第15話 : 公爵令嬢の謝罪
お昼からローストボークが出てきます。
昨日は前菜だけで感動してしまい、メインの魚料理が霞んでしまていました。
シェフに申し訳ないことをしたと思い、今日はメインディッシュをしっかり味わおうと意気込んでいたのですが……
「あの……先程は失礼致しました」
リリアーナ様が私達に向かって頭を下げてきます。
公爵令嬢が頭を下げるなんて尋常なことではありません。
そして……
「私からもお詫びする。妹の無礼を容赦願いたい。このとおりだ」
その隣にスラリとした長身の男性が立っています。ベルスト様に負けず劣らず凜々しく、姿勢がとても美しい方です。その方までも私達に頭を下げてきますが──さっきリリアーナ様を妹と言っていました──ということはこの人は公爵家のご令息になるのでしょうか。
そんな人達が揃って頭を下げてくるのはかなり問題ではないでしょうか。
原因は先方にあるとは言え、今ここで頭を下げることが適当とも思いません。人が少ない場所であっても人目はあるのです。
「頭をお上げ下さい」
「ヴァンゲル、場所を弁えて」
ベルスト様がこの場を収めようとヴァンゲル様を止めます。
それにしても、先程の話だと王様に話を通すとは言って頂きましたが、いくらなんでも学校で学んでいる最中にこれ程早くリリアーナ様に話した伝わる訳がありません。
「ともかく一旦落ち着いてください。お食事の後で話を伺いますので」
「わかりました。では後ほど。応接室を借りておきますのでそちらまでご足労ください」
ヴァンゲル様がもう一度軽く頭を下げてこの場を離れました。
私は訳が分からなかったのですけど、ベルスト様はどこか納得した様子で食事を続けようと言ってくれました。
「恐らくは……と言うよりも間違いなくかな」
語ってくれたのは高位貴族には学校であっても各家から護衛が付くことです。護衛には対話系魔法に秀でた者がいて、その方が念話で公爵家にリリアーナ様がやったことを報告したのではないかということでした。
公爵様本人が王家に詫びを入れに行かれ、恐らくは私のことを『祝祭の聖女』か王家の食客だと教えられて慌ててヴァンゲル様共々やって来たのだろうと。
なにせ『祝祭の聖女』は格としては王様の次に来ることになっているのですし、食客とあれば王子様達とほぼ同列の扱いになるため序列と体面を重んじる貴族であれば途方もない無礼を働いたことになるそうです。謝るのならば早いほうが良いと判断して護衛の方を通じて謝罪に行けと言われたというのが真相だろうと言われました。
貴族の方々がそういう細々としたことを気にする気持ちは最近ちょっとだけ理解できるようになりましたけど、私からすればさほど大したことではないと思っています。
教会の施設で暮らしていれば蔑んだ眼で見られることは何度もありましたし、それを気にしていたら生きてなんかいられません。序列や権威がどうだろうと今日食べるご飯さえあればそれで充分だったのです。
「あの……私はリリアーナ様の件を全く気にしておりませんので」
「そういう訳にもいかないさ」
「この問題の発端は私にあります。私がいなければかようなことも起きなかったかと」
「それは違う。リリアーナの意識の問題だ。貴族は選民意識を持つなと父上がいつも言っていることを彼女が理解していなかったことが問題なのだ」
そう言われると王様の言葉に反旗を翻すこともできません。
どこか重々しい空気の中で食べるお料理はどんな味だかよくわからず……その時、大事なことを忘れていたことに気が付きました。
私には放課後というものがないのです。応接室を借りて頂いても、午後は付与系魔法の実技がありますし、それが終われば指導室で追加の実技演習が待っています。しかも今日は初めての先生が来られると言うことなので休む訳にはいきません。とは言え、公爵様のご令息を袖にはできませんし。
「アンジェ、僕も一緒に午後の授業に少し遅れるからと先生に話しに行くよ」
「そんな!ベルスト様にご迷惑を掛けることはでき「大丈夫さ」」
言葉を重ねるのは無礼じゃ……王子様だから諫める訳にもいかず、結局少し急いで食事を終わらせ、担当のグリード先生の所に一緒に顔を出すことになりました。
もちろん、結果はこちらの望んだとおり。王子様の力は絶大です。
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