほぼ無いので仕方がありません。

 学校での設定はアレクセル諸島国の王族という扱い(実際にどのような関係になっているかは私も知りません)ですから成績は問われないでしょうが、それでも王様や教会に成績が知れることを考えるとこのままで良いとは思えません。



「お師匠様、テストの結果は如何でしたか。もしも不安があるようでしたらこのワタクシがお手伝いをいたしますわ」


 リリアーナ様が満点のテスト用紙を見せながら、食事が終わったテーブルでそう提案してきます。彼女の成績は座学に関してはダントツの一番だそうで、王族の誰であっても敵わないほどの豊富な知識を持っているとシェリー様が教えてくれます。


「ですので、座学で困ったことがありましたら何時でもご相談くださいませ」


 頭に浮かんだのは天才と紙一重と言われる存在ですが、勿論ここでは申し上げません。


「そのことはまあいい、アンジェ、それでだな」

「ベルスト様、話に割り込まないでくださいませ」

「そうもいかない、これは父上からの話だ。この手紙を預けるから読んでおいて欲しいそうだ。内容は私達でも分からないが、明日返事が欲しいと言われている」

「わかりました。書面にて連絡を致します」

「お師匠様へ国王様直々にとは……何か大変なことでもありましたのでしょうか」

「それはわからない。ただ、大事なら俺達ではなく別の人間を寄越すだろう」

「それもそうですね。それならばワタクシとの再挑戦も問題ないですね」


 この諦めの悪さが成績に繋がるのでしょうか。私も見習うかと言えばちょっと、ですね。



 家に帰って手紙の封を開けます。

 書かれていることは近日中にアレクセル諸島国に行くから同行を承知しておいて欲しいと言うことです。

 え、アレクセル諸島国って確かこの国からだと陸路と海路で片道に十日以上かかる場所ではなかったですか。それだと学校を長い間休まないとマズいですよね。国王様が言い出したこととは言え、大丈夫なのでしょうか。何より私の成績がこれ以上落ちるといけないと思いますけど。


 色々考えますが、王様の提案を断るという選択肢はありません。『祝祭の聖女』と言われても、です。

 一応、ジョナさんとレイピアさんにも相談しますが、私と全く同じ意見でした。それを踏まえて手紙を書きます。学校を休むことに関しては懸念している旨を書き添えておきましたけど。



 そして、翌々日のこと。王城から呼び出しが掛かりました。学校が終わり次第登城するようにとのことです。馬車は王城から差し回したものを校内で待たせておくので、それに乗ってくるようにと至れり尽くせりです。

 護衛のジョナさん共々王城へ向かうと謁見場ではなく、王城内の執務域にある応接室まで向かいます。アレクセル諸島国へ向かう話はプライベートなことなのでしょうか。


「『祝祭の聖女』、こちらへ」


 そこには王様と一緒に日焼けした肌に見事な筋肉質の男性が座っていました。


「こちらがアレクセル諸島国国王、ジャムリア陛下だ」


 え、この方が私のお父様(仮)なの。でも、どうしてここに。

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