第16話 : 付与系魔法

 改めてヴァンゲル様兄妹に対峙しました。

 私の隣には王子様と王女様がそれぞれ座っています。この人達も午後の実技があるはずなのに……


「アンジェ様、妹が王家直々の食客に無礼を働いたことをご容赦願いたい」

「改めてお詫び致します。お怒りとは存じますがお鎮め下さい」


 私達の対面で、深々と頭を下げられます。

 貴族にとってはとても屈辱的な行為だと理解しているので、それ以上何かを求める気はサラサラありませんし、この二人が考えるほど怒ってもいません。


「全て承知いたしました。頭をお上げ下さい」


 こういう場面に全然慣れていないからとにかく早く終わらせたいです。


「アンジェがそう言っているのだから、これで終わりにしよう」


 王子様の一言で顔を上げた二人、特にリリアーナ様はぽろぽろと涙を流しています。余程の屈辱を感じたのだろうと思うと同情したくなる部分もあります。

 降って湧いたような私の存在なんか知らなくても当然ですから、王家の態度を見ていれば面白くないのは事実でしょう。本当ならもう少し私のことを調べてから文句を言うべきだったとは思いますが……この涙を見るに付け、どこかで行動を抑えきれない方なのでしょう。そういう性格であれば致し方ない部分はあるとも納得します。


「ベルスト様、ありがとうございます」



 二人の謝罪は数分で終了しました。皆午後の授業があるのでそれぞれの教室に赴いていく……のですが、私の教室には何故かシェリー様とリリアーナ様が。


「私も付与系魔法の使い手ですから」


 シェリー様が微笑みながら言うと、


「私も……です」


 気まずそうにリリアーナ様がそう言われます。

 そして、この場にいるのはこの三人のみ。付与系の魔法が使える者は少ないとのこと。


「それでは、早速授業を始めよう。まずはこれまでの復習からだ」


 復習と言っても私は初めて習うのですが……などとは言えず、昨日のこともあるのでエミーニア先生から習った座学だけでも何とか対応できるだろうと思いながら、イアリス先生の指導を受けることになりました。


「ここにある布に防火と強化を施してみなさい」


 目の前には何の変哲もない白い布が一枚置かれています。

 それに各々の特性を付与するのだそうです。


 布に対して火に耐えるイメージをしながら魔力を流し込みます。ある程度の感触があってから、今度は破れないことをイメージしながら先程よりも少しだけ強く魔力を掛けます。


 先生が空中に火を起こします。基本中の基本の魔法ですけど、先生の火はバーナーのように細くて強いもので、かなりの温度なのだと分かります。さすがは先生だと感心していると、私の布にその火を向けてきます。


「ふむ、基礎はしっかりできている。アンジェ、貴女は良い先生に学んだようだね」


 一分ほど火を当てられていましたが、僅かに変色がわかる程度です。

 その後、その部分を手で引き裂こうとしてもびくともしません。

 先生は満足げな顔をして同様にリリアーナ様とシェリー様が魔力を流した布に火を当て、引き裂く力を掛けていきます。

 リリアーナ様の布は燃えることはなくても焦げ目が付いていて、簡単に手で引きちぎれてしまいました。シェリー様のそれも薄い焦げ目があり、手で引き裂かれてしまいます。


「リリアーナ、シェリー、防火の基礎はまあまあだが、強化はまだまだだね……家で復習はしているだろう」

「申し訳ございません。なかなか時間が取れませんでした」

「貴族の暮らしは理解している。お付き合いや領地経営などの勉強もあるだろうが、いつも言うように毎日の鍛錬がないと上手に魔法が使えない。いざという時に役立たない魔法は意味がない」


 王家だろうと上位貴族だろうと先生は手厳しいです。



「これから暫くの間武具への魔力付与を実習する。攻撃能力や防御能力を強化するもので、兵士や護衛の命に関わることだからしっかり学ぶように」


 昨年度までは衣類や農具などへの魔力付与を中心としてきたそうです。命に関わるものではないし、何度でも練習できたのですが、武具となるとそうはいかないとのこと。

 一発勝負だし、失敗すれば自らの護衛が襲われた場合など自身の命も危なくなる言われました。


 早速、短剣に魔力付与をすることから実技が始まったのです。

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