第7話 : クラスメイトは王子と王女
フカフカのベッドで眠り心地抜群のはずが。「覚悟」の言葉が忘れられずになかなか寝付けず、正直寝不足です。
本日から本格的に勉強が始まりました。
場所は学校の「指導室」なる部屋で、本来なら何らかの問題を抱えた生徒との面談などを行う場所なのだそうです。
目の前には教科書がズラリと並んでいます。
取り敢えず一読して、わからない部分に付箋を挟むようにと言われました。
読むだけでも大変だと思いきや、案外スラスラと頭に入ってきます。
教会で読み書きなどを習っていたお蔭でしょう。場所柄娯楽らしい物事がある筈もないので、時間があれば読書をしていましたから、そこそこの知識が付いていた自覚はあります。
一番引っかかったのは算数と理科、特に化学です。
四則演算はできても、方程式だの関数だのは全くわかりません。塩酸や硫酸と言われてもどんな物だか想像も付かないのでした。
どこがわかならいかが分かるだけで十日間は費やしています。因みに休日はありません。
学校が休みの日は勿論あるのですけど、とんでもない量の宿題があり、その上で半日はエミーニア先生が私の家を訪れて補習までしてくれています。
先生曰く、私の勉強の成果により自分のこれからの処遇が決まるとのこと。だから私も必死で教えるから聖女様も努力して欲しいと真剣な眼差しで言われました。
先生の教え方が上手いのでしょう。二十日を過ぎたあたりから徐々に自信が持てるようになってきました。
「教会で勉強してきたことが役に立っているのね。正直、一ヶ月でここまで出来るようになるとは思わなかったわ」
いつもはゆるふわの格好で学校に居る先生が、今日に限り綺麗な浅葱色のパンツスーツを着ています。ボディラインがわかるものですが、ジョナさんと比べても胸のあたりを別にすれば遜色ないプロポーションをしています。足がとても長く、短足寸胴平面体形の私とはえらい違いです。
これから私の成果について校長先生まで報告に行き、正式にクラスの授業へ移行する確認を取るのだそうです。それから……
「『祝祭の聖女』よ。我の期待以上の成果を出したと聞いた。これからも励んでくれ」
どうして王城まで、それも学生服のまま行くのでしょうか。一応ドレスと言えばドレスではありますけど。
しかも多忙なはずの陛下に報告ってあり得ない話でしょうに。
「承知いたしました。これからも勉学に励みます」
これ以外の台詞を言えるはずもありません。
「聖女様、お疲れまでした」
控え室に居たジョナさんが慰労の言葉を掛けてくれますが、勉強疲れよりも気疲れが激しいです。
取り敢えず家で休むかと控え室を後にしようとしたら、扉をノックして入ってくる人がいました。
「『祝祭の聖女』様、はじめまして。第三王子のベルストと申します。こちらは双子の妹、第二王女のシェリーです。明日からはクラスメイトとなりますので宜しくお願いいたします」
そこに居たのは荘厳な騎士服からもはっきり分かる鍛え抜かれた筋肉を持つイケメンとカワイイ美少女オーラを全開に放つピンクのドレス姿の女性です。それにしても王子って……王族がわざわざ挨拶に来るものなでしょうか。しかも先方から頭を下げていますし。
「聖女様は明日から学友となります。王族特権と言ってはマズいのでしょうが、一足早く顔を覚えておいて頂きたくこちらに参りました」
いや、私なんか学友どころか教室の片隅で縮こまっていなければいけない存在なのに。
だいたい暫くの間は『祝祭の聖女』だということも秘匿されていなければいけないはずですし、王族と知り合いだなどということはあってはならないことでしょう。
そもそも敬語を使われるなんて事があって良いわけがありません。
「ベルスト様、シェリー様、頭をお上げください。平民の私にそのような態度をされると困ってしまいます」
「いえ、貴女様は『祝祭の聖女』様ですから、国王である父以外には誰も上に立てる者ではありません」
再度頭を深く下げられます。
恐らく自分以外に対してこんな風に頭を下げることはないのだろうなと思いながら、このままの状態では学校へ通える訳がないと思い、私が『祝祭の聖女』であることを口外しないことと、聖女ではなくアンジェと名前呼びして欲しいこと、それと敬語を使うことは遠慮してもらうことを伝え、お引き取り頂いたのでした。
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