第19話 : 師匠と弟子
シェリー様とリリアーナ様への個別指導の件を伝えるとエミーニア先生は意外にもあっさり承諾されました。いずれ貴女も誰かを教える立場になるでしょうからと言うのがその理由でした。
私自身は『祝祭の聖女』が将来どんなことをするのか全く知りません。
学校で何かを教えるのかも知れないし、戦争に参加したり、教会で祈ることもあるかとも思います。お伽噺の聖女はそれこそ地の果てで王子様を守るためドラゴンと戦ったりもしていますし。
まさか私がドラゴンに勝てる訳がないとは思いますけど、立場上参加させられるのかも……想像すると怖いから止めておきましょう。
翌日、学校へ行くとベルスト様から奉書を渡されました。
「父上からのものだ。ここで読むのはマズいから昼時に読んで欲しい」
うん、正直何が書かれているか分かるので読みたくありません。
でもこの学校に通わせて貰っている以上、それはできないことです。
特別食堂でいつもの三人で食事をしているところにリリアーナ様が現れました。
公爵令嬢である彼女はいつも取り巻きの方々と特別食堂で食事をしていたはずなのですが、今日はどうしたのでしょう。
「今日からワタクシも皆様とご一緒させて頂きたいのですが」
私は構わないですけど、問題は残りの二人です。そもそも私が『祝祭の聖女』であることを知っているのは生徒では他にいませんから、会話の中でそれを知れてしまうのはマズいです。王族だからそのあたりはしっかりしているとは思いますがリスクは極力避けたいです。
それと、いつもの取り巻きの方々はどうしたのでしょうか。
「他の皆様にはアンジェ様とお食事を摂ることにしたと伝えてあります」
こちらの心を読まれているようで少し怖い……それとこの場で私を様付けで呼ばないで欲しいです。
「それはかまわないが、リリアーナ、そうしたい理由を教えてくれないか」
「私はアンジェ様の弟子ですら、お師匠様とご一緒させて頂くことに無理はないかと」
「えっ、私は何時リリアーナ様を弟子にしたのですか?」
「昨日ワタクシに魔法を教えて頂けると了解してくれたではありませんか。ワタクシは習う側ですから当然弟子です」
その思考はどこから来るのでしょうか。友人どうしが勉強を教えるのに師匠も弟子もないはずです。
教会にいた頃、シスター達の他に年長者から勉強を教えてもらっても、その人達を師匠などと思ったことは一度もありません。貴族の習慣なんて知りませんが、そう言うものではないような気がします。
「リリアーナ、それはさすがに無理があるんじゃないのか」
「そうでしょうか。教える側と習う側では立場が違いますからそこはハッキリさせておかないといけないと思います。貴族の上下関係とも関連するかと存じますが」
確かに貴族の間では明確な序列がありますし、貴族どうし系列化されている部分があることも知っています。その位のことはエミーニア先生から聞いていますが、流石に無理がある話ではないでしょうか。
「そうね、リリアーナの気持ちも分かるところはあるわ」
シェリー様、爆弾を投下しないで下さい!
高位貴族令嬢から師匠なんて呼ばれた日には周りの目が……あれ、私、王家の二人に守られているからそれ程でもない……というか、腫れ物に触るように扱われているから、大丈夫だったりするのかも。
「シェリー様、ご理解頂き有難うございます。そういうことですので、食事をしながら早速特別授業の予定を立てさせて頂きたいと存じます」
いや、私はまだ何も了解していないのですけど。
「そうですね。私は今日の夕方であれば予定がありませんね」
えっ、何でシェリー様の予定がそこで出てくるの?
「「はい?」」
リリアーナ様の高音が効いた声と私が綺麗にハモった。
「私もそのお勉強に参加することは昨日述べたとおりです。ですから当然そこにいるものだと思っておりますが、何かありますか」
無茶苦茶悪戯っぽい笑みを必死で隠そうとしながら、言葉だけはしれっと発してきます。
この人、実は性格が捻くれているのかも知れません。
「別に何もありませんが……それよりもリリアーナ様の予定もありますでしょうに」
「ワタクシも本日であれば対応させて頂きます。お師匠様、どうかよろしくお願いいたします」
こうして、高位貴族令嬢二人を相手に付与魔法の特別授業をすることが決まりました。
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