第13話 : 夕食の風景

 実技の授業が終わればそこで今日の授業が終わる……私だけは違いました。


 全系統の魔法が使えると言うことは、全系統に対しての魔力制御ができてないといけないからそこは実践で覚えていかないといけません。

 なので、普段から使っている「指導室」が今度は実技指導を受ける場所になり、完全下校時刻まで特訓を受けます。課外活動をしている時間は与えられていないのです。


 エミーニア先生が引き続いて受け持ってくれるのですが、先生に使えない、あるいは苦手な系統の魔法もあります。そんな時は特別扱いの途中編入という事情を知っている先生が担当してくれるそうです。


 で、今は防御系魔法の代表である結界を張る練習をしています。

 結界は魔方陣の術式を覚えた上でそこに魔力を流し込むのですけど、術式によって防げる物が違い、あらゆる攻撃を弾くものから味方の攻撃だけは透過するもの、更には地上だけではなく地下にまで結界を張れるものさえあると言われます。


 小規模な結界は魔方陣なしの無詠唱でもできるそうですが、小さな街を守る程度のものになると魔方陣が必須になるのでそれを覚えなければいけません。

 自分自身に記憶力強化の魔法でも使えれば良いのですが……生憎とそういうものは存在しないのです。


「ハア、ハア」


 小規模の結界でも魔力消費はそれなりにあります。

 私自身は大量の魔力を保有しているはずですけど、制御がうまくできていないので、その消費が激しいのです。十分もそれを維持していると頭がふらふらしてしまいます。


『祝祭の聖女』となれば王都全域に展開する結界も必要になる時があると言われ、これではとても無理だと思ってしまいました。


「効率よく魔力を制御しないと自分一人だって守れないわ」


 魔力制御は基本の基であるからとにかく練習をしようと言うことになり、課題に対する対策を教えられ自宅に戻りました。



「おかえりなさいませ」


 護衛をしているジョナさんと一緒に家に入れば香草系のとても良い匂いがしています。

 迎えてくれたのはジョナさんと一緒にメイドをしてくれているレイピアさん。彼女は家事全般をほぼ完璧にこなしてくれています。


 着替えを済ませて食堂に行くと鶏肉と月桂樹の香りがそこに漂っています。


「学生生活初日ですからお嬢様の好物を用意いたしました」


 テーブルにある鶏肉とタマネギの煮込みは私の大好物です。

 食事はいつも一汁一菜と決めていて、これは魔獣の討伐遠征などに同行することも想定して質素第一を心がけているのです。


「食事にいたしましょう」


 本物の上流階級ならばメイドが主と一緒に食事を摂ることなぞ論外の行動なのでしょうが、私はそんなことを一切気にしないというか誰かとワイワイ食べたいのです。

 貴族社会の中ではマナーが無茶苦茶大事だと言うことは勿論理解しています。

 とは言え、家の中でもそんなことをしていたら私は息が詰まってしまうので、ここではいつも大皿で皆が好きなだけ食べられるようにしてあります。最初の頃はジョナさんから指摘を受けましたけど、今は二人とも納得していて、教会奴隷だった頃のように誰かと話をしながらの食事を楽しんでいます。


 今日一日の出来事を話題にしていたら、レイピアさんが真顔で「学校も王族との距離感を考えればよろしいのに」と言っていました。

 私も同感で、午前中の気疲れはかなりのものでした。

 勉強さえできれば私としては王族との繋がりはそれ程必要なく、いつか『祝祭の聖女』としての活躍が求められる日のため魔法を使いこなせるようになればあとはどうでも良いのです。


「そのとおりですけど、王家の事情もわかりますし」


 ジョナさんが珍しく難しい顔をしました。


「『祝祭の聖女』は国王に次ぐ地位と定められていますから無碍には扱えないかと」

「半年前の私は教会奴隷だったので、そういう処遇は慣れません」

「そうは言っても、あの魔導紙の変化は事実ですし、実際アンジェ様は全系統の魔法が使えていますから」


 諦めるしかないのでしょうか。

 明日も皆から視線を浴びるのかと思うと一気に気が重くなります。

 実感はないですけど『祝祭の聖女』がそれじゃダメなのだろうと思いながらベッドに身体を投げ出しました。

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