第14話 : 公爵令嬢との出会い
ジョナさんと一緒に登校すると校舎の入り口で二人の女性が立っていました。
「アンジェさん、ごきげんよう」
「皆様、ごきげんよう」
本来なら名前で呼ぶところでしょうけど、私は人の顔と名前を覚えるのが大の苦手なので無礼を承知で挨拶を返します。が、この女性達は……
「時間がないから短く訊くわ。貴女は王家とどういう関係なの?」
「どういう、とは」
「第三王子様と第二王女様。あのお二人自ら話しかけられる人物の中に貴女の情報はなくてよ」
うん、こういうの面倒くさい。だから貴族の面々と一緒になるのは嫌だったのです。
もっとも、この問いは必ず受けるであろうからと答えは用意してあります。
「私のお爺さまと前の国王様がお知り合いでしたの。そのご縁でお二方を存じておりました」
「貴女のお爺さまですって!」
「アンジェ様、こちらですと他の方のご迷惑に……」
ジョナさん、アシストありがとうございます。
「あとでまた話をするから、覚えておきなさい」
捨て台詞なんか吐かなければ良いのに。
「アンジェ、今朝何があった」
流石に王族は耳が早いです。授業開始前にベルスト様が小声でそう訊いてきます。
些細なことだから誤魔化しても良いのですけど、放っておけばこの手のことはエスカレートするでしょう。最初が肝心だと思い、簡単に起きたことを説明しました。
「そうか……対応は任せてくれ」
相手が誰かを言っていないのにそう言う言葉が出てくるということは、恐らく学校に常時護衛がいるのでしょう。王子様ともなればそれも当然かと思います。授業中に刺客が忍び込んだなどという事態はシャレになりませんから。
そうは言っても……
「貴女、ベルスト様と距離が近すぎませんこと」
まだ私に何か言って来る人はいます。彼女は確かリリアーナさん。王家と姻戚関係にある公爵令嬢だったと記憶しています。
目の前に王子様がいるというのに堂々と私の所にやって来ています。
彼女の席は王子様を挟んだ私の反対側にあります。ライムグリーンの髪は貴族の娘にしては珍しくショートヘアにしていて、耳元で内側に大きなアールを描いています。
それが印象に残っていて名前を覚えていたのです。
「リリアーナ、彼女のことはあとでゆっくり話すよ」
私に代わりベルスト様が対応してくれます。
「そうしてくださいませ、と言いたいところですけど、私はアンジェに問うているのです。貴女、王族との距離感を弁えなさい。ベルスト様には王城でしっかり説明してもらいますからね」
さすがは王子様と言いたいところですが、その様な方に圧を掛けられる公爵令嬢も大した者です。そういう方がいる場所だと言うことを改めて知りました。
「アンジェ、すまなかったね」
昼食は昨日同様特別食堂で三人で摂ることになりました。
目立つ行為はしたくないのですけど、お二人から気にすることはないと言われれば断れません。
教会にいた頃は上下関係なんかどこにもなくて、皆でワイワイと食事をして、食べる順番も食器の使い方も適当で良かったのです。
パン一つ食べるのに緊張する世界なんて想像したこともなかったのですが、今やちょっとした話をするだけでも周りから注目されるなんて……こんな息苦しい世界を当たり前に感じる日々が訪れるのでしょうか。
「朝の件だけど、既に手配はしておいたから」
既に彼女達を特定していて、王様から注意を促すそうです。
王家のレターヘッド入りの手紙が届けば、流石にそう言うことはしないだろうと。ただし、リリアーナ様は別で王様が直々に公爵様に告げられるとのことです。
王様と公爵様は再従兄弟の関係で、流石に紙一枚での対応は王様と言えど難しいらしいと言われました。
ここでこんな風にお話をしているとまた誰かに言われそうだと思いますけど、王家が後ろ盾にいると知れば生徒の家の方で子供達のことを対応せざるを得ないと言います。
貴族やお金持ちの世界では王家は絶対ですし、現国王は国民からの支持も厚いので迂闊に反旗も翻せない──怖い世界だと思います。
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