第18話 趣味の範疇外

突然の対応は事実得意ではない。そうだからこそ考えられる可能性全てを潰していたつもりだった。

対応策を考えるにもシャッターに集中していると頭が働かない。

マルチタスクはどちらをも曖昧にするだけだ。

なんてそんな無駄なことをも考え始め、冷静さを失い始めた中、急に、なぜか頭がすっきりした。

そうするのが当たり前かのように、こう言い放った。

「_櫻良、伏せろ。」

一瞬戸惑ったが、すぐに櫻良は行動に移した。

「…切影。」

パシャカシャカッピシャカシャッ。

色んな音が響き、沢山の音が共鳴した。

気が付けば、研究室という魔敵イニミコスの巣窟は空っぽになっていた。

これを見て、妹は戸惑いながらもはっとして、

「お、お兄ちゃん!早く出るよ!!」

自分の見ている世界に疑いを持ちながら、僕は研究室を後にした。


「お、兄ちゃん、であってるよね…?」

そういう櫻良の顔色はどこかおかしくて。

「そうだけど、なんで疑ってるんだ…?」

「あのとき、目が変だったの。普段じゃ絶対ありえないような、怖くて冷淡な目だった。それに、切影って、なに?お兄ちゃんはいつから、そんな能力があったの?」

「なにって、切影は切影で_

カメラで対象を空間から切り取る能力は切影って略してるだけで_」

「違うの、違うよお兄ちゃん…。アリエボで能力見てみてよ…。

"カメラに移した対象を空間から削り取る能力"って書いてるよね?」

「それがどうした?それが長いから略しただけで_」

「それがおかしいって言ってるの!!趣味ウェポンは確かに、手に入れた段階で自分の能力を知る手段はない。でも、能力を得た状態でさらに経験値を得ると、元々当たり前だったかのように能力の名前と詳細を体が覚えるの。そして能力の発動には、能力の固有名詞を宣言する必要があるの…。」

「それは教場で習ったからわかってるよ。流石にそのくらい…」

「だったら!!だったらなんで"切影"って言ってリンプリザートを切り取ることができたの…」

その嘆きに対する答えを言うことができなかった。

なぜなら自分にもそれがわからないからだ。

そんなこと、分かってたのに、なぜ認めなかったのだろう。

ただ認めたくなかっただけなのだろうか。

でも、当たり前のように"切影"ができたのは事実で。

あれ、そもそも"切影"ってなんだっけ。

切り取る、撮影の複合語かな。

ただ、どうしても、なぜ"切影"ができたのか。それだけはどうしてもわからなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る