第18話 : 王女の性格

「私をアンジェ様の弟子にして頂きたいのですが」


 この唐突な弟子入り志願は何なのでしょう。朝方は私のことをあれ程非難していたというのに。


「それはどういう意味でしょうか」

「そのままの意味です。私に魔法を教えて頂きたいのです」


 私は誰かに物を教えたことはありませんし、教える自信もありません。

 困ってシェリー様を見れば、どこか意地悪そうな微笑みを浮かべながら「私は何も知りませんよ」という素振りを見せています。

 だいたいこれからエミーニア先生の個別指導がありますし、その後は自室で予習復習をしなければなりません。そもそも一般教養などは他の皆様と天と地ほどの差があるのですから学びをサボる訳にはいかないのです。当然教える時間は限られてきます。

 いずれにせよ『祝祭の聖女』の存在を知られてはマズいので、簡単に返答ができないのです。


「お話は承知いたしました。この件については私の一存で決められないこともありますので、少しお時間を頂けますでしょうか」

「決められないことと言うのは勉強をする場所でしょうか。それでしたら私が何とか致します。時間のことであればアンジェ様の都合に合わせます」


 彼女は私に苦言を呈してきた時もそうですけど、こうと思ったら一直線に突っ走るタイプの人なのでしょう。結構強引な方のようですど、ここで押し切られる訳にはいきません。


「そう言われましても、私も自分一人で全てを決められる立場ではありませんので」

「それでしたら関係者の方を私が説得すればよろしいのでしょうか」


 関係者って……エミーニア先生や王様のことを知られたら、私が終わってしまいます。


「リリアーナ、アンジェが困っていますよ」


 ここでシェリー様が助け船を出してくれます。


「シェリー様、私は本気で魔法を学びたいのです」

「貴女の本気は分かりますが、誰かに学ぶなら教えてくれる側の都合を優先すべきです。私達高位貴族は謙虚であるべきだと父上がいつも言われているのを存じませんか」

「それは……」


 さすがに王女様は格が違います。王様の言葉を出せばリリアーナ様は黙るしかありません。


「ですが」


 ん、続きがあるのですか?


「私も今日の授業でまだまだ未熟者だとよく理解しました。そこでアンジェに提案があります。私とリリアーナの二人に魔法を教えて頂けますでしょうか。場所は私が校長先生にお願いして手配します。それとアンジェは勿論本物の先生ではありませんから、お目付役の先生にいらっしゃって頂ければ間違いもないことと思います。如何でしょうか」


 如何でしょうかって、これ、詰んでいる案件ですよね。

 教室が何とかなるのは当然として、お目付役だって私が今エミーニア先生に個別指導を受けていることを知っているのですから、彼女をそのまま連れてくれば良いだけの話です。学校側も王女様の勉強のためとなれば拒否はできないでしょうし。


「場所と先生を手配頂けるのであればかまいませんが」

「そう言って頂けるものと思っておりましたわ」


 いたずらが成功したと言わんばかりの笑みを浮かべて、シェリー様が早速手配しましょうと言ってその場を去って行きました。

 リリアーナ様もそれについて行ってしまい、私だけがその場でどうしたものかと立ち尽くすのでした。


「嵌められましたね。アンジェ様、貴女も人が良い」


 私の護衛として影で一部始終を見ていたであろうジョナさんが声を掛けてきます。


「ああ見えてシェリー様はイタズラが好きですから」


 イタズラで済めば良いのですけどね。

『祝祭の聖女』であることが分かってしまったらどうするつもりなのだろうと考えているうちに相談室へ行く時間になりました。


 私からもエミーニア先生に話をしておかなければならないでしょう。

 憂鬱です。

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