第20話 : 対話系魔法

 この学校に通う普通の生徒にとって、午後の実技の授業は毎日あるものではありません。

 大体の者が一系統の魔法しか使えないため、多くて週二日しか授業がないのです。二系統扱える者でも最大四日。三系統以上扱える者は極少ないため、午後を芸術などの課外活動や交流の時間に費やす方が多いのです。


 シェリー様もリリアーナ様も二系統の魔法が使えます。従って週に三~四日は午後の授業がなく、そんな時は図書館で自習をしたり、特別食堂でお茶を飲みながらお喋りをしていることが多いそうです。因みにここでの課外活動みたいなことは高位貴族になると嗜みとして家で習うのだそうです。


「ワタクシ達はある程度時間が取れますから」


 小さい頃から習い事をたくさんしているため、どれも一定のレベルにはあるそうで、今は特定の習いごとをする時以外は比較的自由に時間が取れるとのことでした。

 ベルスト様曰く、高位貴族の令嬢となれば他国へ嫁ぐこともあるため、どこへ行っても恥ずかしくないように色々躾けられるのだとか。

 教会で好き勝手に遊び、疲れたら寝ている生活をしていた私とは大違いだと思います。

 どちらが良いかはわかりませんけど、自分としては木登りをしたり、鬼ごっこをしたりして遊んだ思い出を楽しく感じます。慣れの問題でしょうけど、貴族の方々はお金はあっても苦労が多いのだろうと思ってしまいます。


 そんな皆様もこの年齢で全ての習い事を続けている訳ではなく、今はある程度自分で好きなことができるのだそうです。嫁入り前の最後の自由時間とも言われているらしいですけど。


 そう言えばお二人の結婚事情をまだ知りません……知ったところでどうなるものでもないですけど。


「シェリー、特別授業の件は今のうちに父上か宰相に話は通しておきなさい。帰りが遅くなると心配する者も出てくるからね」


 ベルスト様の言葉で、どこにいたのか略礼服姿の男性がスッと脇に現れ、ペンと紙を差し出してきます。気配なくどこで私達を見ていたのでしょう、ちょっと怖いです。


「これをお願い」


 サラサラと手紙を書き終え、自らのサインをそれを入れた封筒にして手渡せば、これまた音もなくこの場を去って行く男性。王族の世界って監視されている社会みたいです。


 と、その手紙を見て思い出しました。今朝頂いた王様からの手紙をまだ読んでいません。この場にはリリアーナ様がいるので開封して良いのでしょうか。読まないことの方が遙かに無礼な気もしていますし、どうしたものかと思案していたら『透視魔法で読んで構わない』というベルスト様の声が頭に響きました。


 ベスルト様は対話系の魔法が使えるそうです。

 これは互いの意志を思念で伝えたり、相手の心を読むことができるものです。この場合、能力に秀でた者は相手が人間でなくてもこれができたりします。


 エミーニア先生曰く「必要以上に使うと間違いなく人間不信になる」からと面白がって使ったりしては絶対にいけないと言われています。その感覚は私にも分かるので普段は絶対に使いません。

 そもそもこの対話系魔法が使える人間は極めて少数で、ほぼ全ての人物が国の管理下にあり、ある意味相互監視を義務づけられています。使い方によっては戦闘系の魔法よりもはるかに厄介なので仕方がないでしょう。


 あれ、全系統の魔法が使える『祝祭の聖女』はどれほど厳しい監視をされているのでしょうか。

 実感がないだけに非常に恐い気がします。

 ジョナさんの本当の役割って……ブルブル、そんなことを考え始めたら誰ともお付き合いが出来なくなります。


 今日は話をしていたのでゆっくりと食事を摂る時間がなくなってしまいました。

 温野菜のサラダとマーマレード(目が覚めるほど酸っぱい!)を塗ったパンで昼食を済ませ、午後の授業に向かう前に透視してみれば『特別授業の実施を許可する。ついてはシェリーにも一緒に教えること』というだけの内容でした。


 自分でこの力を使っていて、先程の対話系魔法もそうですけど秘密とか隠し事とかって私の前では意味をなさないことに気が付いてしまいました。もちろん試験でカンニングだってできてしまうのです。

 魔法の世界は自制心が大事だと改めて思いますし、それが出来ない人はエミーニア先生が言うようにどこかで心を病むのかも知れません。


 それにしても憂鬱で気が重いです。

 誰かにちゃんと物を教えたことなど一度もありませんし、高位貴族の方々を教える優秀な家庭教師の面々と比較されても困ります。


 そんなことを考えながら受ける実技の授業はあまり良い成果が出せませんでした。

 この特別授業とやらが一回で終われば良いのですけど、そんな上手くいく訳がないよなぁと思いながら、リリアーナ様が手配したという特別談話室なる部屋に赴きました。

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