第14話―謀殺―

それは予期せぬ人物が舞い込んできた。

稲生(いのう)の戦いで対立していたはずの将のひとりである柴田勝家である。


「急ぎの用事があると聞いたが何が起きた」


「一大事であります殿。

それがしの口では恐れ多いことでありますが……

忠誠を示すため、これから身を粉にいたします。

また織田信行(のぶゆき)が戦いを企てています」


「くわだてている?だと……どういうことだ。

勘十郎(かんじゅうろう)が凝りもせずに戦おうというのか」


驚きはなかった。

いずれこうなるだろうと予見はしていたがこうも

進めていることに呆れを禁じえなかった。

額を抑えながら信長は嘆息しているのを柴田勝家は

頭を下げたまま上げることなく述べようとする。


「はっ、その通りであります。

確証たる証拠は見て聴きましたのです。

まずは対抗するに戦力を補充もままならないためか岩倉城でいる織田信安と通じております」


「のぶやす……であるか。

それが事実であるなら許せぬな」


「それだけではなく信長様が管轄する篠木しのぎ三郷さんごうを支配しようと練ってもおりました」


米などを収穫の利点があり信長の弟である信行はそこを我がものにせんと考えていたと信長公記で

そう策略をめぐらしていた。

篠木三郷を手にするために。


「これが本当なら。

解せぬのは勘十郎をわざわざ密告しておいて貴様の腹の内側がどうであるかもなぁ。

どうして報せたのだ?これではこの織田信長に

大義名分を与えて攻撃する材料を与えるのは」


「蔑ろにしたからです」


「ないがしろだと?どういうことだ」


「頑張って働きました。

しかし……くっ。信行は津々木蔵人つづきくらんどというイケメンをラブラブなのです。

趣味の鷹狩と衆道は珍しい事でも無いのですが」


いわゆる男色である。

敗北した織田信行は大変その津々木蔵人を気にいていたらしく優れた武士をその男色の相手に付かせたのだ。

奮戦して忠節をもって支えていた柴田勝家が見限るにはやり過ぎた。


「そうか。もうでて行くといい。

処遇はこちらで決めさせてもらう」


「はッ!」


粛々とした振る舞い、鬼のような顔面をした武士が退室して出ていくのを眺める。

廊下を歩いていき足音が聞こえなくなってから信長は家臣を呼ぶ。


「突然であるが黒母衣衆(くろほろしゅう)のリーダーである河尻秀隆(かわじりひでたか)をここへ呼びに向かってくれたまえ」


「承知ッ!」


「さて調査も必要だな」


――1557年の11月。清洲城(きよすじょう)で信長は病を伏していると噂がたちどころに広まる。

崩したと知る織田信行は看病ために行こうか悩んでいた。

しかし母などから勧められて赴くことになる。

そして北の櫓の間を進んでいると刺客が襲いかかってくる。


「お命を頂戴いたす


「おまえは黒母衣衆とかの河尻とかの奴か。

……それで殺すのか」


「いえ令和の世です。

貴方には海外で行ってもらい表上は暗殺された。

そう報告させていただきますよ。

これは強制、貴方には拒絶してもらう選択肢はありません。それはご自身でそういう状況を招いたことに恨んでいただきたい。

信長カンパニーのために働いてもらいます。

いわゆる謀殺に等しい悪辣さである」


「そ、そうか……まあそれぐらいで済むなら。

でも暗殺したって逆にまずくないか?

思い切り事件じゃん」


待機していた家臣、信長の下知により河尻秀隆はいつ現れるかを待っていたのだ。

より信頼におけると信長はそう見るのであった。

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