第8話 :(幕間)あるフェニックスの回想

「ここは……」


 時空間魔法を使ってC-1052という宇宙空間まで飛んだはずなのに、ここはどこかおかしい。

 到着する予定だった場所では魔法が存在しないはずなのに、ここには魔法の素となる魔素が溢れている。


 なぜ……


 考えられる原因は一つしかない。自分自身間違えた空間に対して転移したことだ。


 あらゆる世界を統括して管理する「大神おおがみ様」の配下として、俺達不死鳥フェニックスは活動している。

 世界には多数の宇宙があり、互いを知ることなしにパラレルワールドとして存在している。


 俺達はその個々の宇宙の管理を行っている。

 宇宙は広大だというのは相対的なもので、俺達にとっては箱庭のようなものでしかないのだが、この監視を怠るとそれぞれのパワーバランスが崩れ、その結果、世界そのものを崩壊させかねない。それは大神様と俺達の消滅を意味している。


 俺達が監視をし、大神様による重力の制御や星の創造と消滅などにより世界のバランスを保っているのだ。


 大神様からの命令で今回はC-1502へ転移し、状況を確認後、幾つかの星団を間引くはずだったのに間違ってこの空間に来てしまったようだった。

 指示された宇宙に行かないとバランスが崩れて大事になる!

 そう思ったのだが、身体に力が入らない。転移の際に想定外の魔力を使ってしまったようだ。


「かわいいけど……」


 間違った転移先でどうしたものかと悩んでいると、若い女性の声がした。

 誰かに見つかるとは!

 俺達の仕事は絶対に誰かに知られてはいけない。世界の管理者であることがわかると俺達を捉えようとする者や大神様と近づきたくなる連中が必ず出てくるから、そうならないよう世界から秘匿された存在でなければならないのだ。


 とは言え、見つかってしまったのは事実だし、動こうとしてもその力が湧いてこない。

 俺自身がここで消滅するのはかまわないが、世界そのものが崩壊するのはマズいなと思っていたら、彼女がスープを持ってきてくれた。

 殆ど味がしない薄い白色のそれは、とても柔らかな舌触りで、数口吸い上げると体中からエネルギーが湧き出してくる。


 これで少しでも羽ばたければ目的の世界への転移が可能になるだろう。

 自分の過ちをこうやって助けてくれる存在がいることに深く感謝をした。


「貴女は世界を救った英雄だよ」そう言ってあげたかったが、その時間すら惜しかった。

 だからお礼に尾羽根を一枚置いてきた。


 私達の羽根には持った者がその世界に存在する力を増強し、自身の生命力を上げる能力がある。その中でも尾羽根は最上の効果を現す。

 これに触れるだけでその効果が一生続くのだから、謝礼としてはまあまあ妥当なものだろう。

 ただし効果はそれを最初に持った者にしか発動しないから、宇宙のパワーバランスには影響しないはずだ……たぶんだけど。



 C-1052での任務を終え、大神様の前に報告に行く。

 大神様は白色の光りに包まれていて、そこに意志があるのは分かるけど、本当の存在は誰も見たことがない。


「今回の失態は大目に見るが、次回はないと心得よ」


 俺のドジはしっかりと補足されていたようだ。


「それと『祝祭の聖女』を生み出したな。あれは……」


 言葉途中で光が消えてしまった。

 どうせいつもどおり腹が減ったとか、UHK(宇宙放送協会)の好きな番組が始まるとか、そんな理由でいなくなったのだろう。


『祝祭の聖女』ね、確か間違えて行った宇宙ではそんな伝説的英雄が遙か昔にいたと言うことを聞いたような気がする。


 ともあれ、危機は無事に脱したのだ。

 次に向かうのはY-319848か。少し遠いなと思いながら、俺は転移魔方陣を拡げた。

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