第17話 : 公爵令嬢の願い
「見ておくように」
先生は目の前にある二十センチほどの短剣で十センチ角ほどの材木を刺しています。が、硬いのか、ほんの数ミリ沈むだけです。
それからこの剣に魔力付与をします。無詠唱ですけど、剣の輝きが少し増したように感じます。
「こういうことが出来るようになる」
剣が伸びました!刃渡りが倍以上になり、同時に自らがほんのり光っています。それを軽く木に当てるとスパッ!と音がしそうな程簡単に木が切れました。
「平地での戦闘だけでなく、森林でも相手の隠れ場所をなくしたり、野営の場所を作ったりと応用が利く。もちろん戦場そのものでも」
それから私達も目の前に置かれた短剣でそれを練習してみます。
もちろんそんな簡単にはいきません。
魔法はイメージの世界ですから、剣を前にしてこの木を切るためには剣がどういう性質を与えれば先生のように切れるかを考えるところから始めます。
先生からは先ず刃の状態を思い浮かべ、それから硬化や伸張を付与するようにイメージして欲しいと言われました。
私はエミーニア先生から教えられていますし、範囲魔法で複数の剣に同時に魔力付与ができるようにもなっています。そんなことができるのは『祝祭の聖女』だけだと言われていますが。
こういう場合目立ってはいけないので、力を最小限に抑えなくてはいけません。
「ハアハア……こんな感じでしょうか」
何度目かの挑戦で明らかにリリアーナ様は疲れています。私が感知できる彼女の魔力は決して少なくないですけど、恐らくはイメージするのが苦手なのでしょう。集中力がないとも言われそうですけど。
「どれ……これじゃ合格点に届かないね」
何もしない状態よりは深く剣が刺さりますけど、木の板が切れる訳ではありません。シェリー様も同様です。
「アンジェ、やってごらんなさい」
お二人と同程度で抑えようと魔力をあまり込めないようにします。イメージだけはしっかり作るために普段はしない詠唱を軽くします。
詠唱は魔法を発動させるための絶対条件ではなく、イメージを作るために集中できるようにする言葉です。だからどんな言葉でも構いません。
『硬く、岩をも切れるごとく硬く』
イメージは木ではなくて岩です。こうして木よりも堅い物を切るようにしているという必死さを出します。あざといやり方ですが妙な疑念は持たれないでしょう。もっと言えば魔法を習っている段階では岩を切るつもりで魔力を使っても木に切り込みを入れられるくらいがやっとだと思います。
あれ?
軽い力で板に刃を当てれば貫通してしまい、それを引いたら板が切れてしまいました。
私だって魔法を使い慣れていないとはいえ、その力は抑えているはずなのですけど。
「見事ね。布への魔力付与の件といい貴女には才能がありそうね。今まで自分の国で相当練習したのかしら」
いや、これは自分でも想定外です。目立たないようにしようと思っていたのにこんなことになるなんて……どうやって答えれば良いか全くわかりません。
「あ、はい、自分の国で少し習いました」
これ以上ヘタに返すのは危険だと自分の脳が警報を出しています。
「そう、貴女くらいの能力があるのならいずれ私の代わりにここで教えられそうね。王城でも働けそうだけど」
あまり余計なことは言わないで欲しいです。実際学校を卒業したら王城で働くように王様からは言われています。教会からも王城と兼業で良いから仕事をして欲しいと言われているので今の言葉がシャレになっていないことは確定しているのです。
「このままきちんと勉強してね」
そう言われて私の実技は終了しました。
呆気ないけど、仕方がない……リリアーナ様の視線が痛いです。
「あの……アンジェ様にお願いがあるのですが」
授業が終わり、エミーニア先生の個別指導に向かおうとしているとリリアーナ様が訴えるような眼差しで語りかけてきます。
「どのようなことでしょうか」
高位貴族の言葉を無視するなんて不敬なことはとてもできません。が……
「私をアンジェ様の弟子にして頂きたいのですが」
はぁ?
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